つや)” の例文
旧字:
その傍には初老に近い顔のつやつやした主人が立っていた。お作と女は貴人の宿をした覚えがないから、まごまごして返事もできなかった。
妖怪記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
頸窪ぼんのくぼ胡摩塩斑ごましおまだらで、赤禿げに額の抜けた、つらに、てらてらとつやがあって、でっぷりと肥った、が、小鼻のしわのだらりと深い。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
朝の光が涼しい風と共に流れ込んで、髪乱れ、眼くぼみ、皮膚はだつやなくたるんだ智恵子の顔が、モウ一週間も其余も病んでゐたものの様に見えた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
低い戸のそばに、つやい、黒い大きい、猫がうづくまって、日向ひなたを見詰めていて、己が側へ寄っても知らぬ顔をしている。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
なるほど、雨は小降りになり、霧はまだ濃く地を這つてゐるが、光りを吸つて乳色のつやをおびはじめてゐた。
荒天吉日 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
肩も膝も抜けた素袷すあわせ、よれよれの帯を締めて、素足に冷飯草履、ほこりだらけな髪を引詰めて疣尻巻いぼじりまきにし、白粉の気が微塵みじんもないのに、つやの良い玉のような顔の色は
比那古ひなこのもので、春というのだそうだ。男のような肥後詞ひごことばつかって、動作も活溌である。肌に琥珀こはく色のつやがあって、筋肉が締まっている。石田は精悍せいかんな奴だと思った。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
何時いつものつかれた色は何処どこにも見えなかつた。なかにもわかつや宿やどつてゐた。代助は生々いき/\した此美くしさに、自己の感覚を溺らして、しばらくは何事も忘れて仕舞つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そんな工合に、目や胸を見たり、金色の髪のつやを見たりしていて、フレンチはほとんどどこへ何をしに、この車に乗って行くのかということをさえ忘れそうになっている。
肉付き豊かなそのからだは、雪というより象牙のようで、白く滑らかにつやを持っていた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その気抜のした、そして譬へて云つて見ると、石や金でこしらへた彫像の目の様な目と、粗相なつやのない顔附を見たリツプは、しんの臓が胸の中で顛倒ひつくりかへつて、膝はしまりがなくなりました。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
室の内は敷物、つくえ、寝台にいたるまで、皆清らかでつやのある物ばかりであった。
嬰寧 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
ロス大佐は進みよって、名馬のつややかな額に手をかけたが、急に気がついて
さうでせう? あんなに華やかな色ばかりで画いてあつても、全体の気分には、丁度大理石そのもののつやのやうな寂しい心持が底を流れてゐるでせう? み出るやうだと言つてもいゝかな。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
陰気な生活と運命の圧迫とに疲れて、つやの無くなつた老人の目は、どんよりして、何がどうなつても構はないといふ風にくうを見てゐる。老人は物を言つてしまふと、隅の方に引つ込んで坐つた。
チチアネルロ (軽く首を下げて少女たちに会揖かいゆうしながら。——少女たち皆その方を向く。)あなたがたの髪のにおいを、そのつやを、またあなたがたの形の象牙の白さを、柔かに巻く黄金の帯を
色とつやとにかがやく石は、5045
秀夫は合点がてんが往かなかった。今の婢もそう顔だちの悪い女ではなかったが、あんなつやのないからびたような女ではなかった。
牡蠣船 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
其声は、恰も地震の間際に聞えるゴウと云ふ地鳴に似て、低い、つやのない声ではあつたが、恐ろしい力が籠つて居た。女は眼をまるくして渠を仰いだが、何とも云はぬ。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
何時いつもの疲れた色は何処どこにも見えなかった。眼の中にも若いつやが宿っていた。代助は生々したこの美くしさに、自己の感覚を溺らして、しばらくは何事も忘れてしまった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と言つてして見せたのが、雨につやを帯びた、猪口茸いぐちに似た、ぶくりとしたきのこであつた。
雨ばけ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
つやのある赤いやうな木でこしらへた、大分大きい箱があつて、其上に銀の小さい箱に、金で菊の紋を附けたのと、緑いろのかは銀金物ぎんかなものを取り附けた金入かねいれらしいものとが、並べて載せてある。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
奥方は罵り罵りお菊をさいなんだ結句あげく主膳のへや引摺ひきずって往った。濃いつやつやしたお菊の髪はこわれてばらばらになっていた。お菊は肩を波打たせて苦しんでいた。
皿屋敷 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
女は好い色つやをしていた。
山姑の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)