巌丈がんじょう)” の例文
旧字:巖丈
でそうした巌丈がんじょう赭黒あかぐろい顔した村の人たちから、無遠慮な疑いの眼光を投げかけられるたびに、耕吉は恐怖と圧迫とを感じた。
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
五十がらみの巌丈がんじょうな植幸、何となく一徹らしいのが、相手が相手だけに、不安な心持をおさえて、ソワソワと離屋の方へ案内して行きます。
巌丈がんじょうな鉄棒の頂上に鉄の円盤を固定したもので、人の手の力くらいでは容易に曲げ動かすことが出来ないように出来ている。
KからQまで (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
前も後も急峻な樹木の山、この山に挟まれ渓流に向った一軒家、木材だけは巌丈がんじょうなものを用いて、屋根も厚くいてある。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
十段ばかり上ると、そこに巌丈がんじょう鉄扉てっぴがあって、その上に赤ペンキで、重大らしい符牒ふちょう無雑作むぞうさに書かれてあった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その巌丈がんじょうな石の壁は豪雨のたびごとに汎濫する溪の水を支えとめるためで、その壁にり抜かれた溪ぎわへの一つの出口がまた牢門そっくりなのであった。
温泉 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
彼の手が太く巌丈がんじょうなんでいやんなっちゃったとか、壁にかかっていた外套がいとうが、田舎いなか紳士丸出しだとか、いまだにトルストイやガンジイのことばかり口にして
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
余程ひどくなぐられたとみえて、鉄製の巌丈がんじょうなデレッキがかすかに曲りをみせて、その足元にころがっていた。
(新字新仮名) / 楠田匡介(著)
でっかい眼鏡で、胡麻塩髯ごましおひげを貯えた、おとがいとがった、背のずんぐりと高いのが、かすりの綿入羽織を長く着て、霜降のめりやすを太く着込んだ巌丈がんじょうな腕を、客商売とて袖口へ引込ひっこめた
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
壮年の男は驚くほどに巌丈がんじょうな骨組みで、幅も厚さも並はずれた胸の上に、眉毛まゆげの抜け落ちた猪首いくびの大きな頭が、両肩の間に無理に押し込んだようにのしかかっているのである。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
開拓使時分に下級官吏の住居として建てられた四戸の棟割長屋ではあるが、亜米利加アメリカ風の規模と豊富だった木材とがその長屋を巌丈がんじょうな丈け高い南京下見したみの二階家に仕立てあげた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
舟は波のうねりのすくない岩陰につながれておかへは橋板はしいたが渡された。その舟には顔の渋紙色をした六十に近い老人と三十位の巌丈がんじょうな男がを漕ぎ、十八九に見える女が炊事をやっていた。
参宮がえり (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
廊下に向かった巌丈がんじょうな扉へ、錠をしっかりおろしてから、沙漠に面した玻璃ガラス窓へも用心の為に鍵をい、レースの窓掛カアテンを引いてから、虫捕香水を布団へ振りかけ、それで安心したと見え
木乃伊の耳飾 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼は、だぶだぶの部屋着へやぎを着ている。いのはいった飾りひも巌丈がんじょうな胸を取り巻き、円柱のまわりに綱を取りつけたようだ。この男、ひと目見れば、物を喰いすぎるということがわかる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
そうしてその階子段には一種の特徴のある事を発見した。第一に、それは普通のものより幅が約三分一ほど広かった。第二に象が乗っても音がしまいと思われるくらい巌丈がんじょうにできていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
巌丈がんじょうな木の枠と、沢山なスプリングが取りつけてありますけれど、私はそれらに、適当な細工を施して、人間が掛ける部分に膝を入れ、凭れの中へ首と胴とを入れ、丁度椅子の形に坐れば
人間椅子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
厚い綿八端めんはったんの座蒲団が机の前と兼帯になる様な具合に敷いてあって、かし縁の巌丈がんじょうな長火鉢が、お爺さんを前に、大きな真鍮しんちゅうの湯沸を太い鉄の五徳の上にかけられてこの座敷の中心の様に構えて居る。
かやの生立 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いつの間にやら二人は、土蔵の奥の一室に閉じ込められて恐ろしく巌丈がんじょう大扉おおど背後うしろとざされているのに気が付きました。
内から生長してゆく恐ろしい力が巌丈がんじょうな壁や柱に圧された結果はどうなるのだろうか。私の五体は、両国りょうごくの花火のようになって、真紅まっかな血煙とともに爆発しなければならない。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
巌丈がんじょう一方の鉄筋コンクリイトのアパアトも、一階に売薬店があり、地坪は狭いが、四階の上には見晴らしのいい露台もあって、二階と三階に四つか五つずつある畳敷きの部屋も
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
橋の中ほどから西寄りの所で電車の座席から西北を見ると、河岸かしに迫って無骨な巌丈がんじょうな倉庫がそびえて、その上からこの重い橋をつるした鉄の帯がゆるやかな曲線を描いてたれ下がっている。
Liber Studiorum (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それは二階にあったのですが——安っぽいとこの傍に、一間の押入がついていて、その内部は、鴨居かもいと敷居との丁度中程に、押入れ一杯の巌丈がんじょうな棚があって、上下二段に分れているのです。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
空腕車からぐるまきつけて、しゃがんで、畜生道の狛犬こまいぬ見るよう、仕切った形、にらみ合って身構えた、両人とも背のずんぐり高い、およそ恰好かっこう五十ばかりで骨組のたくましい、巌丈がんじょうづくりの、彼これ車夫。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
巌丈がんじょうなことときちゃ馬にだって負けやしませんからね。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
が、黒塗りの巌丈がんじょうな格子を隔てた上、格子の外には四尺あまりのどぶがあって、それより先へは進むこともなりません。
その巌丈がんじょうな後ろ姿をてらして、赤々と照る秋の陽、箱根全山の緑は老いて、何んとなく裏淋しい昼下りの風物でした。
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
平次は何の躊躇ちゅうちょもなく入って行きました。穴は、三尺四方ばかり、粗末ながら巌丈がんじょうな段々があって、二けんばかり降りると、今度は真っ直ぐに横へ伸びております。
ガラッ八は気軽に飛んで行きましたが、間もなく、巌丈がんじょうな三十男を伴れて、自身番へ帰って来ました。
七十近い巌丈がんじょうな身体に、新しい忿怒ふんぬが火のごとく燃えて、物馴れた平次も少し扱い兼ねた様子です。
けやきの厚板で組んだ、恐ろしく巌丈がんじょうなもので、大一番の海老錠えびじょうおろしてありますが、覗いてみるとよく底が見えて、穴のあいた小銭が五六枚あるだけ、何の変哲もありません。
橋番所の老爺の差出したものを見ると、綱はほんの六尺ばかり、一方に輪をこしらえて娘の首にはめ、一方は欄干に無造作に縛ったもので、ありふれた巌丈がんじょう一方の麻縄、何の変哲もありません。
小屋は筵張むしろばりの全く間に合わせの代物しろもの、泥絵の具で存分に刺戟的に描いた、水中に悪龍と闘う美女の絵を看板に掲げ、その下の二つの木戸口には、塩辛声の大年増と、二十五六の巌丈がんじょうな男が
巌丈がんじょうな金目垣、その一ヶ所に野良犬のくぐる通路が一つあることは、平次も早くから目をつけておりましたが、その穴をガサガサと潜って、小さいものがヒョイとこっちの庭へ飛込んで来たのです。
これは五十左右の巌丈がんじょうな中老人、びんに霜を置いて、月代さかやきも見事に光っておりますが、慾も精力も絶倫らしく、改めて平次に挨拶した様子を見ると、三千両の打撃で、すっかり萎気しょげ返っているうちにも
納屋の二階はガラクタの入れ場で、手摺と言ったところで巌丈がんじょう一方の丸木をかすがいで締めた、形ばかりの物、その角になったところへ屑金物の箱を載せれば、いかにも紐一本で落せないこともありません。