狒々ひひ)” の例文
あいつらは狒々ひひだから、あたしたちがほしいといえばあかだらけの襦袢じゅばんとだって、なんでも交換してくれるわ。この指輪だってそうよ。
日暮れ方にこの窓から覗いていると、あのブルドッグの狒々ひひおやじが、往来を向うから横切って、妾の処へ通って来るのが見える。
ココナットの実 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「飛んだお供物、狒々ひひにしやがる。若奥様は聞いただけでも、禿祠はげやしろ犠牲いけにえを取ったようだ。……黒門洞擂鉢大夜叉くろもんどうすりばちおおやしゃとでもいうかなあ。」
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お蝶が逃げ廻ったりこばむ力は、かえって狒々ひひの獣情に油をそそぎかけたようです。隠居は老人としよりに似気ない力で、お蝶を船底に押したおすと
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
口の悪い原田雲井が、いつも、「民政党候補はガラクタばっかり、中でも、無学文盲の女郎屋の助平狒々ひひ」といっている男だ。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
名高い狒々ひひのいた近辺に、母と子との猿を一しょに入れてあるおりがあって、その前には例の輪切わぎりにした薩摩さつまいも芋が置いてある。
牛鍋 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
古今共に狒々ひひが、出るためには、夜を選ぶのであった。そして、悲しむべきことは、わが万寿丸に岩見重太郎が乗り合わせていないことであった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
「これが宮本無三四むさしか何かだと、狒々ひひ退治とか云って芝居や講釈に名高くなるんですがね」と、半七老人は笑った。
半七捕物帳:06 半鐘の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ことにこの地方ではさるこう経たものとか、狒々ひひとかいう話が今でも盛んに行われて、一層人の風説を混乱せしめる。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その猛烈さ加減は確かに岩見重太郎の狒々ひひ退治以上の活劇であったが、さしもの猛獣も運の尽き、とうとう書斎の障子の細目のさんを半分くぐったが、後半が出ない
しかし、われわれが狒々ひひのごとくに生きるべきか人間らしく生きるべきかは少々不確かである。
あの狒々ひひのような大女は、自分と反対に真珠のように小さい深山先生に食慾を感じていろいろとそそのかしたのだ。『赤外線男』も、ダリアから出たアイデアだったかも知れない。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
素敵だ、化物退治にそんな筋のがあるぜ、——血の跡を慕って行くと、洞穴ほらあなの中に、狒々ひひこうを経たのが、手傷を受けて唸っていたとね——ところが、こいつはそんな都合には行かないよ。
『談海』十二に山神の像を言いて「猿のこうをへたるが狒々ひひという物になりたるが山神になる事といえり」、『松屋筆記』に『今昔物語』の美作みまさかの中参の神は猿とあるを弁じて、参は山の音で
一、浅草花屋敷の狒々ひひ及びかわうそ
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「あの渡辺蔵人の狒々ひひめ」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
狒々ひひの動作が初まりました。いきなり体へ抱きついて来たので、お蝶がきつく突き飛ばすと、舟の世帯はとまぐるみ、ダブリと大きく揺れ返る。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おれもさ、狒々ひひ巨蛇うわばみなら、片腕で退治て見せらあ。「おいらだって天狗の片翼を斬って落すくらいなら、朝飯前だ。 ...
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
したがって、人びとの説明はまちまちで、ある者はやはり馬に相違ないといった。ある者はどうも熊のようであるといった。ある者は狒々ひひではないかといった。
馬妖記 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
岩見いわみ武勇伝に出て来る鎮守ちんじゅの神——その正体は狒々ひひである——の生贄いけにえとして、白羽しらはの矢を立てられはせぬかと、戦々兢々きょうきょうたる娘、及び娘を持てる親たちのような恐れと、哀れとを
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
以前一ツ橋様なんぞがお世継よつぎになろうものなら、それ、あの親子して狒々ひひのように大奥を荒し廻るのが怖ろしいと、将軍様の大奥から故障が出て、温恭院の御生母本寿院様などは
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
狒々ひひという大猿が日本にも住むということはもう信ずることがむつかしくなった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「お前はそのまま、人身御供になって、狒々ひひの餌食になる気かえ」
今年元日の『大正日々』紙に、越前の敦賀郡愛癸村字刀根の気比けひ神社は浪花節の勇士岩見重太郎が狒々ひひを平らげし処という。今も祭礼に抽籤ちゅうせんもて一人の娘を撰みひつに入れ、若者かつぎ行きて神前に供う。
大辻は狒々ひひのように大口をあいて
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「こん夜は、トム公のために、乾杯かんぱいしてやろうじゃないの。そして私は、この金剛石ダイヤの指環を、柳田のお狒々ひひさんに、二千円で売りつけてやるよ」
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どうしたどころかい、近頃評判なもんだ。これで五丁町を踏鳴ふみならすんだぜ、お前も知ってるだろう、一昨年おとどし仁和加にわか狒々ひひ退治の武者修行をした大坂家の抱妓かかえな。」
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「殿様は造船所の方へ行っちまったんです、そのあとへ村の人が大勢入って来て、盗人ぬすっとを殺せ、毛唐けとう狒々ひひをやっつけろなんて、大勢でマドロスさんをかついで行ってしまいましたよ」
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「𤢖とは何だろう。はり猿か狒々ひひの一種か知ら。」と、市郎はしきりに考えた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いや妖怪か狒々ひひかまたは駄法螺だぼらかであろうと、勝手な批評をしても済むかも知れぬが、事例は今少しく実着でかつ数多く、またそのようにまでして否認をする必要もなかったのであります。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
……さて、てまえ何処いずこの者とご不審あろうが、猿でもない狒々ひひでもない、人間さまであることはお見届けのとおりとござい。ご当地へは初めてのこと。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先方さきじゃあおもいもつかなかったからでしょう、あのお夏さんに、こんな友達があると思った日にゃ、狒々ひひに人間の情婦いろが出来るとあきらめなけりゃなりません、へい、希代なもんです。」とまたあおる。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いやなお狒々ひひさんね、昼間からこんな物ばかり見ているのよ。店員たちに見られたらきまりが悪くなくって?」
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何の事です、それじゃ狒々ひひ老耄おいぼれか、仙人の化物になる。」
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
好色隠居の狒々ひひ顔が、とまの間からジロジロとのぞいたり、お角を相手に、お蝶の貞操の代価に露骨な懸引かけひきをかわしたりしておりましたが、やがて人肉の取引ができると
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三州岡崎宿にて旅人狒々ひひに逢う事
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、お狒々ひひさんのあごをつまみながら、左の指から外した指環をその鼻の先へ出して見せた。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それや大した内助だ。いくらどんな足利殿でも、内には誰か一人ぐらい経理の才物がいるに相違ないと見ていたが、それが武蔵守師直だったか。師直と申す狒々ひひだったのか。あはははは」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
元々、この金蓮という小娘は、姓をはんといい、清河県の大金持ちの家へ買われた女奴隷めどれいだったが、やがてその美が熟してくると、主人の狒々ひひ長者は、のべついやらしいことを言い寄りはじめた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女奴隷は財物なので、狒々ひひ長者の欲情視は特にふしぎなことではない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あの狒々ひひか」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)