気狂きちが)” の例文
旧字:氣狂
己れは一度も供せぬと、いふても聞かぬ気の奥様。今日この頃では、全くの、気狂きちがひを見るやうに、そつちも、ぐるじやと、大不興。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
見かけたんだが、まるで、ふらり、ふらりと、魂の抜けた人間みたいに歩いているので、初めは、てっきり気狂きちがいだと思ったくらいだ
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
気狂きちがいになったサント・セリーニュ長老(彫刻家セラッキの妹)、気狂いになったサント・シャンタル長老(ド・スューゾン嬢)。
気狂きちがいとでも思っているんだろうね。……早く手術をしてくださいってそういっておいで。わたしはちゃんと死ぬ覚悟をしていますからってね
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
気狂きちがいではあるまいかと兵馬は思いました。木の上に登って助けてくれというのは、たいてい大水の場合に限るようです。
上書をしたたむ 書記官の話のあった後に薬舗くすりみせの奥さんのいう話が妙です。「どうもクショラ(君よ)仕方のないもんですな、気狂きちがいというものは」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
私たちはそこにあつまって、長椅子に身をなげて、再び自由な身になったことを喜んで、気狂きちがいのように喜び合った。その部屋の周囲には戸棚がついていた。
気狂きちがいも女なら、桜の枝か何か持って、ソレ、芝居にもよく出るやつだが、武士さむらいの気狂いでは色気もござらぬ」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
気候が変調だと人間の頭まで変調になってくるもんだ。こんな気狂きちがいの手紙なんか、ほっとけばいいよ。ははは
鉄の規律 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
彼は始めてこの年若な一少年の頑固な抵抗さからいに出会って気狂きちがいのように怒った。彼はボートルレの肩を掴んで
占めたというので気狂きちがいのように勇み立った藻取と宇潮の音頭取りで、皆の者は拍子を揃えてえいや曳やと引きましたが、綱は矢張り二三寸ずつしか上りませぬ。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
一座はもう口をきく人もありません、家政婦の気狂きちがい染みた声が、物凄くもサロンの隅々に響き渡ります。
死の予告 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
と言い、亭主がっかり、などという何が何やらまるで半気狂きちがいのような男が、その政治運動だの社会運動だのに没頭しているものとばかり思い込んでいたのです。
トカトントン (新字新仮名) / 太宰治(著)
云わば気狂きちがいだったのですね。だが、これは愛すべき気狂い、恋の気狂いであったとも申せるのです。
寡婦 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
「びっくりするじゃないか。気狂きちがいみたいな笑い方をして、いくら暢気のんきなおれでも、ひやりとしたよ」
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ひどい釣気狂きちがいでの、いまわのきわにおれを枕もとによび、血筋というものは争えないもので、いずれは、お前も釣りに凝り出すようなことになるのだろうが、そのせつは
顎十郎捕物帳:04 鎌いたち (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「私は御前様を御救い申すのです。まだ間に合います!」その眼は気狂きちがいのように光っていた。
文治郎殿も気狂きちがいでないから主意があって殺したろうから、主意が立てば宜しいが、主意が立たんければ手前も武士でござる、文治郎殿の首を申受ける心得で参った、はい
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
白い馬鈴薯のような細いからだが、気狂きちがいのように筋ばって這ってあるいたのであった。
香爐を盗む (新字新仮名) / 室生犀星(著)
たとい、あやまらないまでも恐れ入って、静粛せいしゅくに寝ているべきだ。それを何だこのさわぎは。寄宿舎を建ててぶたでも飼っておきあしまいし。気狂きちがいじみた真似まね大抵たいていにするがいい。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夫人 なるほど、人を気狂きちがひにしてしまふつていふのは、便利ですわね、でも、気狂きちがひが、ほんとのことを云ふ場合だつてありますし、どこからがさうだとは、云ひきれませんわ。
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「何を気狂きちがひの真似をなさるんです。えイ、そんな気狂ひの真似する人わたし大嫌ひ」
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
道太は初め隣に気狂きちがいでもいるのかと思ったが、九官鳥きゅうかんちょうらしかった。枕もとを見ると、舞妓まいこの姿をかいた極彩色の二枚折が隅に立ててあって、小さい床に春琴しゅんきんか何かがかっていた。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
誰やらの詩で読んだ——気狂きちがひになつた詩人が夜半やはんの月光に海の底から現れ出る人魚の姫をいだ致死ちしの快感に斃れてしまつたのも、思ふにう云ふ忘れられた美しい海辺うみべの事であらう。
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それゆえたとい精神に異状を来たしていようが気狂きちがいであろうが、あんな繊美うつくしい女が狂人になっているとすれば、そんな病人になったからといって、今さらてるどころか、一層可愛かわいい。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
土地のものなぞはそれを伝え聞いた時は気狂きちがいの沙汰さたとしてしまった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
まして私の夫は、そういう気狂きちがいじみた遊戯によって刺戟を受けるのでなければ、私を満足させるような行為をなし得ないのであるとすればなおさらである。私は義務を果たしているのみではない。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
気狂きちがいだ」
(新字新仮名) / 魯迅(著)
つぐみやもずが、なんのこともないように啼いていたが、パッと空へ立った。——民八は、気狂きちがいのように草の中へ駈け込んだ。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
シャンマティユーは直ちに放免されて、皆気狂きちがいばかりだと考え、またその光景について少しも訳がわからないで、呆然ぼうぜんとして帰って行った。
「御亭主殿が気狂きちがいになった、御亭主殿が気狂いになって脇差を抜いてあばれ出した、だれかれの見さかいなく人を斬りはじめた、危ない、逃げろ!」
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その次には金香炉きんこうろ及び種々の宝物箱ほうぶつばこを持ったちごが出て来まして、気狂きちがいはその後から来るのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
下宿の女たちは葉子を見ると「またあの気狂きちがいが来た」といわんばかりの顔をして、その夜の葉子のことさらに取りつめた顔色には注意を払う暇もなく、その場をはずして姿を隠した。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それを思いこれをおもい、この冬の寒い夜風の中を気狂きちがいになって飛びまわってもしかたがない。今夜はこのまま宿に帰り、哀れな自分をいたわりながら、どうかじっと寝ながらよく考えよう。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ほんとに私はあの男は私を気狂きちがいにしてしまうように思いますわ。なぜって、私はあの男のいるはずのない所にあの男の気配を感じます、あの男がしゃべるはずのない所であの男の声をききますの
「どうかしたのかい、この人はまるで気狂きちがいのように笑ってさ。」
売春婦リゼット (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
私たちを気狂きちがい病院にさえ入れることが出来るのである。
如是我聞 (新字新仮名) / 太宰治(著)
気狂きちがい。」
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
百姓は気狂きちがいのようにたける。それを仮借かしゃくなくズルズルと引きずってきて、やがて、大久保石見おおくぼいわみ酒宴しゅえんをしている庭先にわさきへすえた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは誰も気狂きちがいだと思いました。その気狂いが槍の鞘を払って、ともかくも寄らば突かんと構えたのだから、命知らずでも、これはうっかりと近寄れません。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
といって砂浜を気狂きちがいのようにけずりまわりました。見るとMははるかむこうの方で私と同じようなことをしています。私は駈けずりまわりながらも妹の方を見ることを忘れはしませんでした。
溺れかけた兄妹 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
これはズクパの国に生れた気狂きちがいという意味ですが実は気狂いではない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
知る事が出来た。だが少し気狂きちがいじみたものがあるばかりじゃ
「おまえにつり込まれてしまうんじゃありませんか。あら、四軒茶屋の人が、まだこっちを見ている。きっと気狂きちがいだと思ったかもしれませんよ」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
気狂きちがいじみたところに、あとでなるほどと思わせられたり、ふざけきったのが存外、まじめであったりしたことを、いつもあとで発見させられるものですから
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いったいこれは気狂きちがいかしら、それとも本当に、ああまで一念になって、女をたずねているのかしら? と誰もが心のうちで判断を下しかねているさまだ。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
滔々とうとうとしてやり出したものですから、これは気狂きちがいではないかと、床屋が顔の色を変えました。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「さ、旦那。こんな気狂きちがい婆におかまいなく、早く行っておしまいなせえ。あとは唐牛児とうぎゅうじがひきうけましたから」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自棄やけにしても気狂きちがいにしても、これは面白い観物みものだと思わないわけにはゆきません。たしかに面白いには面白いが、あぶないこともまたあぶない。だからうっかり、いよいよ近寄ることはできません。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「もしかして、犬の歯の毒でも受けたら、気狂きちがいになってしまう。この間うちから、気狂いじみていた犬だ」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)