さひはひ)” の例文
勝平は、叱り付けるやうに怒鳴ると、丁度勝彦の身体が、多勢の力で車体から引き離されたのをさひはひに、運転手に発車の合図を与へた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
「フム、其りやさひはひぢや、我輩一つ媒酌人にならう、軍人と実業家の縁談を我輩がする、みんな毛色が変つてて面白ろからう、山木、どうぢや」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
其處此處そここゝには救助すくひもとむるこゑたえ/″\にきこゆるのみ、わたくしさひはひ浮標ブイうしなはで、日出雄少年ひでをせうねんをば右手めてにシカといだいてつた。
やが父親てゝおやむかひにござつた、因果いんぐわあきらめて、べつ不足ふそくはいはなんだが、何分なにぶん小児こどもむすめはなれようといはぬので、医者いしやさひはひ言訳いひわけかた/″\親兄おやあにこゝろもなだめるため
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まだ高い所へのぼつてゐなかつた丈が、さひはひと云へば云ふ様なものゝ、世間のに映ずる程、身体からだ打撲だぼくを受けてゐないのみで、其実精神状態には既に狂ひが出来てゐる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
大船を汽車が出たとき、美奈子は何うにも、堪らなくなつて、向う側の座席が空いたのをさひはひに、景色を見るやうな風をして、其処へ席を移した。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
いまつばかりなり。すなはなん貴下きかもとほうず、稻妻いなづまさひはひせずして、貴下きかこのしよていするをば、大佐たいさよ、はかりごとめぐらして吾等われら急難きふなんすくたまへ。
わたくし本當ほんたうにおまへわかれるのが、かなしいよ、けれど運命うんめいだから仕方しかたいのだよ、それでねえ、おまへさひはひに、大佐たいさ叔父おぢさんのいへ安着あんちやくして、萬一まんいちにも私共わたくしども生命いのちたすかつたことなら、ふたゝ
瑠璃子の父は、さひはひに軽い脳貧血であつた。呼びにやつた医者が来ない前に、もう、常態に復してゐた。が、彼は黙々として自分を取り囲んでゐる杉野や勝平には、一言も言葉をかけなかつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)