為体ていたらく)” の例文
旧字:爲體
(待てよ、そうして、自分の為体ていたらくを見、ひいては、源氏のともがらが、どんな士風か、どんな者の寄合か、試みておられるのかもしれない)
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その他のはおはなしにならず、ただ名のみを今も昔のままに看板だけで通している為体ていたらく、して見ると食道楽の数も大分減ったのが判るようだ。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
絶間無き騒動のうち狼藉ろうぜきとしてたはむれ遊ぶ為体ていたらく三綱五常さんこうごじよう糸瓜へちまの皮と地にまびれて、ただこれ修羅道しゆらどう打覆ぶつくりかへしたるばかりなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
というのは、ハンカチを当てていたからでもあるが、第一、肝腎の鼻そのものが、一体どこへ行ったのやら皆目わからない為体ていたらくであったからである。
(新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
ようやく田地を養い候ほどの為体ていたらく、お百姓どもも近村に引き比べては一層の艱苦かんく仕り候儀に御座候……
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それならこの為体ていたらくは一体どうしたのかとでも言いたそうに、黒須は煙草をふかしながら、二人を見比べていたが、庸三という老年の文学者が、かげで葉子をあやつっている
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
さすがの彼も、もう煙草どころではなく、段々話が進むにつれ、好奇心が恐怖に変って、いわば鷲につかまったすずめが、鷲から懺悔話をきいて居るといったような為体ていたらくであった。
按摩 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
その晩の為体ていたらくには怖毛おぞけを震って、さて立退たちのいて貰いましょ、御近所の前もある、と店立たなだての談判にかかりますとね、引越賃でもゆする気か、酢のこんにゃくので動きませんや。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
是や見し往時むかし住みにし跡ならむ蓬が露に月の隠るゝ有為転変の有様は、色即空しきそくくう道理ことわりを示し、亡きあとにおもかげをのみ遺し置きて我が朋友ともどちはいづち行きけむ無常迅速の為体ていたらく
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
それに御存じの通りの為体ていたらくで、一向支度したくらしい支度もありませんし、おまけに私という厄介者やっかいものまで附いているような始末で、正直なところ、今度のような話を取り逃した日には
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
しかもその下から大刀のさやと小刀の小尻こじりとが見えていた様子といい、一壇高き切株へどッかと腰を打ち掛けて、屋台店のかに跋扈ふみはだかッていた為体ていたらくといい、いかさまこの中の頭領かしらと見えた。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
コレ高、己が五日か十日の間東京へ往ってるに斯う云う密夫を引入れて、此の為体ていたらくは何う云うものか、実にどうも何とも何うも言語道断の仕末じゃアないか、お前は僕にくまで恥辱を
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それ以来初松魚の有難味頓と下り果てた為体ていたらく、竜も雲を得ざれば天に及ばず、時なればこれとても是非ないことかな。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
一様に開いた口を塞ぐことも出来ない為体ていたらくであつた——一同の面前には村長の義妹が立つてゐたのである。
渠らは千体仏のごとくおもてあつめ、あけらかんとおとがいを垂れて、おそらくはにもるべからざるこの不思議の為体ていたらくを奪われたりしに、その馬は奇怪なる御者と、奇怪なる美人と
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おそれたるにもあらず、こうじたるにもあらねど、又全くさにあらざるにもあらざらん気色けしきにて貫一のかたちさへ可慎つつましげに黙して控へたるは、かかる所にこの人と共にとは思懸おもひかけざる為体ていたらく
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
で、とにもかくにも御引受して、さて、筆を取って見ると、少なからぬ興奮を覚え、いささか、かたくなった為体ていたらくである。だから、うっかりすると、甚しく脱線したことを書かぬとも限らない。
「心理試験」序 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
と金を貰ってしくしくないて居りました、此の為体ていたらくを見て一座の男が
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しょうがないから、百姓馬をつけて、戻って来たってえ為体ていたらくさ! そら、ちょっと窓から見てくれよ!
そこで、連中は、と見ると、いやもう散々の為体ていたらく。時間が時間だから、ぐったり疲切って、向うの縁側へ摺出ずりだして、欄干てすりひじを懸けて、夜風に当っているのなどは、まだたしかな分で。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
貫一は唯不思議の為体ていたらくあきれ惑ひてことばでず、やうやく泣ゐる彼を推斥おしのけんと為たれど、にかはの附きたるやうに取縋りつつ、益す泣いて泣いて止まず。涙の湿うるほひ単衣ひとへとほして、この難面つれなき人のはだへみぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それに襟は垢でてかてかと光り、ボタンが三つともとれて、糸だけ残っているという為体ていたらくであった。
(新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
それとも夢にも劣らぬ馬鹿げたことをうつつでやっているのか、頓と見当もつかない為体ていたらくであった。
それどころかこの城塞ときては、すっかり怖気おじけづいてしまって、魂も身に添わぬ為体ていたらくであった。
ところが、そんなものを抵当に、国庫から金を借り出すなどということは、その頃はまだ珍らしいことであっただけに、借りる方でも聊かおっかなびっくりの為体ていたらくであった。
そもそもがわるく、そのお蔭で道々もずっと、右の車輪が左の車輪よりぐっと高く持ちあがるかと思えば、左の車輪が右の車輪より高く持ちあがるといった為体ていたらくであった。
焦げついたものがあるかと思えば、まだ生煮えのものがあるという為体ていたらくであった。