ふくべ)” の例文
両側の山々には、春は桜、秋は紅葉が美しく、その季節には、ふくべをさげた遊山客が、断崖の上の細道を、蟻の行列みたいに続くのだ。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
浪「貴方がおあつらえだと申してごみだらけのふくべを持ってまいりましたが、あれはお花活はないけに遊ばしましても余りい姿ではございません」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お重も、かまぼこも、ふくべも、ちゃんともう用意ができているんだ。どこへ行くか知らねえが、今のうちに起きねえと犬に食わしちまいますぜ
忽然こつぜんとして現われ出でたのは、身のたけ数十ひろ(一尋は六尺)もあろうかと思われる怪物で、手に一つのふくべをたずさえて庭先に突っ立った。
彼を始め十人は、籠手こてを枕に大地へ寝た。茂助は、もう水のないふくべを、手拭で巻いて、藤吉郎の枕にと、そっと主人の頭の下へ当てがった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まもる事ふくべの如くと又口はわざはひのかどしたは禍ひのと言る事金言きんげんなるかな瀬戸物屋忠兵衞はからず八ヶ年過去すぎさりたる事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
女の子は、老人の手からふくべを取って、ついこの下の沢に流るる清水を汲もうとて山路やまじをかけ下ります。
小さな小さな二つの車輪、そいつを棒でつないだようなもので、ふくべと云った方がよいかも知れない。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
渠はそのへんを泳いでいた魚類を五、六尾手掴てづかみにしてむしゃむしゃ頬張ほおばり、さて、腰にげたふくべの酒を喇叭らっぱ飲みにした。うまかった。ゴクリゴクリと渠は音を立てて飲んだ。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
蒲公英たんぽぽの咲く川堤かわどてに並んで腰を打ちかけ、お宮の背後うしろから揚る雲雀ひばりの声を聞きながら、銀之丞が腰のふくべと盃を取出せば、千六は恥かしながら背負うて来た風呂敷包みの割籠わりごを開いて
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「万右衛門、遠慮なくかさねろ」と七十郎は宿の者の話すのを聞きながして、ふくべの酒を万右衛門にすすめた。かなりな大盃で、万右衛門は七兵衛の顔色をうかがいながら、むっつりと、黙って飲んだ。
月夜よし二つふくべ青瓢あをふくべあらへうふらへうと見つつおもしろ
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
ふくべ先生は、果たしてこの奇なる景観にうたれたとみえて、やがて百獣店ももんじだなの一軒へ、ずッと寄って行ったかと思うと、その店先へ腰をおろした。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あとからギシ/″\やって参りまするから、細路ほそみちゆえ二人がける、人足がよろけるとたんに丈助の持って居た蒔絵のしてあるふくべへ、長持の棒ばなが当りましたから堪りません
ふくべの底まで飲み干してしまうと、いい気持で歩き出した。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
月夜よし二つふくべ青瓢あをふくべあらへうふらへうと見つつおもしろ
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ふくべを投げ出してすがりついたのは老人の亡骸なきがらでした。
水はもうふくべになかった。しかしづる雲の大海をながめながらかしわの葉でつつんだひえ飯を喰う味は、生涯、忘れ得まいと思われるほど美味うまかった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
軒の端や青きふくべにふる雨の雨あしほそくうちしぶきつつ
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
ふくべを取り出して、水か、酒かを呑んで息をつぐ。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と、絶叫しながら、途中、敵の雑兵を斬って奪い取った槍の先へ、夜来、たずさえて来た例のふくべをくくりつけたのを——塀越しに振り上げ振り上げしては呶鳴った。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
軒の端や青きふくべにふる雨の雨あしほそくうちしぶきつつ
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ふくべの酒を立ち飲みしながら、彼は、黄昏たそがれるのも忘れたように、山の奥へ奥へと彷徨さまよっていた。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宿しゅくへ入ると、ふくべ先生、左右に軒をつらねている名物屋を、しきりに右顧うこ左眄さべんして、岩魚いわなの味をたずね、骨接薬ほねつぎぐすりの匂いをかぎ、檜細工ひのきざいく干瓢屋かんぴょうやの軒さきにまで立ったが
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
突として、実に突として、一彪いっぴょうの軍馬が、相国寺の門前にかたまったかと思うと、さらに、西、南、北から相流れ寄るものを、千実せんなふくべの下に集めて、忽ち都のただ中に、幾軍団もの勢揃いを起した。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今日は、ふくべひっさげ、大きな弁当を腰にいつけていた。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、今日は、ふくべに酒を持って来た」
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)