疲労つか)” の例文
旧字:疲勞
もうこの時は夕暮れでジョン少年は疲労つかれてもいたしひどく腹も空いていたので、その家へ行って、宿も乞い食物も貰おうと決心した。
平太郎はげなんの六助に寝衣を出してもらってそれを着たが、半路以上もある処を走って疲労つかれたので、其のまま蚊帳の中へ入って横になった。
魔王物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
すっかり疲労つかれてしまい、帰りの列車に乗り込んで、やっと自分一人きりになったと思うと気が弛んだせいだろうか、急に睡眠を催してきた。
むかでの跫音 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
が、それもこれもじきかれ疲労つからしてしまう。かれはそこでふとおもいた、自分じぶん位置いち安全あんぜんはかるには、女主人おんなあるじ穴蔵あなぐらかくれているのが上策じょうさくと。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
夜が次第に更けていった、坂口の疲労つかれた眼瞼まぶたに、フト伯父の顔が映った。続いて品の好いエリスの姿が浮んだ。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
ネイルドブーツにカンジキが棚一っぱいに並んで、隅の方に草鞋が一足、疲労つかれたていにぶら下げてある。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
すると逸作は腕組を解いて胸を張りひろげ、「つまらんことを言うのは止せよ。それよか、疲労つかれてなければ、おい、これから飯を食いに出掛けよう。服装はそれでいいのか」
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
此処ここだぞ此処で行儀を直さなければならぬ、姿勢を直すのは此処だぞ、疲労つかれた時には安座あぐらをかいて飯を食いたい、寝て物を食たいが此処だぞ、飯を食う時に急かず落付いて食べる。
教育家の教育 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
いい加減に疲労つかれ初めた一行は、足の遅速に従って、離ればなれになる、私は短気な性分だから、むやみに路を貪って、先になった、そうして傍で見ると、存外に鈍い輪廓をした槍ヶ岳の円柱コルムン
槍ヶ岳第三回登山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
自分はいま空鳴そらなりという事を経験した事がなかったので、これが俗にいう、琴の空鳴そらなりというものだろうと思ったが、それなり演奏の疲労つかれで何事なにこともなくてしまった、翌朝に目を覚まして泣菫氏にも
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
疲労つかれたまなこに扉をあけると
赤倉 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
彼女は疲労つかれ果てていた。左門によって気絶させられたところ、頼母に踏まれて正気づいた、そこで彼女は夢中で遁がれようとした。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私は疲労つかれきっていた。それでいて頭脳は妙に冴返っていて、朝からの出来事が非常にハッキリと、そして素晴しい迅速はやさで、次々と脳裡に映っていった。
日蔭の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
考え続けているうちに疲労つかれてきて、その儘ごろりと横になった、血の着いたシーツを取り代えるのももう億劫だった、が、寝てみるとまた妙に頭が冴えてつかれなかった。
黒猫十三 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
「遠い処を来たから、疲労つかれたんじゃない、すこし休んだらどう」
竇氏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
雨に打たれ嵐に吹かれ死ぬばかりに体は疲労つかれていたが、情夫おもうおとこの一大事と、島君は丑松の後に従って、そそり立った柱によじ登った。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
泉原は人気のない共同椅子ベンチ疲労つかれた体躯からだを休めて、呆然ぼんやり過去すぎさった日の出来事を思浮べた。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
一人で疲労つかれた足をひきずって帰ったのであった。
女賊記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
……おや、お前どうしたんだ? ちっとも返辞をしてくれねえな。ははあなるほど疲労つかれたんだな。イヤもっともだ、疲労れる筈だ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それでも別に食慾はなかったが、かなり疲労つかれて頻りに咽喉の乾きを覚えていた。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
随分久しく漕いだので大分腕が疲労つかれて来た。その時行く手に陸が見えた。そうして烏はその陸を目がけ静かに静かに舞って行く。
それから一二時間もしてフト気がつくと、良夫とグヰンが何事か声高にいい争っているのを耳にしましたが、余りに疲労つかれていたので、起きてゆく精もなく、そのまゝねむってしまったのです。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
庭を歩いて行く紙帳蜘蛛は、やがて疲労つかれたかのように、背を低めて地へ伏した。しかしすぐに立ち上がった。背が高く盛り上がった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
駈け廻わっておくれ。ドンドン遠くまで走って行っておくれ。疲労つかれた頃に帰るがいい。いつまでも待っているからね。さあおいでよ!
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこでこうして精根を疲労つからせ、グッタリ仆れておりながらも、二人一緒にいるのだと思えば彼女には嬉しく思われるのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お浦は今は疲労つかれたのでもあろうか、何んと無邪気にもいじらしくも、上様の人形を胸に抱き、ぐっすり眠っているではないか。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私は終日歩き廻り体が疲労つかれて居りましたので小屋の主人が拵えてくれた隣室の寝床へ這入るや否や一息に眠ってしまいました。
京橋の中ほどまで来た時である、彼女はすっかり疲労つかれてしまった。こんなに歩いたことがないからである。彼女はだるそうに足を止めた。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「さあ来やあがれこん畜生!」——こう罵った声の下からハッハッハッと大息を吐くのは体の疲労つかれた証拠である。しかも彼は罵りつづける。
三甚内 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
睡眠ねむりはとらなければならないだろう。しかし眠りはまどかではあるまい。だが彼は疲労つかれていた。間もなく眠りに入ったらしい。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「お粂の姐ご、来てください! 獲物が逃げる! 取り押さえてください! 俺には駄目だ! 疲労つかれ切ってしまった!」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私の負傷は軽かったので疲労つかれた足を引きずり引きずり、汽船の料理人コック部屋へはいり込んで深い眠りに墜ちてしまった。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
で、体は疲労つかれ切っていた。見れば抜き身を差しつけて、時々空で振りまわしたが、持つ手もだるそうに力がなかった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
薄傷うすでを無数に受けていて、全身が綿のように疲労つかれていて、自分だけでは爺の手から、例の巻き奉書と綴じ紙とを、奪い取ることはむずかしいと
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
足が疲労つかれているからであろう。……と思うのは間違いで、実は彼は不思議な老人に後を尾行つけられているのであった。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
張教仁の肉体は次第次第に疲労つかれて来た。今は呼吸いきさえ困難である。それだのに尚も張教仁は全力を挙げて走っている。そうして連呼をつづけている。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「もうこれ以上は仕方がない。心気疲労つかれて仆れるまで、ここにこうして立っていよう」造酒は捨鉢すてばちの決心をした。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
毛皮のかかっている長椅子の上へ、彼女は体を横たえて、シャンデリアの燈を眺めながら、クタクタに疲労つかれ極まっている体を、長く延ばして休ませた。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
疲労つかれを知らない有尾人猿に次第次第に追い詰められて土人乙女は恐怖のため走る足がだんだん鈍くなった。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
こっちの四人、女連れだ、ことに浜路は疲労つかれている。呼吸がはずんで歩きなやむ。背後うしろ三間、追い逼まった敵!
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
庄三郎の汗にれた肌も森林の中へはいると共に一時に清々すがすがしく乾いて来た。彼は随分疲労つかれていたので
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
たいして疲労つかれてもいないらしい。審判席では定吉先生が、さも驚いたというように、長い頤髯ひげしごいていた。眉の間に皺が寄っていた。神経的の皺であった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
どっちみちあんなにブン廻っては、早晩こん疲労つからせて、死んでしまうに相違ねえ。……オヤどうしたんだいお仙ちゃん、顔色を変えてさ、おどしちゃアいけねえ
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
でも、とうとう疲労つかれきったのであろう、四足を縮め、胴体に深いしわを作り、ベタベタと地へ腹這った。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
意外の事件から意外の事件、心も体も疲労つかれ切っている。ところで場所は密林の中、微風が渡って枝葉が囁き、それがまるで子守唄のようだ。軟かい草はしとねである。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ただ奥義の把持者はじしゃのみが、その境地に達することが出来る。そうして鏡葉之助は、その奥義の把持者であった。剣にかけては天才であった。だが彼は疲労つかれていた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
風に吹き立つ枯葉のように、八方分身十方隠れ、一人の体を八方にかち、十方に隠れて出没し! 敵をして奔命ほんめい疲労つかれしめ、同士討ちをさせるがためであった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
... その途方もない沢山の眼で何を見たのか知らないが、梶取かじとりのおいらは疲労つかれてしまう」どうやら鯱丸は不平らしい。「一体全体何んのために、そんな所へ行くのだろう」
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
追々惰気だきを催して来、しかも思い切って心を許し、眠に入ることが出来なかったので、身心次第に疲労つか衰弱おとろえて、戦意とみに失われ、退陣したいものと思うようになった。
赤坂城の謀略 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
人々は皆疲労つかれていたのですぐさま深い睡眠ねむりに落ちたが、一人ホーキン氏は眠られなかった。