浅薄せんぱく)” の例文
旧字:淺薄
平生へいぜいの学問浅薄せんぱくにして、至誠天地を感格する事出来申さず、非常のここに立至り申し候。嘸々さぞさぞ愁傷しゅうしょうも遊ばさるべく拝察つかまつり候。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
死の星である月世界なんかつまらんものだと考えていた浅薄せんぱくなる僕の認識は、これによって訂正せられなければならなかった。
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もっとも世俗的な浅薄せんぱくな考えにのみ焦慮しょうりょ致し、一歩立ちいって根本的に考えるという事ほとんど無之これなく、はずかしき次第に候う。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「皮肉には違いないのですが」と、知識がおが切り口上で答えた、「こんな浅薄せんぱくな程度の皮肉でも作者が満足できるかどうかが問題でしょう」
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
科学に対する興味を養成するには、むつかしくて嘘だらけの通俗科学書や浅薄せんぱくで中味のないいわゆる科学雑誌などを読んでもたいして効能はない。
家庭の人へ (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
老博士は浅薄せんぱくな合理主義を一種の病と考えた。そして、その病をはやらせたものは、疑もなく、文字の精霊である。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
もし戻ってもそれは全く新なる形式内容を有するもので、浅薄せんぱくなる観察者には昔時せきじに戻りたる感じを起させるけれども、実はそうではないのであります。
教育と文芸 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あのオトナしい角谷、今年ことし十九の彼律義りちぎな若者が——然し此驚きは、我迂濶うかつ浅薄せんぱく証拠しょうこてるに過ぎぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
この聯想ありて始めて十七字の天地に無限の趣味を生ず。故に四季の聯想を解せざる者はついに俳句を解せざる者なり。この聯想なき者俳句を見て浅薄せんぱくなりと言ふまたむべなり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
どんな悪女にでも、好かれて気持の悪いはずはない、というのはそれは浅薄せんぱくの想定である。プライドが、虫が、どうしてもそれを許容できない場合がある。堪忍かんにんならぬのである。
つまりしっかりした芸術作品を持ったり他の事業でも真摯しんし地歩ちほをかためてる女性以外には装飾そうしょく的な表皮うわべの感情は多くひらめかして居ても本質的な真面目な熱情や感情が浅薄せんぱくです。
新時代女性問答 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
わが輩のこの文を見る人のうちには定めし僕の思想の浅薄せんぱくなるにおどろく人もあろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
僕は所謂いはゆる江戸趣味に余り尊敬を持ってゐない。同時に又彼等の作品にも頭のさがらない一人ひとりである。しかし単に「浅薄せんぱく」の名のもとに彼等の作品を一笑し去るのは彼等の為にどくであらう。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ミンナは美し過ぎ浅薄せんぱくに過ぎて、ワグナーの貧しい生活にふさわしくないばかりではなく、幾度か破綻はたんの危機をた中年以後の夫婦生活に入っても、ワグナーの天才と芸術に対する理解を欠き
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
けれども飲めば飲めるたちでしたから、ただ量を頼みに心をつぶそうとつとめたのです。この浅薄せんぱくな方便はしばらくするうちに私をなお厭世的えんせいてきにしました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
むしろかんや、みずか平生へいぜいの学問浅薄せんぱくなるを言い、以てその限りなき懊悔おうかいを包むに限り無き慰安を以てす。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
人間の自然性だの性欲の満足だのとあまり流行臭い思想で浅薄せんぱくに解し去ってはいけない。
去年 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
かつこれを模倣する者も多くなりて後しずかはじめの句を味へば、先に美の極と公言したる人もそのめ過ぎたるをい、先に拙の極と公言したる人もそのかんがえ浅薄せんぱくなりしを恥づるなるべし。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
かの子 女の方も女の権利とか位置とかをたてにして案外浅薄せんぱくな利己主義な、お芝居気しばいけを満足させるための気障きざなのも往々おうおうにして見受けます。むしろ一般の風潮ふうちょうが多くそうであると云いい位です。
新時代女性問答 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
精神上せいしんじょうからみると、まことに無意味むいみ浅薄せんぱくな結婚であったけれど、世間せけんの目から羨望せんぼうの中心となり、一近郷の話題わだいの花であった。そして糟谷夫婦かすやふうふもたわいもないゆめうておった。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
理想といふ事をとなへる人が少くないが、それらは写生の味を知らない人であつて、写生といふことを非常に浅薄せんぱくな事として排斥するのであるが、その実、理想の方がよほど浅薄であつて
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
浅薄せんぱくな希望に執着しゅうちゃくがあるのだ。命の惜しいのをはじるような考えからいつわりが出るのだ。人間命の惜しいのは当たり前だ。ただ命は惜しんでもしかたがないから考えねばならない。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
今まで考えていた事はみな表面ばかりの浅薄せんぱくな考えばかりでした。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)