引導いんどう)” の例文
「……はてさて、貴さまも空ッぽになってみるとつまらんやつだな。智深和尚の引導いんどうを、せめてこの世の冥加みょうがと思えや。ッ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、まだ引導いんどうも渡されてないんだから、どこへも往きやしないでしょうよ。お寺で吾々の行くのを待ってるでしょうよ」
父の葬式 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
ドレゴはここで完全にエミリーから引導いんどうを渡されてしまった。彼はまといつくエミリーを汗だくだくで振り切って、すたこら自分の邸へ逃げ帰った。
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
鉄砲はとりけだものが何も知らないでいるところを、ズドンと一発で引導いんどうを渡します。理窟も何もない。純然たる暴力です。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
いでや新身あらみの切れ味見せて、逆縁の引導いんどう渡しれむと陣太刀じんだちながやかに抜き放ち、青眼に構へて足法そくほう乱さず、切尖きっさきするどく詰め寄り来る。虹汀何とか思ひけむ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
せめての腹愈はらいやしには、わが鐵拳てつけんをもつてかれかしら引導いんどうわたしてれんと、驅出かけだたもと夫人ふじんしづかとゞめた。
のみならずちょうど寝棺の前には若い本願寺派ほんがんじは布教師ふきょうし一人ひとり引導いんどうか何かを渡していた。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これを以て見れば、大津の宿で机竜之助が、生命いのちを粗末にする男女の者に、蔭ながらひややかな引導いんどうを渡して、「死にたいやつは勝手に死ね」と空嘯そらうそぶいていたのが大きな道理になる。
なにしろ是信さんは、おしもおされもせぬこきである。いろいろな話が、是信さんの屁について、おとなたちや子どもたちのあいだに伝えられている。是信さんは、屁で引導いんどうをわたすという。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
回向えこう引導いんどうも型の如くにり行ったが、和尚の顔色は益〻ますますすぐれず、土気色つちけいろのむくみを表わし、眉間みけんの憂悶は隠しもあえず、全身衰微の色深く、歩く足にも力失せがちな有様がただならなかった。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
神咒しんじゆとな往生集わうじやうしふ朗読らうどくしてのち引導いんどうわたし、焼香せうかうんでしまふと。
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかし死にッきりの引導いんどう渡されッきりでは余り有難くないね。
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
「いいえそうじゃありません。女から引導いんどうを渡されたんで」
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
津田は最後の引導いんどうを渡すよりほかにみちがなくなった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さきに身代みがわりの自分の首に引導いんどうわたして、都田川みやこだがわ水葬礼すいそうれいをおこなった快侠僧かいきょうそう、なんとその猛闘もうとうぶりの男々おおしさよ! 生命力せいめいりょく絶倫ぜつりんなことよ!
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
探険の結果、これは怨霊のほかに、理由がつかないと決定した夜のこと、旦那どのは、夜業やぎょうをしている情婦おんなのところへ行って、遂に引導いんどうの言葉を渡してきた。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
どうせ死ぬなら、容相かたちだけでも、釈尊の御弟子みでしになってけ。せめてものよしみ、引導いんどうだけは授けて進ぜる。眼をふさいで、静かに膝をくむがよい。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
参謀が発表した驚くべき空中襲撃の警報は、帝都全市民にとって、僧侶そうりょがわたす引導いんどうにひとしかった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
まず君は引導いんどうをわたされていると考えてよい。つまらない自信だが、僕も骨をさらすつもりでいるよ
人造人間殺害事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「それでは……行くしかないわ……ぜひもない……僧になったつもりで……引導いんどうをわたしてやる」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それとなく引導いんどうは先にわたしておいたろう。“薄刃切うすばぎり”のご馳走はこれからだ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
帆村は、はっきりと博士に対して、引導いんどうをわたした。
人造人間エフ氏 (新字新仮名) / 海野十三(著)
『云おうか……』と、友達共は、引導いんどうでも渡すように、彼を囲み直して
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「死を急ぐ人々は、即座に名乗り出でよ。雲長関羽が引導いんどうせん」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『ひとつ、この後の馳走として、死期しご引導いんどうを頼みまするぞ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ご先祖さまは、よい引導いんどうをうけて来たとよろこぶに違いない
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)