脊丈せたけ)” の例文
大きな顔に大きな目鼻がついて、頬のあたりに太いしわが刻まれていた。俗にいう一寸法師だった。大人の癖に子供の脊丈せたけしかなかった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
なみの大きさの、しかも、すらりとした脊丈せたけになって、しょんぼりした肩の処へ、こう、おとがいをつけて、じっと客人の方を見向いた、その美しさ!
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
想ふにこの女子まだ十五ばかりなるべけれど、脊丈せたけ伸びて恰好かつかうなれば、行酒女神ヘエベの像の粉本とせんも似つかはしかるべし。
誠太郎は此春このはるから中学校へ行きした。すると急に脊丈せたけびてる様に思はれた。もう一二年すると声がかはる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ハムレット、ここへおすわりなさい。厭なら、そのままでいい。わしも立って話しましょう。ハムレット、大きくなったね。もう、わしと脊丈せたけが同じくらいだ。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
嫩葉わかばえ出る木々のこずえや、草のよみがえる黒土から、むせぶような瘟気いきれを発散し、寒さにおびえがちの銀子も、何となし脊丈せたけが伸びるようなよろこびを感ずるのであった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
学校の体格検査によると脊丈せたけが一年のうちに二寸五分伸びたさうです。幼いものは皆育つて行きます。
身代り (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
ぐんぐん脊丈せたけは伸びて行くのに、古い着残りしかないので、形の整わないのはもとよりのことでした。
その偶人は頭と胴と手足の三つに分けて、箱に入れてあったが、合わせると五尺二三寸の脊丈せたけになるのであった。金五郎はその時から狂人のようになって、夜も昼も暴れまわった。
偶人物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
不審ふしんといはゞ不審ふしんもたつべきながら子故こゆゑにくらきはおや眼鏡めがね運平うんぺい邪智じやちふかきこゝろにもむすめ何時いつ無邪氣むじやき子供こどもびしは脊丈せたけばかりとおもふかしやの掛念けねんすこしもなくハテなかかりしはむかしのことなりいま芳之助よしのすけなにとして愛想あいそつきぬものがあらうかむすめはまして孝心かうしんふかしおや命令いひつけることそむはずなし心配無用しんぱいむよう勘藏かんざう注意ちゆうい
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「おくんな。」とつて、やぶしたをちよこ/\とた、こゝのツばかりのをとこ脊丈せたけより横幅よこはゞはうひろいほどな、提革鞄さげかばんふるいのを、幾處いくところ結目むすびめこしらへてかたからなゝめに脊負せおうてゐる。
山の手小景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
松子さんも、この一年のうちにめつきり脊丈せたけが伸び、お昼寝して起きても、もう泣くやうなことはありませんでした。お母さんの乳も飲まなくなりました。三郎さんも大きくなりました。
身代り (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
すると急に脊丈せたけが延びて来る様に思われた。もう一二年すると声が変る。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いったいに、弟妹たちは、この兄を甘く見ている。なめているふうがある。長女は、二十六歳。いまだ嫁がず、鉄道省に通勤している。フランス語が、かなりよくできた。脊丈せたけが、五尺三寸あった。
愛と美について (新字新仮名) / 太宰治(著)
一度胸をのばしてうしろるやうにした今の様子で見れば、せさらぼうた脊丈せたけ、此のよわいにしてはと高過ぎる位なもの、すツくと立つたら、五六本ほそいのがある背戸せどはん樹立こだちほか
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)