弧線こせん)” の例文
映写幕の右の方に月のめんが大きく弧線こせんをえがいてうつった。ここにはまたもっと大きい噴火口が集っている。
三十年後の世界 (新字新仮名) / 海野十三(著)
たゞなかふくれた。てんなみつてちゞんだ。地球ちきういとるしたまりごとくにおほきな弧線こせんゑがいて空間くうかんうごいた。すべてがおそろしい支配しはいするゆめであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
水色みずいろにすみわたった五こうの空——そこに黒くまう一ようのかげもなく、ただ一せん、ピカッと熒惑星けいわくせいのそばのほしが、あおい弧線こせんをえがいてたつみから源次郎岳げんじろうだけかたへながれた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとへばつるぎつかのところを鹿しかつの裝飾そうしよくし、そのうへ外國がいこくではられない直線ちよくせん弧線こせんあはせた模樣もようをつけた日本風につぽんふう刀劍とうけんが、外國的がいこくてき刀劍とうけん同時どうじもちひられてゐたのであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
肉付の豊かな通つた鼻筋も、反り加減の唇の弧線こせんも、夢見るやうなかすんだ眉も、美しいには相違ありませんが、らふのやうな青白い顏は、恐怖と苦痛にゆがんで、二た眼とは見られない痛々しい表情です。
さうしてあながすつかりめられてしまふと、はちしばらあなのまはりをあるきまはつてゐたが、やがてぷうんと翅音はおとてながら、黒黄斑くろきまだら弧線こせん清澄せいちようあき空間くうかんゑがきつつどこともなくつてつた。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
四時、五時、六時はまるで知らなかった。ただ世の中がふくれた。天が波を打って伸びかつ縮んだ。地球が糸で釣るしたまりのごとくに大きな弧線こせんえがいて空間にうごいた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
直線ちよくせん弧線こせんとをあはせた、不思議ふしぎ模樣もようにつくだけです。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
色が白いので、まゆがいかにも判然していた。眼もほがらかであった。頬からあごを包む弧線こせんは春のようにやわらかかった。余が驚きながら、見惚みとれているので、女は眼をらして、くうを見た。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は浅い水を頭の上まではねかして相当の深さの所まで来て、そこから先生を目標めじるし抜手ぬきでを切った。すると先生は昨日と違って、一種の弧線こせんえがいて、妙な方向から岸の方へ帰り始めた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)