整然きちん)” の例文
の透く髪を一筋すき整然きちんと櫛を入れて、髯のさきから小鼻へかけて、ぎらぎらと油ぎった処、いかにも内君が病身らしい。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白地に濃い葡萄色の矢絣やがすりの新しいセルの単衣に、帯は平常ふだんのメリンス、その整然きちんとしたお太鼓が揺めく髪に隠れた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
舞台で坐っているよりももっと整然きちんとかしこまったままで、吉五郎や子分達がおもしろそうに飲んでいるのをまじまじと眺めていました。そのうちにどこかで一番鶏が歌い始める。
子供役者の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ああ!」彼は早速それをひろげて、さっと一通り眼をとおしたが、そのあまりにも整然きちんとした綺麗な出来ばえにびっくりした。「実に見事に書けておりますねえ。」と彼は言った。
箪笥の上には高価な指輪が二つと、ダイヤ入りのブローチが一つ、元のままに載っていて、陳列玻璃ガラス函の中の骨董品にも手を触れた形跡がなく、へやの中は整然きちんとなっていたそうです。
やがてあいちやんは整然きちん片付かたづいたちひさな部屋へやきました、まどうちには洋卓テーブルもあり、其上そのうへには(あいちやんののぞどほり)一ぽん扇子せんすと二三のちひさなしろ山羊仔皮キツド手套てぶくろとがつてゐました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
ガラス戸の箱へいれた大きな人形だの、袋入りの琴だの、写真挟みだの、何だのだの体裁よくならべてあって、留守のうち整然きちんと片附いているけれど、帰って来ると、書物を出放だしばなしにしたり
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
何かと家のなかの物を整然きちんと取り片づけ、小ざつぱりさせて置いた。
シカモ余り広くはなかったが、木口きぐちを選んだシッカリした普請で、家財道具も小奇麗に整然きちんと行届いていた。親子三人ぎりの家族で、誰が目にも窮しているどころか、むしろ気楽そうに見えていた。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
此處こゝ整然きちんとしてこしけて、外套ぐわいたうそであはせて、ひと下腹したつぱら落着おちついたが、だらしもなくつゞけざまにかへつた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
真黒まつくろに煤びた屋根裏が見える、壁側に積重ねた布団には白い毛布がかかつて、それに並んだ箪笥の上に、枕時計やら鏡台やら、種々いろんな手廻りの物が整然きちんと列べられた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
二、三げんあいを置いて、おなじような浴衣ゆかたを着た、帯を整然きちんと結んだ、女中と見えるのが附いて通りましたよ。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
漸々やう/\開園式が濟んだ許りの、文明的な、整然きちんとした、別に俗氣のない、そして依然やはり昔と同じ美しい遠景を備へた此新公園が、少からず自分の氣に入つたからである。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
と、肩にななめなその紫包を、胸でといた端もきれいに、片手で捧げたひじなびいて、衣紋えもんつま整然きちんとした。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
漸々やうやう開園式が済んだ許りの、文明的な、整然きちんとした、別に俗気のない、そして依然やはり昔と同じ美しい遠景を備へた此新公園が、少からず自分の気に入つたからである。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
この女は、主税が整然きちんとしているのを、気の毒がるより、むしろ自分の方が、為に窮屈を感ずるので。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やつ少許すこし入口のを開けては、種々いろんな道具の整然きちんと列べられたへやの中を覗いたものだ。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
胡坐あぐら整然きちんと直して、ここで十万軒が崖にごつごつをぶちけたが、「そうでござんすとも、東京からいらしったんでは。」ためにいきおいくじけたそうで、また胡坐で
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なるべくは、銘々それぞれの収入も、一番の姉が三百円なら、次が二百五十円、次が二百円、次が百五十円、末が百円といった工合に長幼の等差を整然きちんと附けたいというわけだ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一ツ曲って突当りに、檜造ひのきづくりの玄関が整然きちん真四角まっしかくに控えたが、娘はそれへは向わないで、あゆみの花崗石みかげいしを左へ放れた、おもてから折まわしの土塀のなかばに、アーチ形の木戸がある。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
出家はうなずくようにして、机の前に座を斜めに整然きちんと坐り
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)