横臥おうが)” の例文
兄達は土のくぼみに横わり、私も別に窪地をみつけて、そこへ這入はいって行った。すぐ側には傷ついた女学生が三四人横臥おうがしていた。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
今になりて思ひ得たる事あり、これまで余が横臥おうがせるにかかはらず割合に多くの食物を消化し得たるは咀嚼そしゃくの力あずかつて多きに居りし事を。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
しかしよく考えてみるとまくらや寝床の触感のほかに横臥おうがのために起こる全身の血圧分布の変化はまさにこれに当たるものであると考えられる。
路傍の草 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
高き所へ裸体となりて手に団扇うちわを握り、これをつかいながら、『ああラクダ(楽だ)、ああラクダ』といいつつ横臥おうがしていた
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
ただ褞袍どてらを着て横臥おうがした寝巻姿ねまきすがたの津田の面影おもかげが、熱心に舞台を見つめている彼女の頭の中に、不意に出て来る事があった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ハナショウブは、ふつうに水ある泥地でいちに作ってあるが、しかし水なき畑にえても、くできて花が咲く。宿根性草本しゅっこんせいそうほんで、地下茎ちかけい横臥おうがしている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
中には野蛮的の人物が他人の席まで横領して毛布けっとを長く拡げて空気枕をして腰掛の上へ横臥おうがするものもありますがあれは自ら好んで塵や細菌を吸い込むのです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
げかかった漆喰しっくいの壁に向ってじっと横臥おうがしていると、眼の前を小さな虫のような影がとびちがう。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
垂れ下った下葉の、露にしっとり濡れて、鷹揚にうなずく樅、落葉松の、入り乱れた脚もとに、なつかしきはあわれ、横臥おうがして、露に埋もれたカムパヌラの紫である。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
勝軍かちいくさのどよめきの中に、前線の負傷者とも、敵方の病人とも思われないが、戸板のうえに横臥おうがしたまま、滝川の家臣や医師などに護られてこの本営へ入って来たので
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんな恰好かっこうをしていては宜しくない、安静に横臥おうがして挿込さしこみ便器を用いなければならぬと云う医師の忠告があったそうで、お春が行ってから、彼女と奥畑とで無理に説きつけて
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
やわらかい布団ふとん横臥おうがしニコニコと喜べるものと思い、しかしてかくまでにうれしそうな顔しておらるるなら、何ゆえに外出して馬にも乗り、観兵式にでも出られぬと疑ったであろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それはしろっぽい、幾分いくぶんふわふわしたもので、そして普通ふつう裸体はだかでございます。それが肉体にくたい真上まうえ空中くうちゅうに、おな姿勢しせい横臥おうがしている光景ありさまは、けっしてあまりよいものではございませぬ。
透明なように青白く、全く血の気がなくなってしまっているかと思われるような居士は死んだものの如く静かに横臥おうがしているのであった。居士は眼をみひらいて余を見たがものを言わなかった。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
この樹下に横臥おうがするとき、さきにこの樹下にねむりし人をおもい、左門洞のことを思えば、その心の奥に一まつのくゆるがごとき、うらむがごとき、一種の念のきざすのを禁じることができようか。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
そのあいだ彼は、虫の這う様に遅々として下って来る天井を支えながら、徐々に腰をかがめ、次には坐り、次にはうずくまり、遂に横臥おうがして、目を圧する大磐石だいばんじゃくに、とじこめられ、骨をしめぎにかけられるまで
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
聞いて、もう一時間ほど静かに横臥おうがしているのだ
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ただ静かにベッドに横臥おうがしている。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
高き所へ裸体となりて手に団扇うちわを握り、これをつかいながら『ああラクダ(楽だ)、ああラクダ』といいつつ横臥おうがしていた
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
二十余年の昔、小石川こいしかわの仮り住まいの狭い庭へたらいを二つ出してその間に張り板の橋をかけ、その上に横臥おうがして風の出るのを待った夜もあった。
涼味数題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
早速御礼おんれいかたがた御挨拶ごあいさつ可申上之もうしあぐべきの処、病気にかかり頃日来けいじつらい机に離れて横臥おうが致しをり候ひしため延引えんいん致候。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
夜はもうけていた。彼は別室に退いて横臥おうがしていた。が、暫くすると母親に声をかけられた。
美しき死の岸に (新字新仮名) / 原民喜(著)
かすみに眠るアルハムブラの城の上に、ながながと横臥おうがす雪のシェラ・ネヴァダ Sierra Nevada も、アルジェリヤのオランから、サハラのオアシスへむかう途中
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
道三はそう告げてから、また諸所に横臥おうがしている怪我人を見まわった。金創きんそう洗滌せんじょうやら、繃帯ほうたいやら、くすり塗布に当っている門生たちと共に、自分も負傷者の治療へかかった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その三人のうちで一番先にえらばれたものは、やはり津田であった。しかし自分で電話口へ立つ事のできない横臥おうが状態にある彼の消息は、間接に取次の口から聞くよりほかに仕方がなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ぬくめよと云うかしこまって裾の方に横臥おうがし懐を開いて彼女のあしのうら
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その中に、人の横臥おうがしているがごとき姿が並んで見ゆる。その夜は真の暗夜やみよで、しかも一時ごろの深夜であった。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
ある学者の説では炭水素連鎖の屈撓性くっとうせい、あるいは連鎖が界面に横臥おうがしうる性質と関連しているとのことであるが、現在の場合でも連鎖が屈伸自在であればあるほど
鐘に釁る (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
約十歩もへだてた大地に、多くの者が一様に平伏していたが、何ものより先に、彼の眼へ飛びこんで映ったものは、地上にある一枚の戸板と、そのうえに横臥おうがされている平べッたい一個の人体だった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
水中にて溺死できしせるものを陸上へ上げて横臥おうがせしめた場合に、もし血族の者がたずね来れば、必ず鼻血を流出して無言の答えをなすという話はいずくにても申すことだが
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
また、一膳飯いちぜんめしと北枕とは一般に縁起が悪いといわれておる。そのわけは、死んだ仏に差し上げる飯は盛り切りであるのと、死人を横臥おうがさするときに北枕にするからである。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
夜十一時過ぎ、下女が便所に行かんとて廊下に出ずると、庭内に白色の怪物の横臥おうがせるを認め、「化け物がいる」と叫んで逃げ込んだ。その夜は極めて暗黒にして、咫尺しせきも弁ぜざるほどであった。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)