巨魁きょかい)” の例文
ゆえに、狐狸は妖怪中の巨魁きょかいとみてよろしい。されどその妖怪は、日本固有のものにあらずして、シナより輸入したるものである。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
いわば香具師やしの大親方であり、また人買いの大親方でもあり、野武士の大将、娼婦の大主人、盗賊の巨魁きょかいでもあるのであった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
尤もそれはうそじゃないので、ナオミさんと熊谷とはガサツな所が性に合ったのか、一番仲よくしていました。だから誰よりも熊谷が巨魁きょかいだ。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
牢内では牢名主をつとめて、幅をかしていたが、やがて獄門にかかるべき斬罪を予期し、某月某日の夜、子鉄が巨魁きょかいとなって破牢を企てた。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これを甲辰の藩難というが、寅寿は水戸家の執政でありながら老中大奥と結んで暗に斉昭隠居の事を企んだ巨魁きょかいであった。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かつその仲間の教育なり年齢なり、また門閥もんばつなり、おおよそ一様同等にして抜群ばつぐん巨魁きょかいなきがために、衆力を中心に集めて方向を一にするを得ず。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
(益満のいった通り、お喜びにならぬわい。敵党の巨魁きょかいにしても、調所は、偉物は偉物なのだから——)
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
その服装より見れば海賊の巨魁きょかいならん、剣を甲板上に投げ棄て、大檣たいしょうにその身を厳しく縛りつけいたり、実に合点の行かぬ事ながら、しばらく考えて余はハハアと頷きたり
南極の怪事 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
今になって考えると、武蔵は、宝蔵破りの巨魁きょかいと間違われて、縄をかけられたものであろう。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
賊軍の巨魁きょかい西郷隆盛は以前は陸軍大将にて天朝の御覚えめでたかりしものなること等より、田代たしろよりゆきし台兵が、籠城ろうじょう中に戦死せしこと、三奈木みなぎより募られたる百人夫長が
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
すなわち人間の非巣箱主義の巨魁きょかいであったが、しかも鳶の居たるばかり何ほどの事かあらんなどと、一旦いったん批難ひなんをした法師ばらも、後にその目的が池の蛙の保護にあることを知ってを折った。
成経 父のことを思うのはわしの地獄じごくです。清盛きよもり謀叛むほん巨魁きょかいとして父をもっともにくんでいました。清盛が父を捕えていかに復讐ふくしゅう的に侮辱したか。わしはそれを聞いた時むしろ死を欲しました。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
私は日本全国を震駭しんがいさせつつある重大事件の巨魁きょかいが帝都の中央を悠然ゆうぜんとタクシーで疾駆しっくしてゆく後影を見送りながら、何とも名状しがたい気持ちを抱いて、ぼんやりその場に立ちつくしていた。
動物園の一夜 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
先年御隠居(尾張慶勝おわりよしかつ)が征討総督として出馬したおりに、長州方でも御隠居のさばきに服し、京都包囲の巨魁きょかいたる益田ますだ国司こくし、福原三太夫さんだゆうの首級を差し出し、参謀宍戸左馬助ししどさまのすけ以下をはぎ城に
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
茗渓楼めいけいろうは割烹店の最流行せる者、喫茶珈琲店の巨魁きょかいたる、小赤壁亭が一種の社交倶楽部的組織を以て、雅俗を問はず一般に歓迎せらるるは同亭に出入する煙草タバコ吸殻商の産を興したるにても知るべし。
四百年後の東京 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
こうして、二人の巨魁きょかいは、ノーマ号に残っていることになった。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「風流もここまで来ては空怖ろしい、胆吹山には近来、女賊の巨魁きょかいこもっているという噂だが、そんなんではあるまいか」
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ゆえに万物の中にて、心をもって妖怪の巨魁きょかいと申してよかろう。もし万物ことごとく真怪というならば、心は真怪の目、あるいは真怪のくらといいて差し支えない。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
また打上ぐる波に呑去られてはたまらずと、海賊の巨魁きょかいが身を縛して死しいる大檣にシカと縋付すがりついて眺むるに、暗憺あんたんな海上には海坊主のごとく漂える幾多の怪物見ゆ眼を定めて見れば
南極の怪事 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
その先輩の巨魁きょかいに仕えて礼をつくし、窃盗を働くに智術をきわめ、会同・離散の時刻に約をたがえざる等、その局処についてこれをみれば、仁義礼智信を守りて一社会の幸福を重んずる者の如し。
教育の目的 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「それっ、巨魁きょかいを、のがすな」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
石田治部少輔三成は、かしこくも神祖家康公に向って、まともに弓をひいた逆賊の巨魁きょかいである。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そもそも幽霊、鬼神は、通俗の妖怪中の最大妖怪にして、実に怪物の巨魁きょかいというべし。宗教はすなわちその妖怪物の宿るところなれば、これを指して妖怪の本城となすも不可なし。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
さればこそ余は先刻死せる海賊の巨魁きょかいを、生ける恐ろしき人間と見誤りしなり。
南極の怪事 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
巨魁きょかいっ」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この左の眼のつぶれた人は、十津川天誅組とつがわてんちゅうぐみ巨魁きょかい松本奎堂けいどうであったことが後に知れる。
筑紫つくし不知火しらぬいといえば、なにびとも知らざるなく妖怪中の巨魁きょかいであるが、先年、熊本高等学校の教員は海中の虫ならんと思い、海水をくんで試験を施してみたれども原因不明であった。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
この上は兵力を以て京都へ推参して手詰てづめの歎願をするほかはないと、久坂玄瑞くさかげんずい、来島又兵衛、入江九一の面々が巨魁きょかいで、国老の福原越後を押立てて、およそ四百人の総勢で周防すおうの三田尻から
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これ、真に妖怪の巨魁きょかいにして、我人の究め尽くさざるを得ざるものなり。これを究めざる間は、決して世に妖怪を尽くすことあたわず。しかして、三十三天なお高し遠し、いわんや理想の都城をや。
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)
と言うまでもなくその一人は南条——能登守に亘理わたりと呼ばれて旧友のような扱いを受けた人——それから、も一人は五十嵐と呼ばれた人、つまりこの二人は過ぐる夜の破牢者の巨魁きょかいなのであります。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すでに二岩神社として祭られている。余も佐州さしゅう客居中これを訪問して見たが、相川より半里ばかり隔つる山頂に天然の岩窟がんくつがある。その中に二岩団三郎と称する貉の巨魁きょかいが住んでいるとの伝説である。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
主催者であるがゆえに、主謀者であり、危険思想家の巨魁きょかい見做みなされた道庵が、一たまりもなく捕手の手に引っとらえられ、調子を食って横面よこっつらを三ツ四ツ張り飛ばされ、両腕をだらりと後ろへ廻されて
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)