紊乱びんらん)” の例文
旧字:紊亂
劇場がしばしば風紀の紊乱びんらんと衣裳の華美なるにつきて禁制をこうむりしもこの時代にして、江戸平民の文化は刻々円熟の期に達せんとせり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この男としてはどれほどまでにこの行為によって社会を紊乱びんらんさせ巨富を積みましても、刑事上の責任なぞは一切負う必要はないのでして
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
地方の政治は名状し難いまでに紊乱びんらんしてしまった! 悪辣あくらつな国司どもは官権を濫用らんようして、不正を働き、私腹をこやして、人民を酷使こくししている。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
「こら、」と彼は言った、「まだここに街灯をつけてるのか。規則違犯だぞ。秩序紊乱びんらんだぞ。そんなものこわしてしまえ。」
... そして情欲の満足に対してはほとんどいかなる抑制もないから、その風俗の紊乱びんらんは時に過度に達している4)(訳註)。
漢室の紊乱びんらんはたちまち諸州の野望家のうかがい知るところとなり、争覇の分脈は、諸国の群雄と、複雑な糸をひいて、天下はたちまち大乱になろう
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それはほかでもない、おれたちの中佐が秩序紊乱びんらんの嫌疑で当局の不興を買っているということなんだ。つまり、反対派の陥穽かんせいにひっかかったんだよ。
その影響が社会の秩序を紊乱びんらんし善良な風俗を壊乱するようなものであった場合に、その公開を禁止することである。
蝸牛の角 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
東京の上流社会の紊乱びんらんは既に書いた。中流社会の堕落と認められている職業婦人の堕落も、以上述べる通りである。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
しかもその行使はほとんどが美への冒涜が多い。むしろ秩序紊乱びんらんの罪悪がどれだけ芸術の正しい品位を破るか。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
加之しかのみならず、その頃の先妻は家政を料理する才が欠けていて、二人が二人ともそろって経済に無茶であったから、さらぬだに不足がちの家計が一層紊乱びんらんして
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
大塩は政治の腐敗と、世道の紊乱びんらんが、なんに由来するかを檄文で書いている。「——天子は足利家以来、別して御隠居御同様、賞罰のへいを御失い候につき」
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
柿のやうに頭のがんだ掛員は私に椅子いすをすゝめて置いて、質素な鉄縁眼鏡に英字新聞をりつけたまゝ、発禁の理由は風俗紊乱びんらんのかどであることを告げて
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
彼等が看て以て一場の茶話となしたる者、実に国家元気衰頽の原因となり、社会秩序紊乱びんらんの動機となる也。
文壇一夕話 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
いわゆるわれあるを知ってあるを忘れ、個人あるを知って国家を思わぬので、彼我ひがの信用は地にちて実業も振わない、社会の徳義は紊乱びんらんする、風俗は頽廃たいはいする
国民教育の複本位 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
何となればその偏依あるいは自由を破滅し、あるいは秩序を紊乱びんらんし、しかして国民的統一を失えばなり。
近時政論考 (新字新仮名) / 陸羯南(著)
巣林子戯曲ありてより、浮世を難波なにはの潟に、心中するものゝ数多くなり、西鶴一流の浮世好色小説の流布るふしてより、社界の風儀はおほい紊乱びんらんせる事、識者の共に認むる所なり。
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
紊乱びんらんせしめたものである。すべてこれらは死刑に該当するものであるからおまえを死刑に処す
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
しかしとにかく一身のあやうきを忘れて一国の紊乱びんらんを正そうとした事の中には、智不智を超えた立派なものが在るのではなかろうか。空しく命を捐つなどと言い切れないものが。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
その風紀を紊乱びんらんした奴を、安閑としてそのままには置かれないのは当然です、拙者に於ても帰来早々、断然たる放逐処分を貴君に進言するつもりで意気込んで戻って来たのですが
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
費府ひふは、桑港そうこうに次で市政の紊乱びんらんせる所であった、ぜソウなったかというに、費府はクエーカー宗の人々の建てた市で、クエーカー宗ではおのれをただしくすということに重きを置くものだから
人格を認知せざる国民 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
一方より見れば今日女権の拡張は恰も社会の秩序を紊乱びんらんするものにしてにわかに賛成するを得ずとて、躊躇する者もあらんかなれども、凡そ時弊を矯正するには社会に多少の波瀾なきを得ず。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
見よ彼らが家庭の紊乱びんらんせる有様を、数年間すねんかん苦節を守りし最愛の妻をして、良人りょうじんの出獄、やれ嬉しやと思う間もなく、かえって入獄中の心配よりも一層の苦悶くもんを覚えしめ、淫酒いんしゅふけり公徳を害して
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「よし、それが判ったら、用件に移るが、僕だちは、今も云ったように、国家のために社会の不義不正を摘発しているところで、不幸にして、ここな家庭が紊乱びんらんしておるから、それを摘発に来たのだ」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
一 法典ノ実施ヲ延期スルハ国家ノ秩序ヲ紊乱びんらんスルモノナリ。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
また群盗の横行に徴してこれを秩序紊乱びんらんの時代だとする。
研究に藉口しゃこうして、こういうものを販売して上流婦人を頽廃せしめ、道義人倫を紊乱びんらんせしめている人間が、何らの刑法上の罪にも該当せぬということは
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
実際——江戸の夜の暗さのように、その頃の、風紀の紊乱びんらんというものは、ちょっと、今日からでは、想像もし難い。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しきりに内政紊乱びんらんを策しておると申す、心痛のあまり余は人を遣わしてくわしく内偵させ、その事実なることを慥かめてまいった、今日はこれよりその罪条を挙げ
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
現在の新聞紙上で、上流の家庭の紊乱びんらんが如何に平凡な材料として取り扱われているかは、読者の熟知せらるるところであろう。思えば地震もいろんな揺れ方をしたものである。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
神聖なるべき憲兵が、予審廷にて聞けることを繰り返し語るは、風紀の重大なる紊乱びんらんなり。
半裸体はんらたいの女が幾人となくごろごろ寐転ねころがっている部屋へ、無断で闖入ちんにゅうしても、風紀を紊乱びんらんすることの出来るような体力は既に持合もちあわしていないものと、見做みなされていたと言ったなら
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
内を司どる婦人が暗愚無智なれば家は常に紊乱びんらんして家を成さず、幸に其主人が之を弥縫びほうして大破裂に及ばざることあるも、主人早世などの大不幸に遭うときは、子女の不取締、財産の不始末
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それこそ世間は真偽いかんも確かめぬうちに、バルセローナ銀行頭取の邸を、百鬼夜行の紊乱びんらんし切った家庭として、全西班牙エスパニヤ中に喧伝してしまうであろう。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
ああマリユス! けしからん奴だ。大道でどなり立て、議論し、討論し、手段を講ずる! 奴らはそれを手段という。ああ、同じ紊乱びんらんでも今は小さくなって雛児ひよっこになってしまってる。
だが、中央の紊乱びんらんはもとよりのこと、地方の民治は、支離滅裂な時代ではあった。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うちあけて申しますが藩政は紊乱びんらんし弛廃し、悪徳と不正で充満しています、貴方はおそらく、……典木さんが赴任して来られたのも、おそらくその点に秘密の使命があるのだと思いますが
思い違い物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
藤原全盛ってやつが、そもそも、天下を紊乱びんらんし始めた原因だ。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)