明地あきち)” の例文
園生は、一重の垣を隔てて、畑造りたる裏町の明地あきちに接し、すももの木、ぐみの木、柿の木など、五六本の樹立こだちあり。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その頃小金井こがねい東片町ひがしかたまちに住んでいました。始めは弓町ゆみちょうでしたが、家主が、「明地あきちがあるから」といって建ててくれたのです。弓町では二棟借りていました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
その枝は四百一尺の周囲まわり明地あきちをグルリと覆ふてゐる。一二二九年に此の木はもう余程年とつてゐた。其の時代の著述家に『大きなリンデン』と云はれてゐた。
或は車なんどを曳いてあまねく府下を横行なし、所々にて救助を得たる所の米麦又は甘藷さつまいもたぐひくだんの車に積み、もて帰りて便宜の明地あきちに大釜を据ゑ白粥を焚きなどするを
嘉永板の切絵図きりえずには金剛寺の裏手多福院に接する処明地あきちの下を示して鶯谷とはしるしたり。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そこは林に囲まれた小さな明地あきちで、小猿は緑の草の上を、ならんでだんだんゆるやかに、三べんばかりまわってから、楢夫のそばへやって来ました。大将が鼻をちぢめて云いました。
さるのこしかけ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
先方せんぱうでは貴顕きけんのお客様きやくさまですから丁寧ていねい取扱とりあつかひでございましておかみかたはお二階にかいあるひ奥座敷おくざしきといふのでわたくしつぎのお荷物の中の少々せう/\ばかりの明地あきちかしていたゞく事にあひなりました。
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
明地あきちのなかに植ゑた黄色や、赤の小さい瑪瑙のやうなのや、また大きな柿のやうなトマトを親しげに見まもりながら、またいつもの鶏が来てその實をつゝきはしないかと心をくばった。
雛鳥の夢 (新字旧仮名) / 素木しづ(著)
かく母屋の方に廻つて見たが、元より不知案内の身の、何う為る事も出来ぬので、むし足手纏あしてまとひに為らぬ方が得策と、其儘そのまゝ土蔵の前の明地あきちに引返して、只々たゞ/\その成行を傍観して居た。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
霜月のとりには論なく門前の明地あきちかんざしの店を開き、御新造に手拭ひかぶらせて縁喜のいのをと呼ばせる趣向、はじめは耻かしき事に思ひけれど、軒ならび素人の手業てわざにて莫大ばくだいもうけと聞くに
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
爰にはこび小西屋には裏手の明地あきちへ更に武左衞門が隱居所いんきよじよいとな普請ふしん出來しゆつたいの其の上は爰より嫁入よめいりをさせんと計りぬ然るに大岡忠相ぬしは町奉行の身をもちて之が𫥇人なかうどに立んと言しは元益等がうらみふくまんを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
饑饉年が来るから用心しなさいと言って、その晩、夜どおし触書ふれがきをつくって諸方へ廻して、皆の者に勧めることには、明地あきち空地くうちは勿論のこと、木棉わたを植えた畑をつぶしてもいいから
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
中風ちゅうぶでお悩みなすってから、動くことも出来なくおなりで、うちは広し、四方は明地あきちで、穴のような処に住んでたもんだから、火事なんぞの心配はないのだけれど、盗賊どろぼうにでも入られたら
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
霜月しもつきとりにはろんなく門前もんぜん明地あきちかんざしみせひらき、御新造ごしんぞ手拭てぬぐひかぶらせて縁喜ゑんぎいのをとばせる趣向しゆこう、はじめははづかしきことおもひけれど、のきならび素人しろうと手業てわざにて莫大ばくだいもうけとくに
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そしてもう森の中の明地あきちに来ました。
よく利く薬とえらい薬 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)