律儀りちぎ)” の例文
あし早くて。とっても。)(わかいがら律儀りちぎだもな。)嘉吉かきちはまたゆっくりくつろいでうすぐろいてんをくだいて醤油しょうゆにつけて食った。
十六日 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
すんなりと、送って出た雪之丞を、あとにのこして、闇太郎、さも律儀りちぎな職人らしく、寒夜に、肩をすくめるようにして、出て行った。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
また女にへんに律儀りちぎな一面も持っていて、女たちは、それゆえ、少しも心配せずに田島に深くたよっているらしい様子。
グッド・バイ (新字新仮名) / 太宰治(著)
律儀りちぎ一方の利兵衛はくり返して頼んで帰った。こうなると、三社祭りなどは二の次にして、半七はまず山城屋の問題を研究しなければならなかった。
半七捕物帳:13 弁天娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
律儀りちぎそうなHさんはそんな事を私に言ったが、こういうごく普通の信者に過ぎないような人にとっても、こちらで他所者よそものとして冬を過しているうちには
木の十字架 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
と紺の鯉口こいぐちに、おなじ幅広の前掛けした、せた、色のやや青黒い、陰気だが律儀りちぎらしい、まだ三十六七ぐらいな、五分刈りの男が丁寧に襖際ふすまぎわかしこまった。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あれは忠義者でございます——もう十年以上もこの家に奉公して居りますが、珍らしい律儀りちぎもので」
と、呆れ顔から吐息をもらしていると、まず第一の挨拶が、きょう一日のお城の無事と、主君の消息を告げることであったので、律儀りちぎな又右衛門は、それに対して
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お返しとはどういうお返しなんでしょう。いつからそんな律儀りちぎなお前様になったのでしょうねえ」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ただ律儀りちぎな太陽は私にかまわずだんだんに低くたれ下がって行って景色の変化があまりに急激になって来るので、いいかげんに切り上げてしまわなければならなかった。
写生紀行 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
仮の一夜の伴侶を求むるにも、男は必ずこの順序をもうとしたことは、彼らにも不似合いな律儀りちぎさであった。こういう奇妙な慣習は突如として起こり得るものでない。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あのお子が悪者の手にかかってお果てなされなければならない破目はめ立到たちいたったのを、色々苦心の末に、この山奥にお捨て申して、律儀りちぎな百姓の手に御養育いたさせたのだ。
三人の百姓 (新字新仮名) / 秋田雨雀(著)
きわめてだいたいの輪郭アウトラインだけを申し上げるならば、この物語を話してくれた当の目撃者である主人公というのは当年五十五歳、いかにも律儀りちぎな田舎の商店の主人公にふさわしく
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
しかも田舎にて昔なれば藩士の律儀りちぎなる者か、今なれば豪家の秘蔵息子にして、生来浮世の空気に触るること少なき者に限るが如し。これらの例をかぞうれば枚挙にいとまあらず。
経世の学、また講究すべし (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
わざわざ荷になるほど大きい鑵入かんいりの菓子を、御土産おみやげだよとことわって、かばんの中へ入れてくれたのは、昔気質むかしかたぎ律儀りちぎからではあるが、その奥にもう一つ実際的の用件をひかえているからであった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
埋めて行心の正直律儀りちぎ者昔しも今も町家にはためし少なき忠義なり是皆村井長庵が惡業あくげふの爲所にして西も東も知らぬ若者の千太郎をあざむき多くの人に難儀を掛ること人面にんめん獸心じうしん曲者くせものなり長庵が惡事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
七兵衛はお松の説明のあとをついで、やはり律儀りちぎな百姓の口調くちょう
ここに桑盛次郎右衛門くわもりじろうえもんとて、隣町の裕福な質屋の若旦那わかだんな醜男ぶおとこではないけれども、鼻が大きく目尻めじりの垂れ下った何のへんてつも無い律儀りちぎそうな鬚男ひげおとこ
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
與曾平よそべいは、三十年餘みそとせあまりも律儀りちぎつかへて、飼殺かひごろしのやうにしてもの氣質きだてれたり、いま道中だうちうに、雲助くもすけ白波しらなみおそれなんど、あるべくもおもはれねば、ちからはなくてもしうはあらず
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と、家中でも云われるくらいに、律儀りちぎ一方で、家運をもりかえした人物なのだ。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たづぬるに武州埼玉郡さいたまごほり幸手宿さつてじゆく豪富がうふの聞え高き穀物こくもつ問屋とんやにて穀屋こくや平兵衞と言者あり家内三十餘人のくらしなるが此平兵衞は正直しやうぢき律儀りちぎ生質うまれつきにて情深なさけぶかき者なれば人をあはれたすくることの多きゆゑ人みな其徳そのとく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
江戸中の大きな鍛冶屋かじやたちに、鉄砲造りを仰せつけるとき、その検分の役に廻されたそのそばに、何時いつもついていた家の父親——衣笠貞之進きぬがさていのしんというのだが、律儀りちぎの根性から、これも一生懸命になって
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
いわゆる唐制とうせい採択という意識した大改革以外にも、さまで人を驚かさざりし色々の省略と追加があったことが、そんなはずはないという律儀りちぎな断定を超越して、次々と注意せずにはいられなくなった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
と声をかけて、律儀りちぎそうに腰をかがめた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
其許そこもとのように、律儀りちぎ一方、堅い一方で、人間をたたき込むのも、考えものじゃて
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前にも言ったように、田島は女に対して律儀りちぎな一面も持っていて、いまだ女に、自分が独身だなどとウソをついた事が無い。田舎に妻子を疎開させてあるという事は、はじめから皆に打明けてある。
グッド・バイ (新字新仮名) / 太宰治(著)