さらし)” の例文
平次はそんな事は氣にも留めない樣子で、膝行ゐざり寄ると死體に掛けたさらし木綿をり、丁寧に拜んで、暫らくその顏を見詰めて居ります。
あくる日、千日前で「海女の実演」という見世物小屋にはいり、海女の白い足やさらしを巻いた胸のふくらみをじっと見つめていた。
放浪 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
包の中には死躰を拭いたさらし木綿がある、それで吐血を始末したといえばよかろう。よければ親族の集まるまで自分は残っている、と云った。
古今集巻之五 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
木綿のさらしにもSFが入るので、あなたの肌襦袢はだじゅばんのために大なる買占めをして一反サラシを買いました(!)では又。かぜを引かないで下さい。
裸一貫といっても、腹には新しいさらしを巻いていました。そうして裸体はだかであるにも拘らず、脚絆きゃはん草鞋わらじだけは着けていました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
処へ参ったのは業平文治で、姿なり黒出くろで黄八丈きはちじょうにお納戸献上なんどけんじょうの帯をしめ蝋色鞘ろいろざや脇差わきざしをさし、さらしの手拭を持って、ガラリッと障子を開けますと
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「おお! 駿河台と聞いちゃア……」内ぶところへ手を入れて、ギュッとさらしの腹巻をしめ、帯もしっかりと後ろへ廻す。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから長いことかかつて、下腹に巻きつけてあるらしいさらしの腹帯をゆつくりほどいた。固い沈黙が一座を領した。
地獄 (新字旧仮名) / 神西清(著)
鮫鞘さめざやの大脇差わきざしを帶しさらしの手拭を首に捲付まきつけ門口へ出て何も太儀たいぎ今度は此の藤八が一世一代命をまとの願ひすぢ娘を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
彼女はこの雨の中で、時々宵子の顔に当てたさらしを取っては啜泣すすりなきをしているうちに夜が明けた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこでお隅は無地の羽織を選び、藍微塵あいみじんの綿入れ、襦袢じゅばん、それにさらし肌着はだぎまでもそろえて手ばしこく風呂敷ふろしきに包んだ。彼女は新しい紺足袋こんたびをも添えてやることを忘れていなかった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
紙入かみいれを一つと布団ふとんの裏地を一ぴきさらしを二反買つて届けて貰ふ事にした。
六日間:(日記) (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
其方共助命じょめい申付、日本橋ニ於テ、三日さらしノ上、遠島之ヲ申付ル
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
奧へ入つた平次は、若い男の右小鬢こびんの傷を、茶店で出してくれた燒酎せうちゆうで洗つて、たしなみの膏藥をつけ、ザツとさらし木綿を卷いてやりました。
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
「そんなに云われるほどのもんじゃねえんだよ、部屋の人たちにほんのしるしと、あとはおすえちゃんが切ったさらしだけなんだ」
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さらしの二布の下から少し尖つて見える両の膝がしらをのぞかせながら、門のあたりを掃いてゐる姿がかならず見える。
少年 (新字旧仮名) / 神西清(著)
と見ると文治郎水色に御定紋染ごじょうもんぞめ帷子かたびら、献上博多の帯をしめ、蝋色鞘ろいろざやの脇差、其の頃流行はやったまさの下駄、さらしの手拭を持って、腰には金革きんかわの胴乱を
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
右の手首のところをさらしで巻いていましたよ、その晒の外れに血がにじんでいるところを見て、ゾッとしましたぜ
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私の腹帯にしろ、さらし木綿は貴重品、こうやって大切に扱う次第です。
平次はいつものやうに一禮してから、死體の側に膝行ゐざり寄りました。顏を隱したさらしの布を取つて、ハツと息を呑んだのも無理はありません。
白いさらし木綿の腰のもの以外にはなにも着ていなかった。泳いで来るために裸になったのであろう、白い腰のものだけが、水の中でひらひらしていた。
暴風雨の中 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
とっさん、手拭を持っているかい、その手拭を河原へ行ってらしておいで、しぼらないでいいよ、それから、足へ捲くきれが欲しいな、その三尺で結構、ナニ、さらし
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
幸い傷は浅かったので、用意の焼酎しょうちゅうで洗って、さらしでグルグル巻くと、寝呆ねぼけたお駒を叩き起して、町内の外科を呼ばせました。
かれらは白いさらし木綿で包んだままの、小さなかんを担いでいた。たぶん赤児の葬いであろう。誰もものを云わず、まるで影絵のように、黙って通り過ぎたのであった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
道庵先生は折れた右足のすねさらしで捲く、濡らして来た手拭を頭と顔へ捲いて肩井たちかたんで背を打つと
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼は顔と頭の半分をさらし木綿で巻き、右手もやはり晒木綿で巻いて、くびからっていた。
みずぐるま (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
やっとのことで創を洗って、膏薬をってさらしで首筋を巻きました。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「亭主、大急ぎ、焼酎しょうちゅうと畳針を心配してくれ、それに麻糸とさらし
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)