さかん)” の例文
土木は、民意をさかんにさせる。民土にひそむ敵愾てきがい心を、戦いへ総結させるためにもこの際——と秀吉は大規模にそれへ取りかからせた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さっきから歌うように鳴り出していた雨樋は、いよいよさかんな雪解水が注ぎこみ、時々ゴボゴボゴボとむせび泡立つ音を立てている。
今朝の雪 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
発狂人の多くは勇気あり熱心あり気象のさかんであるのであるが、惜しいかな心を守り、気をおさえる力がないのである。古人のいわ
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
深夜になり、深夜でなくともしきりと警官に訊問されたが、左翼運動のさかんな時代で、徹底的に小うるさく訊問された。
日本文化私観 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
囲炉裏に笹の葉を焚いて、あたりが暖くなったためか、炉辺ろばたでコオロギが鳴き出した。笹の葉を焚くのだから、真冬のほたのようなさかんな火になる気遣きづかいはない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
宇宙の諸天をこと/″\く蔽ひ、神の聖息みいきのりとをうけて熱いと強く生氣いとさかんなる王衣おうのころもは 一一二—一一四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
〔評〕幕府ばくふ南洲にわざはひせんと欲す。藩侯はんこう之をうれへ、南洲を大島おほしまざんす。南洲貶竄へんざんせらるゝこと前後數年なり、而て身益さかんに、氣益さかんに、讀書是より大に進むと云ふ。
そはいたく違へり。その土地の豐腴ほうゆなることは、北伊太利ロムバルヂアに比べて猶優りたりとも謂ふべく、茂りあふ草は莖肥えて勢さかんなり。廣く平なる街道ありてこれを横斷せり。
何によらず欲望がさかんで、未知なもの新しいものに心を惹かれ、むさぼるやうに讀み、書き、見、ほんとうに生きてゐると感じ、全身が内からの活力に燃えてゐた時代を彼ははるかな昔のやうに感じた。
第一義の道 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
戦国の英雄が諸州におこした頃であったから、長柄の流行は、さかんを極めて、戦場ばかりでなく、平時でも引っ提げて歩く者があった。
剣の四君子:03 林崎甚助 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何とはなしどっさりの女のさかんな気配が動いていて、『静かなる愛』とは実につよい対照をなす美と生活力とを表現しているのは感興をひかれる。
日本人は威儀のさかんなる者を敬ひ、又進物を愛することを痛感し、今後の布教にこの気質を利用すべしと悟り、爾来続々来朝の伴天連はこれを日本布教法の原則のやうに採用した。
煮売屋の鍋の下を焚き立てる火が、さかんに赤々と燃えている。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
肋骨あばらは、さかんな心臓を抑えるため、よろいのように張って来て、思わず、材木のように腫れている足で、がばと蒲団を退けてしまう。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
折から、かつてはプロレタリア文学運動の主唱者の一人であった林房雄氏等からさかんに文芸復興の叫びがあげられた。
今日の文学の鳥瞰図 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
その時から先生さかんに立ち上って窓外の景色を眺めついに美事に退院のはこびとなった。
「いや、いや、敵の士気のさかんなことは、味方の比ではない。馬は龍の如く、人は虎のようだ、あの一りゅうの大将旗の鮮やかさが見えんか」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
血気のさかんな稼ぎ手の息子らに左右から押しつけられ、温泉にでもつかったようにじっと仰向いておとなしくしていたが、暫くすると、庄平は萎びた指で
猫車 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
これこそ天の引き合わせであろうと、城楼に大宴をひらいて陳震を上座に迎え、呉の諸大将も参列して、さかんなもてなし振りを示していた。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この頃、日本映画の製作がさかんになって来て文芸映画がいくつかつくられ、水準も高くなったと云われて居ります。
「これでも、今の時代は宗教がさかんだといえるだろうか。旧教の仏徒から、嫉視しっしを受けるほど、勃興していると見られている念仏門が——」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私たち一般人の生活の日常では、炭や米の問題がさかんにおこって来たこの二ヵ月ばかり前のことであった。
地の塩文学の塩 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
体力もまださかんなものだった、異常な精神力は、六十ぢかいとはどうしても、見えないくらいなつやのいい皮膚にもみなぎっている。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あんな生き恥のような晩年の作品をのこした歌麿さえ、仕事をさかんにやった頃はやはり気品が満ちています。遊女を描いてもそこに品性がありました。芸術として。
来てみると、そのさかんなのに袁紹も驚いた。軍簿の到着に筆をとりながら、おもなる味方だけを拾ってみると、その陣容は大したものであった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は北がすきです、冬の長さ、春のあの愉しさ、初夏の湧くような生活力、真夏のあつさのたのしみかた、さかんですきよ。東京は雪の少いのだけでも物足りませんね。
大坂城は、今なおさかんなる工事中である。城濠、外廓、諸侯の邸第ていだいなどには、相変らず数万の人夫と工匠が昼夜なく働いている。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
保に向ってかいているうちに、みんながさかんな食慾を発揮しながら、あてどなく時間と生活力を濫費している動坂の家の暮し全体が伸子にしんからいやに思われて来た。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
彼のさかんな客気は今、その野望で満身を燃やしながらここに坐っている。しかもそれを現わさずにである。夜も静か、客も静かなうちにである。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日常生活の緊張から云っても、複雑さから云っても、刺戟のつよさから云っても、人々は文学にこれまでより肺活量の多いものを、生活力のさかんなものを要求する心理にある。
文学の流れ (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
近国はおろか、陸奥みちのくにまで、すでに上人の徳はあまねく行きわたっているし、念仏宗に対する人々の信仰は、日に月にさかんになってきている。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
青年論その他の形でさかんに討論せられるヒューマニズム論は、自然、良心的市民全般の生活態度への示唆として注目をひきつけずにはいなかったのであったが、残念なことに
今日の文学の展望 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そのほか、汝陽じょよう呂蒙りょもうとか、呉郡の陸遜りくそんとか、瑯琊ろうや徐盛じょせいとか——実に人材雲のごとしで、呉のさかんなことも、故なきではないと思わせられた。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新生活をもとめる女のひとの間に俳優になろうとする気運がさかんであったということも時代の空気だったのでしょうね。上山浦路(草人の妻)は女子学習院出身で、学校は除名した由。そんな時代。
しかも梁山泊の勢いは、日に日にさかんとなりつつある。疑心暗鬼、つねに祝家荘しゅくかそう一円が、彼から蚕食さんしょくされはしまいかと、厳に警戒しあっていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秦新聞班長などの活動はなかなかさかんなのである。
文芸時評 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「さしもさかんだった黄巾賊の勢力も、洛陽の派遣軍のために、次第に各地で討伐され、そろそろ自壊しはじめたようですな」
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さかんな夏の風景が実に匂い立つばかりです。
「いや、貴公は性火の燃ゆるごときものあって、意気はまことにさかんではあるが、また非常に危険でもある。深く慎み給え」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ああさかんなものだ。魏と蜀は、ここ連年にわたって、祁山きざん渭水いすいに、莫大な国費と兵力を消耗してきているが、呉のみは独りほとんど無傷である。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
許都のさかんなるは、曹操の旺なるを示すだけに止まるものであって、極端な武権政治が相府というかたちでここに厳存し
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さすがは強大国、いままで曹操が敵として見た諸国の軍とは、質も装備も段ちがいだ。さかんなるかな、河北の人馬は」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
必然、彼のさかんなる覇気叛骨はきはんこつも、一敗地にまみれ去った。手勢の大半は、千じんの谷底へ追い落しを喰い、残余の兵をかかえて、命からがら逃げのびた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
考えてみると、江戸城もさかんに修築しているし、市街にもどんどん家屋が建って行くので、町というほど、木挽の小屋が集まっているのも道理である。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
通路は牛馬のわだちで縦横にえぐられ、耳に聞えてくるものもすべて秀吉のさかんなる意欲の縮図とられないものはない。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも、朗々と、のすだれの陰からは、伊織の読書の声がながれている。秋となっても、蝉の声はまださかんだったが、到底、その伊織の声にはかなわない。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いま漢中はのうちに収めたものの、曹操が本来の意慾は、多年南方に向ってさかんであったことはいうまでもない。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼等の生活力のさかんなこととを見せて来たが、藩士側の屋敷町区域は、まったく対蹠的たいしょてきに音もない沼のようだった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
唯、そんな家庭にも絶えずさかんな物音がある所以ゆえんは、元気な男の子二人のためだった。兄の紀一郎がことし十五。
剣の四君子:04 高橋泥舟 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大船の建造はさかんだった。それをどんどん鄱陽湖はようこにあつめ、周瑜が水軍大都督となって、猛演習をつづけている。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)