昆虫こんちゅう)” の例文
旧字:昆蟲
臙脂虫えんじむし、油虫、足長蜘蛛あしながぐも、二つの角のある尾を曲げて人をおびやかす黒い昆虫こんちゅうの「鬼」。また物語にあるような怪物をも持っている。
こおろぎや蜘蛛くもありやその他名も知らない昆虫こんちゅうの繁華な都が、虫の目から見たら天を摩するような緑色の尖塔せんとうの林の下に発展していた。
芝刈り (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
よくするためには蘡薁えびづるという蔓草つるくさくきの中に巣食すく昆虫こんちゅうを捕って来て日に一ぴきあるいは二匹ずつ与えるかくのごとき手数を要する鳥を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
華車きゃしゃな骨に石鹸玉のような薄い羽根を張った、身体の小さい昆虫こんちゅうに、よくあんな高い音が出せるものだと、驚きながら見ていた。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
窓ガラスの外側で羽ばたきしてる昆虫こんちゅうのように、コリーヌの面影が彼の心の外で飛び回っていたが、彼はそれを心の中にはいらせなかった。
さて私が前回に葉切りありの話をしたのは、昆虫こんちゅう社会にもなかなか経済の発達した者がいるという事を示さんがためであった。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
二十箇ほどのガス燈が小屋のあちこちにでたらめの間隔をおいてつるされ、夜の昆虫こんちゅうどもがそれにひらひらからかっていた。
逆行 (新字新仮名) / 太宰治(著)
中年婦人はめがねのふちをつまんで、なにか珍しい昆虫こんちゅうでもみつけたように、つくづくと春彦の顔を見まもり、あんたの田舎はどこかときいた。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
主な楽しみといえば、銃猟や魚釣さかなつり、あるいは貝殻かいがら昆虫こんちゅう学の標本を捜しながら、なぎさを伝い桃金嬢の林のなかを通ってぶらつくことなどであった。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
既に歴史的自然によってそこに一つの課題が解かれたといい得ると共に(例えば昆虫こんちゅうの眼ができたという如く)
絶対矛盾的自己同一 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
白い卵をかかえて、右往左往する昆虫こんちゅうはそのまま人間の群集の混乱の姿だった。都市が崩壊し暗黒になってしまっている図が時々彼の夢には現れるのだった。
苦しく美しき夏 (新字新仮名) / 原民喜(著)
雨のためいためられたに相異ないと、長雨のただ一つの功徳くどくに農夫らのいい合った昆虫こんちゅうも、すさまじい勢で発生した。甘藍キャベツのまわりにはえぞしろちょうがおびただしく飛び廻った。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
動物や昆虫こんちゅうの保護色の原理を、色シャツの手早い取り替えという方法で応用したのである。ごく薄手のメリヤスだから、何枚重ねてもたいしてからだがふくらむわけではない。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
実に不可思議千万ふかしぎせんばんなる事相じそうにして、当時或る外人の評に、およそ生あるものはその死になんなんとして抵抗を試みざるはなし、蠢爾しゅんじたる昆虫こんちゅうが百貫目の鉄槌てっついたるるときにても
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
羊や山羊やぎかに獅子しし昆虫こんちゅうのたぐいに仮体かたいして、山河に飛散していたもろもろの星が、すっかりめいめいの意味をもって、ちゃあんとそれぞれ天空の位置にはめ込まれていた。
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
おおきい、きれいなちょうだな。小鳥ことりぐらいあるかしらん。おとうとつけたら、きっとつかまえてしまうだろう、今年ことしなつは、すばらしい昆虫こんちゅう標本ひょうほんをつくるのだといっていたから。
黒いちょうとお母さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
それはゼンマイ仕掛けの人形とはちがい、どう見ても昆虫こんちゅうのような生きものに思えた。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
まっ暗なので、彼はまだ夢を見ているのかと思ったが、手探りで電燈のスイッチをひねると、巨大な昆虫こんちゅうのうずくまったように、緑のペンキで塗ったトラックが眼の前に浮かび上った。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
人間どもはどっさり御飯をつめ込んで、昼寝の夢をむさぼっていましたし、小鳥も鳴りをひそめていますし、昆虫こんちゅうたちもたいていは日ざしを避けて、どこかへもぐり込んでいたほどでした。
草も木も昆虫こんちゅうも、多数の生物は、空中に渦巻うずまきのぼる生命の大火炎のひらめく言葉であった。すべてが喜びに叫んでいた。
足下に草の間に見いださるる昆虫こんちゅうを見てはその庭を愛し、頭の上に木の枝の間に見らるる星をながめてその庭を愛した。
しかし、結局人間でも昆虫こんちゅうでも植物でも、そうして死ぬることによって自分の生命を未来に延長させているのである。
沓掛より (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
専門の博物学者にはあらざれども、昆虫こんちゅうの生活状態を研究することに特別の趣味を有しいたる人にて、この人が初めてこの葉切り蟻がきのこを培養しつつあることを発見したのである。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
「この三角岳メトロポリスには、われわれ木のほかに、昆虫こんちゅう、鳥、小さいけもの、石などにも、人間と同じように考えたり、お話をうけたまわったり、ご返事できる者が、たくさんいるのですよ」
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
昆虫こんちゅうも貞節でなければものの役には立たぬと見えて、後妻をめとったり再嫁したやつは、薬になる資格さえ無いというわけである。けれども、それを捜すのに、自分はそんなに骨を折らなくてすんだ。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ことに昆虫こんちゅう学者として、その蒐集しゅうしゅうと著述とが知られている。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
うっかりすると目を突きそうである。また雑草の林立した廃園を思わせる。ありのような人間、昆虫こんちゅうのような自動車が生命の営みにせわしそうである。
銀座アルプス (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そこの緑の楽しい影のうちでは、汚れに染まぬ数多の声が静かに人の魂に向かって語っており、小鳥のさえずりで足りないところは昆虫こんちゅうの羽音が補っていた。
ただ、昆虫こんちゅうや青虫など、たえず森をかじって破壊する無数の生物の、神秘な蠢動しゅんどうの音が聞えるばかりだった——決してやむことのない規則正しい死の息吹いぶきである。
ある学者の説によると、動物界が進化の途中で二派に分かれ、一方は外皮にかたいキチン質を備えた昆虫こんちゅうになり、その最も進歩したものが蜂やありである。
簔虫と蜘蛛 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
歯朶しだ、毛蕊花、毒人参どくにんじん鋸草のこぎりそう、じきたりす、丈高い雑草、淡緑のラシャのような広い葉がある斑点のついた大きな植物、蜥蜴とかげ甲虫かぶとむし、足の早い臆病おくびょう昆虫こんちゅうなど、様々なものを呼び集め
もしや昆虫こんちゅうかあるいは鳥類の群れが飛び立つ音ではないかと思ってみたが、しかしそれは夜半の事だというし
怪異考 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
戦争のないうちはわれわれは文明人であるが戦争が始まると、たちまちにしてわれわれは野蛮人になり、獣になり鳥になり魚になりまた昆虫こんちゅうになるのである。
からすうりの花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
昆虫こんちゅうや鳥獣でない二十世紀の科学的文明国民の愛国心の発露にはもう少しちがった、もう少し合理的な様式があってしかるべきではないかと思う次第である。
天災と国防 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
科学者がある物質を強い電場や磁場に置いてみたり、ある昆虫こんちゅうを真空や高圧の中にいれてみたりする。
映画雑感(Ⅱ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
昆虫こんちゅうの生活」という書物を読んだ時に、地蜂じばちのあるものが蜘蛛を攻撃して、その毒針を正確に蜘蛛の胸の一局部に刺し通してこれを麻痺まひさせるという記事があった。
簔虫と蜘蛛 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
たとえば昆虫こんちゅうの生活といったようなものは人間の義理人情とはなんの関係もないことである。「植物社会学」の教科書の記事は、人間の社会生活と一糸の連絡もない。
科学と文学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
さるや鳥などが、その食料とするいろいろの昆虫こんちゅうの種類によって著しい好ききらいがあって、その見分けをある程度までは視覚によってつけるらしいということが知られている。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
昆虫こんちゅうの標本を集めたり植物腊葉しょくぶつさくようを作ったり、ビールびんで水素を発生させ「歌う炎」を作ろうとして誤って爆発させたり、幻燈器械や電池を作りそこなったりしていたのである。
科学と文学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかしあらゆる現代科学の極致を尽くした器械でも、人間はおろか動物や昆虫こんちゅうの感官に備えられた機構に比べては、まるで話にもならない粗末千万なものであるからおかしいのである。
試験管 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
昆虫こんちゅうの研究者が蝶やありでも研究するように、この小略奪者たちの習性を研究する目的でいろいろの実験をしてみればきっとおもしろくまた有益だろうと思うが、自分にそれほどの暇も熱心もない。
路傍の草 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
不毛の地に最初の草の種が芽を出すと、それが昆虫こんちゅうを呼び、昆虫が鳥を呼び、その鳥の糞粒ふんりゅうが新しい植物の種子を輸入する、そこにいろいろの獣類が移住を始めて次第に一つの「社会」が現出する。
日本人の自然観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
はさみのさきから飛び出す昆虫こんちゅうの群れをながめていた瞬間に、突然ある一つの考えが脳裏にひらめいた。それは別段に珍しい考えでもなかったが、その時にはそれが唯一の真理であるように思われた。
芝刈り (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
まだ小学校にかよったころ、昆虫こんちゅうを集める事が友だち仲間ではやった。
花物語 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)