憫然ふびん)” の例文
葛籠に記号しるしもござりませんから、只つまらないのは盲人宗悦で、娘二人はいかにも愁傷致しまして泣いて居る様子が憫然ふびんだと云って
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
するとうしても自分じぶん一人ひとりがこんな窮境きゆうきやうおちいるべき理由りいうがないやうかんぜられた。それから、んな生活せいくわつ状態じやうたいあまんじて一生いつしやうおく兄夫婦あにふうふ如何いかにも憫然ふびんえた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
おと顏色がんしよく蒼然あをざめて居ける處へ又七は立出たちいで何故なにゆゑ其樣にふさぎ居るや心地こゝちにてもあしきかとひけるに長助はりのまゝわけを話し涙をながしけるを又七は憫然ふびんに思ひ我等われら其金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
……ても憫然ふびんつなよの、汝等おぬしらだまされたなう、汝等おぬしらわしもぢゃ、ロミオが追放つゐはうになりゃったによって。
思ひ遣れば思ひ遣るだけ憫然ふびんさの増し、煙草捻つてつい居るに、婆は少しくにぢり出で、夜分まゐりまして実に済みませんが、あの少しお願ひ申したい訳のござりまして、ハイ/\
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
如何樣いかやうの重き御仕置にても爲下され富右衞門儀は御ゆるしを偏へに願ひ上奉つるとなみだと共に願ふにぞ大岡殿にも孝心かうしんの段憫然ふびんの至りなりと思されけれども今さらやむ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
するとどうしても自分一人が、こんな窮境におちいるべき理由がないように感ぜられた。それから、こんな生活状態に甘んじて一生を送る兄夫婦がいかにも憫然ふびんに見えた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
悪い奴に取囲まれ、切られて死んだかと思えば憫然ふびんじゃなア、月岡の寺へ葬りになりましたとは知らずに居りましたが、左様かえ、致し方はない、何うも情ないことで
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
カピ長 むすめならべてロミオどのゝ黄金こがねざうをもまうそう、たがひの不和ふわ憫然ふびん犧牲いけにえ
晴れ晴れとした気持のする日もなくて終ることならんと、思いやれば思いやるだけ憫然ふびんさの増し、煙草ひねってつい居るに、ばばは少しくにじり出で、夜分まいりましてまことに済みませんが
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そのうち小兼が剃刀を持って暴れ込んで、切るの突くのと騒いだのでに受けて、何うして/\其れまでにするにゃア容易じゃア有りません、憫然ふびんだが小兼を縛り附けて
つくさんと思へば實父は御仕置となり是りやどうしたらよからうぞと大聲おほごゑあげ號出なきいだしければ越前守殿は彌々いよ/\憫然ふびんと思はれしが是や/\其方其樣そのやうなげき實父にかはらんと申せども最早もはや富右衞門はお所刑しおきに相成しぞされば其富右衞門が蘇生いきかへると云ふは無れども其方の孝心かうしん天へ通じ其惠そのめぐみにて實父富右衞門がまた蘇生そせいなす間じきものにあらず因て其方は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
顔も見ねえでおッんでしまって憫然ふびんだって泣いただ、本当に可哀想に、南無阿弥陀仏/\/\
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
又「お前、何でわしが是程まで惚れたに愛想尽しを云って、年を取って男はわるくも、それ程まで思うてくれるか憫然ふびんな人というじょうがなければ成らぬが何んで其の様に憎いかえ」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
空腹の余り悪い事とは知りながら二つ三つ瓜を盗みたべました処をおとがめで、なんとも恥入りました事で、武士たる者が縄に掛り、此の上もない恥で、どうか憫然ふびんと思召してお許し下されば
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
われが改心致せばい女房を世話して遣ろうと云ったは松屋にかくまってあるお蘭の事だ、手前全く改心致せば、れ程までに思うお蘭の心を憫然ふびんに思い、山三郎媒介なこうどいたして連添わせようと申したのだ