甲斐々々かいがい)” の例文
その中で甲斐々々かいがいしく立ち働らいてゐる人影が、お母さんやお祖母ばあさんや若い女中だといふことにさへ咄嗟とっさには気がつかなかつたさうです。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
助手の組長という重責に緊張して、甲斐々々かいがいしく立働いているというだけの人なんだ。竹さんが、その前夜、マア坊をしかった。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
翌朝よくあさ早く嘉助は別離わかれを告げて発った。その朝露を踏んで出て行く甲斐々々かいがいしい後姿は、余計に寂しい思を三吉の胸に残した。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
長い着物のしりをくるりとまくり、または腕まくりもできないからたすきを掛けるので、是を甲斐々々かいがいしいなりをしているというのは間違いである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ただりよ一人平作の家族に気兼きがねをしながら、甲斐々々かいがいしく立ち働いていたが、午頃ひるごろになって細川の奥方の立退所たちのきじょが知れたので、すぐに見舞に往った。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
みんな出立いでたちは甲斐々々かいがいしく、ラウドスピイカアも、「これより、オリムピック・クルウの独漕どくそうがあります」と華々はなばなしく放送してくれたのでしたが
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
例年と同じように女は甲斐々々かいがいしく立ち働き、若い女どもの指図をして、また禁裏へと招かれた大臣たちの警護の武士の一団の酒肴の世話をしていた。
(新字新仮名) / 山川方夫(著)
寸分のすきもなく立ち働く姉を見れば、知らない者は誰でも感心して、何と云うシッカリした、甲斐々々かいがいしい主婦であろうと思うのであるが、ほんとうは
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
鮨というものの生む甲斐々々かいがいしいまめやかな雰囲気、そこへ人がいくらふけり込んでも、みだれるようなことはない。万事が手軽くこだわりなく行き過ぎて仕舞う。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そう云いながら静子は甲斐々々かいがいしく信一郎の脱ぐ上衣うわぎを受け取ったり、襯衣シャツを脱ぐのを手伝ったりした。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
私一人で引受けてやって居たから、ひどく調法な男だ、何ともわれない調法な血気の少年でありながら、その少年の行状がはなはよろしい、甚だ宜しくて甲斐々々かいがいしく働くと云うので
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
お婆様は気丈きじょうな方で甲斐々々かいがいしく世話をすますと、若者に向って心の底からお礼をいわれました。若者は挨拶あいさつの言葉もいわないような人で、ただ黙ってうなずいてばかりいました。
溺れかけた兄妹 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あくる日から甲斐々々かいがいしく野良のらへ手伝いに出た。
日本婦道記:箭竹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私はあの句を読んだ時には、あなたの甲斐々々かいがいしく、また、なまめかしい姿がありありと眼の前に浮んで来て、いても立っても居られない気持でした。
冬の花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
御主人大事と勤め顔な下女は大きなたらいを前にひかえ、農家の娘らしい腰巻に跣足はだしで、甲斐々々かいがいしく洗濯をしていた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それでも甲斐々々かいがいしい仕事ができないので、襷掛たすきがけでもする時には、裾をたくり上げたり端折はしょったりしたのだが、やはりずるずるとしてよくは働けない。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「じゃ、早くお支度なさいまし。」解き物を、きやって、妻は、甲斐々々かいがいしく立ち上った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
東の御方(兼良側室)はじめ姫君、侍女がたは、いずれも甲斐々々かいがいしいお壺装束つぼそうぞく
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
甲斐々々かいがいしい支度をした、小綺麗な女中が、いそがしそうな足を留めて、玄関に立ちはたがって、純一を頭のてっぺんから足の爪尖つまさきまで見卸して、「どこもいておりません、お気の毒様」
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そのくせ私は少年の時から饒舌しゃべり、人並ひとなみよりか口数くちかずの多い程に饒舌って、うして何でもることは甲斐々々かいがいしく遣て、決して人に負けないけれども、書生流儀の議論とうことをしない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
東の御方(兼良側室)はじめ姫君、侍女がたは、いづれも甲斐々々かいがいしいお壺装束つぼそうぞく
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
東京の女のひとたちが赤いたすきをかけ白く新しい手拭てぬぐいをあねさまかぶりにして、朝日の射している障子しょうじにはたきをかけている可憐かれん甲斐々々かいがいしい姿こそ日本の象徴ではあるまいかと考え
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
かすりの仕事着に足ごしらえ甲斐々々かいがいしく、すげ褄折笠つまおりがさと小荷物を引き背負うて、薬を売ってあるく娘どもは、あまりに眼の前のことだから批判もできないが、彼らの職業にも歴史は有るらしい。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
こういう土地柄ですから、女がどんな労働をしているか、大凡おおよその想像はつきましょう。男を助けて外で甲斐々々かいがいしく働く時の風俗は、股引ももひき脚絆はばきで、盲目縞めくらじま手甲てっこうめます。かぶりものは編笠です。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)