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東軍と西軍との敵味方であった武蔵とはひどく話にが入って、主人側もおもしろげにしゃべり出し、武蔵も興に入って話にける。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
凡ての物の色が黄昏たそがれの時のやうに浮き立つて来るので、感じ易い心は直様秋の黄昏に我れ知らずけるやうな果しのない夢想に引き入れられる。
花より雨に (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「ははあ、察するところあなたは“ベニスの商人”の物語に読みけられたんだな。心配はいらんです。ここにはシャイロックは居ませんし……」
彼等はいつもその蔭に舟を流して不思議な物語にけるのである。だが、読者諸君、二人の関係を邪推してはいけない。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
向うの二階の方から聞えてくるものの音に、しんみりと聞きけっていたのが、いま目前に浮びあがって、その音曲おんぎょく色調いろねを楽しみ繰出している——
大橋須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その日彼は天幕の中で、ぼんやり物思いにけっていた。するとにわかに町の方から人々の叫び声が聞こえて来た。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
プルウストやコレットの翻訳などを読みけり、そのひまにはわが家のように部屋を掃除したり、庭石や燈籠とうろうに水を打ったりして、楽しげな毎日を送っていたが
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
先生はしきりと面白がって一人興懐にけるというようなことが常に珍らしくなかった、したがってたわいもないことにも児供こどもらしく興に乗って浮かれるようなことがあった
竹乃里人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
零下十五度の吹きさらしの中に立って、数時間も続けて仕事をするというような気力と体力とはもう再び返って来ないような気がして、心細い思いにけることもある。
雪雑記 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
もしこの男にして一家の驕奢おごりはかり、その妻には流行の先駆者たらしめ、あるいは子女をしてだらしのない娯楽ごらくけらしむることをもって、おのれの利益とみなしたならば
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
……「あ、面白かった。あんな空中戦たら滅多に見られないのに」と康子は正三に云った。正三は畳のない座敷で、ジイドの『一粒の麦もし死なずば』を読みけっているのであった。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
くれあたりに帰るらしい軍人の佐官もあった。大阪言葉を露骨に、喋々ちょうちょうと雑話にける女連もあった。父親は白い毛布を長く敷いて、傍に小さい鞄を置いて、芳子と相並んで腰を掛けた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
卒業の後東西に徂徠そらいして、日に中央の文壇に遠ざかれるのみならず、一身一家の事情のため、ほしいままに読書にけるの機会なかりしが故、有名にして人口に膾炙かいしゃせる典籍も大方は名のみ聞きて
『文学論』序 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その学生は何時いつも一人で、校舎や運動場の隅で瞑想にでもけっているようにぽつねんとしていたので、何人たれもその存在を認める者はなかったが、ただ一人Mと云う学生だけがそれを知っていた。
死体を喫う学生 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
玄鶴は彼の計画も甲野の為に看破みやぶられたのを感じた。が、ちょっとうなずいたぎり、何も言わずに狸寝入たぬきねいりをした。甲野は彼の枕もとに婦人雑誌の新年号をひろげ、何か読みけっているらしかった。
玄鶴山房 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いえにいるときもいつもよこになっては、やはり、書見しょけんけっている。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
肉の楽しみをきわめることをもって唯一の生活信条としていたこの老女怪は、後庭に房を連ねること数十、容姿端正たんせいな若者を集めて、この中にたし、その楽しみにけるにあたっては、親昵しんじつをもしりぞ
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
思わず二十数年前を思い出して感慨にけりました。
お蝶夫人 (新字新仮名) / 三浦環(著)
胡桃くるみける友鳥ともどり
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
凡ての物の色が黄昏たそがれの時のやうに浮き立つて來るので、感じ易い心は直樣秋の黄昏に我れ知らずけるやうな果しのない夢想に引き入れられる。
花より雨に (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
私が若し、もっと豊な家に生れていましたなら、金銭の力によって、色々の遊戯にけり、醜貌しゅうぼうのやるせなさを、まぎらすことが出来たでもありましょう。
人間椅子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「死ねば、おさらばを告げるこの世に、物を築いて置く気などはさらさらない。みな、飲む、買う、ける、あらゆる享楽にして、この一身をよろこばせるのだ」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして光線をいとうように二人で下宿の部屋に閉じもっている時の憂鬱さを考え、それがあたかも人生の究極絶対の法悦ででもあるかのように遊戯にける時の
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
機会おりを見つけて父と逢い、名のり合おうと意を決し、大勇猛心を振りこし、幸い手もとに残っている陰陽秘伝一巻を、朝昼夜に読みけり、人の一念岩をも通す、十二の春に意味をさと
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いへにゐるときいつよこになつては、猶且やはり書見しよけんけつてゐる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
と高氏はまた、馬上の春風におもける。——こんどの長い遍歴でいったい自分はなにを得たろうか、と。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
歴史上の暴君達がやった様なすばらしい贅沢ぜいたくや、血腥ちなまぐさい遊戯や、その他様々の楽しみにけることが出来たでありましょうが、勿論それもかなわぬ願いだとしますと、私はもう
赤い部屋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「かかる折こそ」とばかり、舎人とねりたちは、宵の早くから酒を持ち込んでいるし、上達部かんだちべたちは、宴楽にけっているし、衛府えふの小者などは、御門が閉まると、かわがわる町へ出ては、遊んで帰った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また、作句したり自由な空想に愉しみけることができる。