くら)” の例文
ゆえに著者にとってはいやしくも正理をくらます一切は——自分であっても他人であっても——ことごとく致命的にやっつけねば気がすまないのだ。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
諸手もろてをばいましめられたり。我身上みのうへは今や獵夫さつをに獲られたる獸にも劣れり。されど憂に心くらみたる上なれば、苦しとも思はでせくゞまり居たり。
心得たる男なれば宅兵衞がすきうかゞひ持たる太刀たちを打落しひるむ處をつゞけ打におもて目掛めがけて討ければ宅兵衞はまなこくらみて蹌踉よろめくを吾助は得たりと落たる刀を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
鹿沼のネムッタ流しは七日の夜明方であった。くらいうちから起きて子供らが水を浴びる。こうすると病気にかからぬといっている(山口貞夫君話)。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
今の心のさまを察するに、たとえば酒に酔ッた如くで、気はあれていても、心は妙にくらんでいるゆえ、見る程の物聞く程の事が眼や耳やへ入ッても底の認識までは届かず
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
といつて、現在の眞鍋のかうした遊びといふものが正しいのかとじつくり自問自答をしてみれば、これもやはり己靈の光輝をくらましてゐることに變りはないのである。
ボルネオ ダイヤ (旧字旧仮名) / 林芙美子(著)
さらにつよく心をきてしば/\記憶を奪ふもの、彼のさとりの目をくらませしなるべし 一二四—一二六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
しかしまた振り返って自分等が住んでいた甲斐の国の笛吹川に添う一帯の地を望んでは、黯然あんぜんとしても心もくらくなるような気持がして、しかもそのうっすりと霞んだかすみそこから
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ずこの様子ならりではなかろう、主人の注意と下婢かひの働きで、それぞれの準備を終り、穂高よりすぐ下山する者のためにとて、特に案内者一名をやとい、午前の四時、まだくらいうち
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
心立おとなしく女に定まりし芸優れて、万にくらからず、身に黒子ほくろひとつ
当世女装一斑 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かんばしきにくらまされて、つりの糸にかかり身をうしなふ事なかれといひて、去りて見えずなりぬ。不思議のあまりにおのが身をかへり見れば、いつのまにうろこ金光きんくわうを備へてひとつの鯉魚りぎよしぬ。
真理はすでに厳然として在るのであります。ただ事情のためにくらまされているだけであります。つまり可抗力的誤解です。その例は国際間の浮説、世上の噂、個人の周囲到るところに見出されます。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかし天賦てんぷの能力と教養の工夫とでようやく鋭くなった兄さんの眼を、ただ落ちつきを与える目的のために、再びくらくしなければならないという事が、人生の上においてどんな意義になるでしょうか。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かえりやどれる至理くらからずあるものなり。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
れば嘉川主税之助は我子の愛にまなこくらみ終に其家名を失ふに至る事これなんぢいでて汝に歸るの古言むべなるかな此度ばんすけ十郎建部郷右衞門の兩人藤五郎兄弟を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
農家のようにくらいうちから起きるのでなければ、この茶の子のあとで朝飯を食べ、それからまた昼のしたくをするというのは、なるほど必要もないことであったろう。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
後に思へば、われは世馴れぬ節多く、男女なんによの間の事などにくらきは、赤子に異ならぬ程なれば、サンタの如き女に近づくことの、多少の危險あるべきを知るに由なかりしなり。
猛烈に諸縁を放下して專一に己事を究明することを上等となし、修業純ならず、駁雜にして學を好む、これを中等となし、自ら己靈の光輝をくらまして、たゞ佛祖の涎唾を嗜む、これを下等といつた。
ボルネオ ダイヤ (旧字旧仮名) / 林芙美子(著)