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こゝろしづ
聞夫婦は
増々悦び
心靜かに
逗留いたしける
中早くも十日程立疵口も
稍平癒して身體も大丈夫に
成ければ最早江戸表へ出立せんと申に亭主八五郎は是を
もう
何事も
思ひますまい
思ひますまいとて
頭巾の
上から
耳を
押へて
急ぎ
足に
五六歩かけ
出せば、
胸の
動悸のいつしか
絶えて、
心靜かに
氣の
冴えて
色なき
唇には
冷かなる
笑みさへ
浮かびぬ。
學院に
遣はして
子弟に
件はしむれば、
愚なるが
故に
同窓に
辱めらる。
更に
街西の
僧院を
假りて
獨り
心靜かに
書を
讀ましむるに、
日を
經ること
纔に
旬なるに、
和尚のために
其の
狂暴を
訴へらる。
澄ますに
吹き
渡る
風定かに
聞えぬ
扨追手にもあらざりけりお
高支度は
調ひしか
取亂さんは
亡き
後までの
恥なるべし
心靜かにと
誡める
身も
詞ふるひぬ
慘ましゝ
可惜青年の
身花といはゞ
莟の
枝に
今や
吹き
起らん
夜半の
狂風