御前おまえ)” の例文
南満鉄道会社なんまんてつどうかいしゃっていったい何をするんだいと真面目まじめに聞いたら、満鉄まんてつの総裁も少しあきれた顔をして、御前おまえもよっぽど馬鹿だなあと云った。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
各々奉れる歌を院の御前おまえにて自らみがきととのへさせ給ふ様、いと珍らしくおもしろし。この時も先に聞えつる摂政殿とりもちて行はせ給ふ。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
到底とてものがれぬ不仕合ふしあわせと一概に悟られしはあまり浮世を恨みすぎた云い分、道理にはっても人情にははずれた言葉が御前おまえのその美しいくちびるから出るも
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
命婦みょうぶは贈られた物を御前おまえへ並べた。これがからの幻術師が他界の楊貴妃ようきひって得て来た玉のかざしであったらと、帝はかいないこともお思いになった。
源氏物語:01 桐壺 (新字新仮名) / 紫式部(著)
その「御前おまえ」を音読して「ゴゼン」と云えば、今でも貴族に対する最敬語になる。まことに滑稽千万な次第ではあるが、事実正にしかりだから仕方がない。
桔梗 旦那様の御前おまえに、ちょうどけるのがございませんから、みんなで取って差上げようと存じまして、花を……あの、秋草を釣りますのでございますよ。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
平太夫も近頃はめっきり老耄おいぼれたと見えまして、する事為す事ことごとく落度おちどばかりでございます。いや、そう云う次第ならもうあなた様の御前おまえでは、二度と神仏の御名みなは口に致しますまい。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
御前おまえも一人じゃなし、兄さんもある事だからよく相談をして見たら好いだろう。その代りわたしも宗さんに逢って、とっくりわけを話しましょうから。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わびしかるべきくくだちのひたしもの、わけぎのぬたも蒔絵の中。惣菜そうざいもののしじみさえ、雛の御前おまえ罷出まかんづれば、黒小袖くろこそで浅葱あさぎえり。海のもの、山のもの。たかんなはだも美少年。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
殊更最前さいぜんも云うた通りぞっこん善女ぜんにょと感じて居る御前おまえ憂目うきめ余所よそにするは一寸の虫にも五分の意地が承知せぬ、御前の云わぬ訳も先後あとさきを考えて大方は分って居るからかくも私の云事いうことついたがよい
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「まあ、御待ちなさい。御前おまえさんはそう云われるが、——」
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
風変ふうがわりではあるが、人からいくら非難されても、御前おまえは風変りだと言われても、どうしてもこうしなければいられない。藪睨やぶにらみは藪睨みで、どうしても横ばかり見ている。
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「聞きねえ、婆さん、御前おまえなんざあ上草履で廊下をばたばたの方だったから、情人いろ達引たてひくのに、どうだ、こういうものは気が付くめえ。豪儀なもんだぜ、こら、どうだ素晴しいもんじゃあねえか。」
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
他人は蕎麦そばを食う俺は雑煑ぞうにを食う、われわれは自分勝手にろう御前おまえは三ばい食う俺は五杯食う、というようなそういう事はイミテーションではない。他人が四杯食えば俺は六杯食う。
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうか、急勝せっかちだから、いけねえ。苦味走にがんばしった、色の出来そうな坊主だったが、そいつが御前おまえさん、レコに参っちまって、とうとうふみをつけたんだ。——おや待てよ。口説くどいたんだっけかな。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御前おまえさん。おい御前さん。もう起きないと御午おひるまでに銅山やまへ行きつけないよ」
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御前おまえ川上、わしゃ川下で……」とせりを洗う門口かどぐちに、まゆをかくす手拭てぬぐいの重きを脱げば、「大文字だいもんじ」が見える。「松虫まつむし」も「鈴虫すずむし」も幾代いくよの春を苔蒸こけむして、うぐいすの鳴くべきやぶに、墓ばかりは残っている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「困るよ。御前おまえよりおれの方が困る。困るから今考えてるんだ」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「時に高柳はどうしたろう。御前おまえあれからったかい」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「どうも御前おまえはむやみに心配性でいけない」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「え? うん御前おまえはあの時の馬子まごさんだね」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「腕は鈍いが、酒だけ強いのは御前おまえだろ」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御前おまえさん、働く了簡りょうけんはないかね」
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御前おまえ登った事があるかい」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)