ほだ)” の例文
知らん間にそれにほだされなさって、——それと一つには、綿貫みたいな誰にも相手にしられんような人間の慰め物にしられるのんと
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わずかな言葉の響きや方式の新らしさにほだされて、今頃ふたたび以前と同様な拘束の世界に戻って行こうとする者はよもやもう有るまい。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
誠意にほだされる時機が来るように思えたりもするのだったが、差向いでいると、どうにも好感がもてず、「こん畜生!」とつい思うのであった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ほとんど日傭取ひようとり同様の臨時雇いになり、市中の電気器具店廻りをしていたが、ふと蒔田が同郷の中学の先輩で、その上世話好きの男なのにほだされ
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
此間このあひだガウチエと云ふ人が新しく書いた「ル・ジヤポン」と云ふ薄片うすつぺらな本を、アカデミイの一員ジヤン・エカアルの推称した序文にほだされて読んで見たが
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
貴様にはこれ/\手当をしてろうという真実にほだされて、表向ではないが、内々ない/\大藏に身を任して居ります。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
まだ出発せざる以前より深くも嬢に心をよせおのが胸中のありたけを打ち明けしも、嬢は二人の情にほだされていずれとも答えかねしが、今二人のこの申込に対し
月世界競争探検 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
玲子は思いがけなく変った母親の、親切この上もない態度にほだされたらしく、なおもシクシク泣き続けていたが、そのうちにヤットの思いで立上った。涙を拭き拭き
継子 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いくら親切にほだされても、今までは見向きもしなかつた侍従が、——と云つても相手はおれだからな。この位平中に思はれたとなれば、急に心も融けるかも知れない。
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
叔父「本統に嬉しいよ、アノ『秘書官』の著者よなア」余「エヽエヽ松谷秀子ですか」叔父「爾よ、其の松谷秀子がよ、己の親切にほだされて、到頭約束をして呉れた」
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
万に一つも聞いてもらはれたら、それから先は清さんの心次第、お前の親切にほだされて一旦かうはなつたれど、それでは小花に義理が立たぬ、これきり思ひ切れとなら
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
縁といい約束といえば、いつもほだされているように想像されるが、その中には自由はある。法悦さえ感ずることがある。そんな予感が文芸に絆された少年の心にびる。
こうなると細君も相談相手にならず親友も依頼するに足らなかったか、ついに義理にほだされて南軍についた。その決心をかたくするまでの苦心はいかにつらかったであろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そは輕々しく事を斷ずれば誤りやすく、情またいで智をほだすにいたればなり 一一八—一二〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
全然情にほだされることなく使用人を使うし、算盤を弾くし、食えない生れつきは商売を始めた親父より強そうな嘉造を見ると、朝子はいつも一種の興味と反感とを同時に覚えた。
一本の花 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
取らしたとあっては……わたしは生きている瀬がない……あの時も早う死のうと思ったに、あなたのお言葉にほだされて、生き残ったがわしゃ口惜しい! どうしよう、わしゃどうしよう?
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
ごうも慈母の撫育ぶいくことなることなく、終日そのかたわらほだされて、更に他意とてはなき模様なりしにぞ、両親はかえって安心のていにてみずから愛孫の世話をなしくるるようになり、またその愛孫の母なればとて
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
うつかりと君が言葉にほだされて………
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ほとんど日傭ひよう取り同様の臨時雇いになり、市中の電気器具店廻りをしていたが、ふと蒔田が同郷の中学の先輩で、その上世話好きの男なのにほだされ
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ひどく身を入れてくれているのにほだされて、結局そうも云い出しかねてしまったのであるが、今になれば矢張あの時めなかったことが後悔せられた。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
四幕目にキニゼイと云ふ妙な名の若侍が彌五郎の娘である許嫁いひなづけの愛情にほだされて、今宵こよひに迫る仇打かたきうち首途かどでに随分思ひ切つて非武人的に未練な所を見せる。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
それも彼の放蕩癖ほうとうへきや打算のためとばかりは言えず、枕籍ちんせきの度が重なるにつれて、ついほだされやすい人情も出て来て、いつか持株の数がえて行くのであった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
賦性豪邁なる柏軒は福山に奉職することを欲せず、兄も亦これを弟に強ふることを欲せなかつたのである。丙辰の筮仕ぜいしは柏軒が数多すうたの小事情にほだされて、忍んで命を奉じたのであつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
口ほどにもなくあのお爺さんの情愛にほだされて、此方のことなんぞ直きに忘れてしまうかも知れず、そのうちに子供でも出来るようになれば尚更なおさらである
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ところが少将は義興公の情にほだされて公の方へ心を寄せてしまった。月見の宴に事よせて討取るつもりの計画も少将がこれを諷して危険に近寄らせなかったので、佐京は怒って少将を殺した。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
僕に取つては観たくも無い博物館ミユウゼなんだが、見ず知らずの風来者にれられて来てその厚意と𤍠心を目撃すると、つい其れにほだされて、番人の妻が三度目に階上へ昇らうとする時は僕も進んで口を出し
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
優しい肌合はだあいがあるものだから、だんだんそれにほだされて抜きさしがならないようになり、持って来た物までみんなぎ込んで、裸にされて放り出されてしまったのだが
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
だから庄造もついその声にほだされて、細目に開けて覗いてみると、行李だの風呂敷包みだのいろ/\な荷物が積んである押入の、一番奥の突きあたりにある函の中から首を出して
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
だから庄造もついその声にほだされて、細目に開けて覗いてみると、行李こうりだの風呂敷包みだのいろ/\な荷物が積んである押入の、一番奥の突きあたりにある函の中から首を出して
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
だから庄造もついその声にほだされて、細目に開けてのぞいてみると、行李だの風呂敷包みだのいろいろな荷物が積んである押入の、一番奥の突きあたりにある函の中から首を出して
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
破格の好意なのであって、それは一つには、妙子が全くの「とうちゃん」でありながらくろうとに交って精進する熱心さにほだされたせいもあるが、一つには山村舞の頽勢たいせい挽回ばんかいするには
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼女があのまやかし物の「父の形見」を見せられて一時は情にほだされたとしても、遂に全く心を許して復讐の大事を彼にゆだねるに至ったのには、尚相当の径路けいろがあったことゝ想像される。
だん/\それにほだされて抜きさしがならないやうになり、持つて来た物までみんな注ぎ込んで、裸にされて放り出されてしまつたのだが、彼女としてはそんなにまでして尽してやつたと云ふところに
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
だん/\それにほだされて抜きさしがならないやうになり、持つて来た物までみんな注ぎ込んで、裸にされて放り出されてしまつたのだが、彼女としてはそんなにまでして尽してやつたと云ふところに
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)