おも)” の例文
そはもし衣にだにもさはらばいえんとおもへばなりイエスふりかへりをんなを見て曰けるはむすめよ心安かれ爾の信仰なんぢを愈せり即ち婦この時よりいゆ
忘れがたみ (新字新仮名) / 原民喜(著)
『甲斐国志』能呂川の条に「河側に木賊多し、残篇風土記に、巨摩郡西隈本木賊とあり、おもふにこの川の古名なるべし」
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
おもいのほか金が散かったり品物がかけになったりして、資本の運転が止ったところで、去年よりも一層不安な年の暮が、すぐにまた二人を見舞って来た。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そも/\将門少年の日、名簿を太政大殿に奉じ、数十年にして今に至りぬ。相国摂政しやうこくせつしようの世におもはざりき此事を挙げんとは。歎念の至り、言ふにからず。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
早暁臥床を出でゝ、心は寤寐ごびの間に醒め、おもひは意無意いむいの際にある時、一鳥の弄声を聴けば、こつとしてれ天涯に遊び、忽として我塵界に落るの感あり。
山庵雑記 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
されど人間にありては、汝等のよく知る理由ことわりにもとづき、おもふこととあらはす力とその翼同じからず 七九—八一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
と、中途から、調子が狂つて、おもひに委せなくなり、次第に私は渋りはじめた。さうなつては、つづけてゐるのに苦痛だけが残つて、大袈裟な絶望感さへ伴つて来る。
大凶の籤 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
はじめおもへらく、これらのこと、幕にもすでに諜知すべければ、明白に申し立てたる方、かへつてよろしきなりと。すでにして逐一ちくいち口を開きしに、幕にて一円知らざるに似たり。
留魂録 (新字旧仮名) / 吉田松陰(著)
あり触れた和漢の故事を述べてまたその話かと言わるるをおそれ、唐訳の律蔵よりいとも目出たい智馬ちばの譚を約説して祝辞に代え、それから意馬いばはしるに任せ、おもい付き次第に雑言するとしよう。
初め渋木生、えきして江邸にり、余の西遊に必らず故あらんとおもい、脱走して邸を出で余をわんと欲す。余の江戸に帰るに及んで、きたりて余の寓居に投ず。生人となり孱々せんせんたる小丈夫のみ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
朱陸しゆりく以下各ちからを得る處有りと雖、かも畢竟ひつきやう此の範圍はんいを出でず。おもはざりき明儒みんじゆに至つて、朱陸しゆりくたうを分つこと敵讐てきしうの如くあらんとは。何を以て然るや。今の學ぶ者、宜しく平心を以て之を待つべし。
何故、浪費してはいけないのだらう、一生に一度しかない華やかな時期ではないか、雁江は自分が働いてゐないために浪費が批難されてゐるとおもった。
滑走 (新字旧仮名) / 原民喜(著)
淡雪がおもいがけなく、また降って来たりしたが、春の日光に照されて、直にびしょびしょ消えて行った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その略に曰く、太祖たいそ升遐しょうかしたまいておもわざりき大王と朝廷とげきあらんとは。臣おもえらく干戈かんかを動かすは和解にかずと。願わくは死を度外に置きて、親しく大王にまみえん。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
むる時、亦たかくの如し、おもはざらんと思ふに意ひ、意はんと思ふに意はず。
山庵雑記 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
おもいもかけない二百円ばかりのまとまった金を、それでその爺さんが持込んで来てくれたのであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
燕王の言に曰く、始め難にう、むを得ずして兵を以てわざわいを救い、誓って奸悪かんあくを除き、宗社を安んじ、周公しゅうこうの勲を庶幾しょきせんとす。おもわざりき少主予が心をまこととせず、みずから天に絶てりと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
電話のかかって来た時、客が立て込んでいて、お庄は落ち着いて先の話を聴くことも出来なかったが、みんなおもいのほか心配していることと、叔父や湯島のお婆さんの怒っていることだけは受け取れた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)