帰趨きすう)” の例文
ですが歌道にいそしむ者が、結局その帰趨きすうと仰ぐものは、和歌の中でも一番古い『万葉集』だということは誰も一致する見方なのです。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
その帰趨きすうはなはだ不明瞭を極めてくるという次第ですが、そういう解釈の如何いかんにかかわらず、その想に驚き、調べに酔わされることは渾心的こんしんてきです
秀吉対勝家の——相互全力を挙げて、天下の帰趨きすうした一戦は、ここに勝敗を明らかにし、ふたたびこの形がくつがえる余地も奇蹟もあり得ない。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
而して熟々つくづくと穏かな容貌かおつきが慕わしうなり、又自分も到底この先生のようではないけれど、やはり帰趨きすうなき、漂浪児であるという寂しいかんじになった。
もし人心の帰趨きすうするところに流されるのを潔しとしないで、独り孤高の清節を徹そうとすれば、誇りかな心は逆にまた驕慢きょうまんの罪を犯すこととなろう。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
独・英・米三国に対する敗残の一マターファでは、帰趨きすうは余りに明かであった。マノノ島へ急航したビックフォード艦長は三時間の期限付で降服を促した。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そしてこの事件が、悲しむべきか喜ぶべきか我らをしてその帰趨きすうに迷わせていると申し上げました理由も、これでよくおわかりになりましたことと思います。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
私は何か長い棒のやうなものを差し伸べてやりたかつたが、そんなものはあたりには見あたらなかつた。今はただぢつとその帰趨きすうを見守つてゐるばかりである。
赤蛙 (新字旧仮名) / 島木健作(著)
保胤が長年の間、世路に彷徨ほうこうして、道心の帰趨きすうを抑えた後に、ようやく暮年になって世をのがれ、仏に入ったとは異なって、別に一段の運命機縁にあやつられたものであった。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
われらは文化の帰趨きすうちょうせんとして文化価値の実現を努むる人格として生きんとするのである
婦人指導者への抗議 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
そうしてその上で「人の心は飛鳥川あすかがわ、変るは勤めのならひぢやもの」という懐疑的な帰趨きすう
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
開戦と同時に、戦争当時国は手のうちにある新兵器をチラリと見せ合っただけで、瞬時に勝負の帰趨きすうあきらかとなり即時休戦状態となるのかもしれない。勝つのは誰しも愉快である。
『地球盗難』の作者の言葉 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今少しく思惟の起源および帰趨きすうについて論じ、更に右二者の関係を明にしようと思う。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
しかして、この仮定を認むる時は、その性的衝動の危機のうちに眼覚めたる呉一郎が、その母の寝顔を見て、異常の美を感じたりという事実は、極めて自然なる心理の帰趨きすうにして、特に
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
良心の苦痛に耐えられず魂の帰趨きすうをなくした人が、往々現わす悲惨な悩み
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「僕の発明じゃあないよ。」軍功の帰趨きすうは分明にして置かなければならぬ。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
いまのその「新しい浅草」の帰趨きすうするところはけだしそれ以上である。
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
初春の空に淡く咲くてふちょう、白夢のような侘しい花。それは目的もなく帰趨きすうもない、人生の虚無と果敢なさを表象しているものではないか。しかも季節は春であり、空には小鳥が鳴いてるのである。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
時勢の帰趨きすうを説き、皇道を説き、またこの機運に乗らなければ、生涯の悔いを青春に回顧しなければならないと云った。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
聡明なる太子はすでにもはやあの時自己の運命の帰趨きすうは充分に悟っていられたのではなかったろうか? 見上げている私の眼にも熱い熱いものがたぎり立ってきた。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
人間の思想と行為との一切帰趨きすうを文化価値に置くことを文化主義というのだと思います。
婦人改造の基礎的考察 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
それより海岸をわき目もふらず房州御膝下に帰趨きすう不可疑候。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
前者と同様の結末に陥り来るべきは自然の帰趨きすうなり。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
人心の帰趨きすうがどこにあるか、諸侯の仰望が、上杉、直江にあろうか、古今の大才を持ちながら、ここの天下の勢いがどう流れているのかを知らんものじゃ
大谷刑部 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その帰趨きすうに迷わしむる事件の御報告を申し上げるわけなのでありますが、それには今より三カ月以前、我らが前便を書き終えた当日までペンをさかのぼらせなければなりませぬ。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
は、誰もまだ混沌こんとんとして、明らかに帰趨きすうを見とおしている者は、ほとんどないような有様としかいえない。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時来って草莽そうもうのうちより現われ、泥土去って珠金の質を世に挙げられ給うこと、また当然の帰趨きすうのみ。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の、切れ長なほそい眼が、こう見くらべて、帰趨きすうの人を、いずれに取るか、誤っているはずもない。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
播州ばんしゅうの一勢力家の下風にある一被官ひかんの子にすぎないが、姫路の小城一つを擁して、早くから大志を抱き——しかも時勢の帰趨きすうを見ぬいて——中国にありながらただ一人
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
古今、いつの時代であろうと、その行動の基点から帰趨きすうまで人の力にあることに変りはない。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分のみるところでは、彼は大局の帰趨きすうも分らず盲戦もうせんに強がっているような暗将ではない。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秀吉が、この一局戦に、敢えて圧倒的な大軍を傾けて来たことと、立ち上がりの士気とにおいて、両軍の勝敗は、戦わぬうちに、すでに帰趨きすうを明らかにしていたといっていい。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
播州ばんしゅう但馬たじま伯耆ほうきなどにわたる中国の大名小族たちは、いまやその帰趨きすうに迷いぬいていた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勝敗の帰趨きすうはもう、それだけでも官軍強し、と誰の目にもぼくしうるものがあったのだ。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
北ノ庄の遠くから勝家が鄭重ていちょうな使者と音物いんもつもたらして来たことにたいしては、それきり答礼もせず、書信も送らず、やなえき帰趨きすうが明らかになってから、却って、無沙汰の秀吉の方へ
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いま東西の両軍ここにまみえ、おもとには七城の壕塁ごうるいつらねて、国境のお守りに当っておられますが、すでに中国の帰趨きすうは決したものということは充分お心のうちにはお分りであろうと存ずる。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なおまた、今の混沌こんとんたる時代の帰趨きすうが、何人なんぴとによって、処理され、統一され、やがて泰平が建て直されるか——そうした時のうしおの行く先も、お見えになっていないわけはあるまいとも存ぜられます。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
歴史の実をもって、現状の変を洞察どうさつし、また時局の底流をあんじ、多年、身は秀吉の一幕下に置いては来たが、心は高く栗原山の山巓さんてんから日本中のうごきと、時代の帰趨きすうとを大観して——或る結論を
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)