煮肴にざかな)” の例文
山中さんちううらにて晝食ちうじき古代こだいそつくりの建場たてばながら、さけなることおどろくばかり、斑鯛ふだひ?の煮肴にざかなはまぐりつゆしたをたゝいてあぢはふにへたり。
熱海の春 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
仏頂寺弥助は鍵屋の辻の荒木又右衛門といったような形で縁台に腰をかけ、諏訪湖の煮肴にざかなを前に置いて、茶の代りに一酌いっしゃくを試みている。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「新井田の方はあと廻わしだ」そう彼はまた独りごちて、たぬき小路のいきつけの蕎麦屋そばやにはいった。そして煮肴にざかな一皿だけを取りよせて、熱燗を何本となく続けのみにした。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
煮肴にざかな羊栖菜ひじき相良麩さがらぶが附けてあると、もうそろそろこの嗅覚きゅうかくhallucinationアリュシナション が起り掛かる。そしてそれが青魚の未醤煮に至って窮極の程度に達する。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
結構つかえる器物がそこらへてられたり、下品な皿小鉢こばちが、むやみに買いこまれたりして、遠海ものの煮肴にざかなはいつも砂糖けのように悪甘く、漬けものもどぶのように臭かった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「そうか、それでは」と桂は女中に向かって二三品命じたが、その名は符牒ふちょうのようで僕には解らなかった。しばらくすると、刺身さしみ煮肴にざかな煮〆にしめ、汁などが出て飯をった茶碗に香物こうのもの
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
その暗い三坪ばかりの土間に垢光りする木机と腰掛が並んで右側には酒樽桝棚、左の壁の上に釣った棚に煮肴にざかな蒲鉾かまぼこ、するめ、うでだこの類が並んで、あがかまちに型ばかりの帳場格子がある。
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
前に葦簾あしすだれが立ててあって中の半分は見えない、今カンテラに火をつけて軒口のきぐちに吊った所で、油煙ゆえんがぽっぽと立つ 低いかやのきへ火がつきやしないかと思われる、卵や煮肴にざかなやいろいろの食物が
八幡の森 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
塗つたお膳の上の煮肴にざかなはしをつけた事だけをかすかに記憶して居る。
買ひものをする女 (新字旧仮名) / 三宅やす子(著)
たいひらめ煮肴にざかなを食うときに卵粒の多いのを見て今さらのごとくに驚くこともしばしばあるが、正月の儀式に用いるカズノコのごときも実は「ニシン」という魚の卵塊で、卵の粒の数が非常に多いから
生物学より見たる教育 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
兼「ムヽ橋本屋だ、彼家あすこで喰っためばる煮肴にざかな素的すてきに旨かったなア」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
新しい能代のしろ膳立ぜんだてをして、ちゃんと待っていた、さしみに、茶碗、煮肴にざかなに、酢のもの、——愛吉は、ぐぐぐと咽喉を鳴らしたが、はてな、この辺で。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大磯おほいそちかくなつてやつ諸君しよくん晝飯ちうはんをはり、自分じぶんは二空箱あきばこひとつには笹葉さゝつぱのこり一には煮肴にざかなしるあとだけがのこつてやつをかたづけて腰掛こしかけした押込おしこみ、老婦人らうふじんは三空箱あきばこ丁寧ていねいかさねて
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)