かけはし)” の例文
旧字:
「一年に三、四人、多ければ十人も、思わぬ憂き目を見ることがある。無双の難所ゆえに、風雨にかけはしが朽ちても、修繕も思うにまかせぬのじゃ」
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
はなれ家の座敷があって、廊下がかけはしのようにのぞかれる。そのあたりからもみじ葉越しに、駒鳥こまどりさえずるような、芸妓げいしゃらしい女の声がしたのであったが——
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この工事は夜に入って松明たいまつの光で谷々を照らすまで続いた。垂木岩たるきいわかけはしも断絶せられ、落合橋おちあいばしも切って落とされた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「察するに、先頃の長雨で、山々のかけはしも損じ、崖道がけみち雪崩なだれのため蜀兵もうごくことならず、遂に、われわれの退軍したのもまだ知らずにおるのではあるまいか」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たゞ見るさへあやふければ、芭蕉ばせうが蝶も居直ゐなほる笠の上といひし木曾きそかけはしにもをさ/\おとらず。
貴婦人の社交もひろまり、女子擡頭たいとうの気運は盛んになったとはいえ、そしてまた、女学生スタイルが、追々に花柳界人の跳梁ちょうりょう駆逐くちくしたとはいえ、それは、大正の今日にかかるかけはしであって
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
谷にはかけはしを以てすれば、要するに地続きの実が現われるものですけれども、ここの懸崖というものはちょうど、地球と月世界との間の絶対と同じこと、下を見れば見るほど底の知れない断岸きりぎし——
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それは、何です、剣術の先生は足がふるえて立縮たちすくんだが、座頭の坊は琵琶びわ背負しょったなり四這よつんばいになって木曾のかけはしをすらすら渡り越したという、それと一般ひとつ
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御順路の日割によると、六月二十六日鳥居峠お野立のだて、藪原やぶはらおよびみやこしお小休み、木曾福島御一泊。二十七日かけはしお野立て、寝覚ねざめお小休み、三留野みどの御一泊。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
素袍すおう、狩衣、唐衣、あやと錦の影を交えて、風あるさまに、裾袂、追いつ追われつ、ひらひらと立舞う風情に閨をめぐった。巫山ふざんの雲にかけはしかかれば、名もなき恋のふちあらむ。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その日の泊まりと定めた福島にはいって懇意な旅籠屋はたごや草鞋わらじをぬいでからも、かけはしの方で初めて近く行って見た思いがけない旅の西洋人の印象は容易に彼から離れなかった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かけはしも取り払う、橋々は切り落とす、そんな話があって、一隊の兵と人足らは峠の上に向かった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
蟻をならべた並木の筋に……蛙のごとき青田あおたの上に……かなたこなた同じ雲の峰四つ五つ、近いのは城のやぐら、遠きは狼煙のろし余波なごりに似て、ここにある身は紙鳶たこに乗って、雲のかけはし渡る心地す。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かけはし合渡ごうどから先は木曾川も上流の勢いに変わって、山坂の多い道はだんだん谷底へとくだって行くばかりだ。半蔵らはある橋を渡って、御嶽おんたけの方へ通う山道の分かれるところへ出た。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
つないで掛け、雲のかけはしに似た石段を——ふもと旅籠屋はたごやで、かき玉の椀に、きざみ昆布のつくだ煮か、それはいい、あろう事か、朝酒をあおりつけたいきおいで、通しの夜汽車で、疲れたのを顧みず——時も八月
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
翌日は早く須原をたち、道を急いで、昼ごろにはかけはしまで行った。雪解ゆきげの水をあつめた木曾川は、うずを巻いて、無数の岩石の間に流れて来ている。休むにいい茶屋もある。うぐいすも鳴く。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
家に置いて来た娘お粂のことも心にかかりながら、半蔵はその足で木曾のかけはし近くまで行った。そこは妻籠あたりのような河原かわらの広い地勢から見ると、ずっと谷のせばまったところである。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それを乗り越え乗り越えして進もうとするもの、幾多の障害物を除こうとするもの、かけはしを繕おうとするもの、浪士側にとっては全軍のために道をあけるためにもかなりの時を費やした。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
名高いかけはしも、つたのかずらを頼みにしたようなあぶない場処ではなくなって、徳川時代の末にはすでに渡ることのできる橋であった。新規に新規にとできた道はだんだん谷の下の方の位置へとくだって来た。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)