消炭けしずみ)” の例文
饂飩うどん屋のガラスのはこの中にある饂飩の玉までがあざやかである。往来には軒先にむしろいたり、を置いたりして、それに消炭けしずみしてある。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
消炭けしずみや灰の中にうずくまっていましたから、ままむすめの姉と妹は、からかい半分、サンドリヨン(シンデレラ)というあだ名をつけました。
それを読んだ平次は、煙管きせるの吸口を額に当てたまま、思わずうなりました。懐紙ふところがみに、消炭けしずみでのたくらせた走り書きは
石楠花は依然多いが、それに次いでは、高根いばらが多く、丈高い茎に大形の紅色の花を着けたのが、消炭けしずみの火のように、かえって暗い感じをさせる。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
差置いた洋傘こうもりの柄につながった、消炭けしずみいた棒をながめて、虚気うつけに、きょとんとする処へ、坂の上なる小藪こやぶの前へ、きりきりと舞って出て、老人の姿を見ると
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
折々は青菜あおなの柔い草を与えなければなりませんし、夏になると消炭けしずみを粉にして餌に混ぜて一週間に一度位与えなければなりません。消炭の粉は腹の中を掃除します。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
女「そうだねえ、まア火をおこしてお呉れ……消炭けしずみを下へ入れて堅い炭を上へ入れるのだよ、あら、鍋が空じゃアないか、湯を入れて掛けるのだアね、旨くやんねえよ」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
二三度んで見たが、阿母さんは桃枝もヽえおぶつて大原へ出掛けて居無かつた。貢さんは火鉢の火種ひだね昆炉しちりんに移し消炭けしずみおこして番茶ばんちや土瓶どびんわかし、しやけを焼いて冷飯ひやめしを食つた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
しかしこれはすなわち消炭けしずみで、古くはこれを和炭にこずみと云った。その和炭に対して炭竈で蒸し焼きに焼いた炭を荒炭と云い、荒炭和炭の名は既に天平時代の正倉院文書に往々見えている。
それからここに付木つけぎがあります、これへ消炭けしずみで書いたのが無類の記念です。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ここでタヌは、消炭けしずみのかけらを拾って歩道の上へ書きつけた。
「俺は堂宮を見て来る。いいか、欄干の後ろを見るんだよ、大抵は消炭けしずみだ。目印は二重になったひし、判ったか」
いや、御深切は難有ありがたいが、薬罐やかんの底へ消炭けしずみで、くあとからめる処へ、氷で咽喉のどえぐられそうな、あのピイピイを聞かされちゃ、身体からだにひびったけがはいりそうだ。……持って来な。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
エヽわつし歌舞伎座かぶきざ武田屋たけだやかねてえもんでがすが、ねえさんにしかられるんで、おめえのやうに茶屋ちやや消炭けしずみをしてながら、さう世辞せじくツちやアやうがねえから、世辞屋せじやさんへでもつて
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「でも、そいつは間違いでしょう。そのために人まで殺しちゃ、——ところで親分。吉兵衛の消炭けしずみで書いた遺書が、本当にお長屋の格子こうしの外に落ちてたんですか」
冬季ふゆきなどは困って睾丸火鉢きんたまひばちの中へ消炭けしずみなどを入れ、ブウ/\と吹いて震えながら一夜ひとばん明かすものが多い世の中で、裏店うらだなや何かで難儀して居て一俵買が出来ねえで困って居るものが有りやんすから
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
平次もうなりました。橋の欄干の手前寄りに消炭けしずみでかなり大きく、銭の形が一つ描いてあるのです。
御馴染甲斐おなじみがい打寄うちよす冠詞まくらことば前席ぜんせきから。ギッシリ詰る大入おおいりは、誠に僥倖当まぐれあたずみ。俵の縁語に評さえよきを。例の若林先生が。火鉢にあらぬ得意おはこの速記に。演舌しゃべるが儘を書取られしが。写るに速きは消炭けしずみも。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この屋敷のお長屋で殺されかけた吉兵衛が、消炭けしずみで書いた手紙を外へほうったとは気が付くまい。
「親分さん、こはいことですが、幸三郎の言つたことに少しの嘘もありません、——その翌る日この格子から、硫黄附木いわうつけぎ消炭けしずみで書いた、こんな物を投込んだ者があります」
「親分さん、怖いことですが、幸三郎の言ったことに少しの嘘もありません、——そのあくる日この格子から、硫黄付け木に消炭けしずみで書いた、こんな物を投込んだ者があります」
白壁しらかべ消炭けしずみで描いた丸に四角、あれを錢形と氣のつくのは、廣い世界にもお前だけさ」
「誰だい、入口の漆喰壁しっくいかべへ、消炭けしずみなんかででっかい丸と四角を描いたのは?」
ガラッ八は鼻紙に消炭けしずみで書いたのを押入の隅から拾いました。
消炭けしずみで描いた銭形は?」