いか)” の例文
その芸にっていかされる、芝居の人物に恋していたと云う、ロマンチックな人間離れをした恋を、面白く思わずにはいられませんでした。
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「おれ達が一生にやりたいと思ふ好きなことをやつて見るのは今のうちだぜ。金をいかして使ふのも今の中のやうな氣がするよ。」
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
それがうございます。その後はいかすとも殺すとも、高田さんの御存分になさいましたら、ねえ旦那。といえば得三引取って、「ねえ高田さん。 ...
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
下は紅葉があったり、滝をあしらったりして、古くからの山越しの阿弥陀像の約束を、いかそうとした古典絵家の意趣は、併しながら、よく現れている。
山越しの阿弥陀像の画因 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「死んでいるんじゃねえ、殺したと思うと違うんだよ、もう少し辛抱すりゃいかして上げますぜ御新造、はッ、はッ」
初手しょては随分この女ならば末の末までもと、のぼせ上るが常なるを、さうと見て取るや否や、この男殺すもいかすも勝手次第と我儘の仕放題しほうだいしはじめるは女なり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
待つ、ということのなかに、日本の女の忍耐づよい特徴がいかされもし、期待されもしているのである。
維摩の説は要するに、この現実に生きている以上、広い包容力と強い浄化の力をもって、あらゆる価値をいかして行く積極的の態度でなくては人間として役に立たない。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しほたま一八を出して溺らし、もしそれ愁へまをさば、しほたまを出していかし、かく惚苦たしなめたまへ
『踏絵』の和歌うたから想像した、火のような情を、涙のように美しく冷たいからだで包んでしまった、この玲瓏れいろうたる貴女きじょを、貴下あなたの筆でいかしてくださいと古い美人伝では、いっている。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ここに足をとどめんときょうおもいさだめつ、爽旦あさまだきかねてききしいわなというさかなうりに来たるをう、五尾十五銭。鯉もふもとなる里よりてきぬというを、一尾買いてゆうげの時までいかしおきぬ。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「然し自意識が発達すると云ふ事は、他人の間から自己を独立させると云ふ事になる、またとらはれた自分をいかさうと云ふ事にもなる。」と膳を押遣おしやつて、心静かに落着いて煙草をふかして居る。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
沼の中へ放り込んだ上、何かの様子を知った人力車夫の嘉十、いかして置いては後日のさまたげと思い、簀蓋すぶたを取って打殺うちころし、沼へほうり込んで、それから、どろんとなって、信州で其の年を送って
二人が殺すのいかすのと幾度も大喧嘩おおげんかをやった話もあった、それでも終いには利助から、おれがあやまるから仲直りをしてくろて云い出し誰れの世話にもならず、二人で仲直りした話は可笑しかった。
姪子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「今聞いた、何か、いかす法もあるとったな、なろう事ならいかして戻せ。きさまも無事じゃ、我等も満足、自他の幸福というものじゃ。さ、どうじゃ。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
古語をいかし、古語と近代語・現代語との調和の上に生命ある律的感覚の美しさを与えたのは、蒲原氏なのだが、——之を使った上から見れば、薄田氏の方が著しく多い。
詩語としての日本語 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「いづれ殺す、けては置かぬが、男の居所いどころを謂ふまでは、いかさぬ、殺さぬ。やあ、手ぬるい、打て。しもとの音が長く続いて在所ありかを語る声になるまで。」
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
例の神功紀の文は、このくゝり媛からみつはへ続く禊ぎの叙事詩の断篇化した形である。住吉神の名は、底と中とウヘとに居て、神の身を新しくいかした力の三つの分化である。
水の女 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
……通された八畳は、あかりあかるし、ぱっとして畳も青い。床には花もいかって。山家を出たような俊吉の目には、博覧会の茶座敷を見るがごとく感じられた。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何だ、その女に対して、隠元、田螺たにしの分際で、薄汚い。いろも、亭主も、心中も、殺すも、いかすもあるものか。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
法律で罰することの出来ないものは、心の鬼に責めさせて、いかさず殺さず、万劫ばんごう苦しめるのが一番良い。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二晩ばかりつけました、上野の山ね、鶯谷うぐいすだにね、ステッキでも持ちゃあがって散歩とでも出掛けてみろ、手前てめえいかしちゃあ帰さねえつもりで、あすこいらを張りましたけれど、出ませんや。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と聞くや否や、鸚鵡返おうむがえしに力が入った。床の間にしっとりと露をかついだ矢車の花は、あかり余所よそに、暖か過ぎて障子をすかした、富士見町あたりの大空の星の光を宿して、美しくいかっている。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)