宏壮こうそう)” の例文
旧字:宏壯
この町の旧藩の城代家老じょうだいがろうの家柄といわれているだけに、手狭な私の家とは違って敷地も広ければ、屋敷もあたりを圧して宏壮こうそうを極め
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
宏壮こうそうな北陽館の前に出る。二階の渡り廊下の下の道路を裏へ抜けると、ここに驚くべき大洞可児合だいどうかにごうの壮観が眼下に大渦巻をまきあげる。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
妻にその三枝さんと背中合せになった隣りの宏壮こうそうな別荘を示しながら、「ほらあの通りだから。まるで場ちがいの化物屋敷みたいだ。……」
朴の咲く頃 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
彼は東京の真中にあるある大きな局へ勤めていた。その宏壮こうそうな建物のなかに永い間あわれな自分の姿を見出す事が、彼には一種の不調和に見えた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その途端に、吹き募ったあらしは、可なり宏壮こうそうな建物を打ち揺すった。鎖で地面へつながれているひさしが、吹きちぎられるようにメリ/\と音を立てた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
いったいこの地方などにはあるはずもない宏壮こうそう萃麗すいれいなこの邸館は、どういう由緒の家なのか。またおあるじは何者なのか、と。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんど別府に来て案内記を読んで見ると別府の町の温泉宏壮こうそうなる建築だと書いてある。その桃の女がいた温泉は板で囲った古い温泉であったように思う。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
同氏は先申す通り、博識で、美術界のために大いに尽くされた方で、池の端に宏壮こうそうな邸宅を構えておられました。今日でもその建築は池の端に高くそびえ立っております。
こんな所にこんな宏壮こうそうな邸宅を持った熊谷の親戚があろうなどとは、思えば思うほど意外でした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
もと藤沢ふじさわで相当の宿屋をしていたのが、すっかり失敗して困っていたのを若松屋惣七が、例の侠気おとこぎから助け出して、東海道の掛川の宿に、具足屋という宏壮こうそうな旅籠をひらかせて
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ずいぶんと宏壮こうそうな、まとまりのない建物で、さまざまな時代に建てられたらしかった。
モスクワまでも見えるような高い高い望楼ぼうろうのついた宏壮こうそうな邸宅を構え、そこで毎晩、爽々すがすがしい外気を浴びながらお茶を飲んだり、何か愉快な問題について論じあう、それからまた
そとからると、宏壮こうそう洋館造ようかんづくりの病院びょういんでしたけれど、ひとたび病棟びょうとうはいったら、どのへやにも、青白あおじろかおをして、んだ病人びょうにんが、とこうえ仰臥ぎょうがするもの、すわってうめくもの
だまされた娘とちょうの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
構えが宏壮こうそうという種類のものではなく、隅々すみずみまで数寄すきを凝らしたお茶趣味のものだったが、でっぷり肥った婦人の三年にわたった建築の苦心談をくだけでも、容易なものではなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それは、鬱蒼と茂った老樹にぐるりを囲まれた、石造りの宏壮こうそうな建物だった。
初雪 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
国内形勝の地に宏壮こうそう楼閣ろうかくを築いて夜宴やえんを張るものはまたこれ洋客といったような光景を見るのであろう。むかし市中の寄席に英人ブラックの講談が毎夜聴衆をよろこばしたことがあった。
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
また東京市精華尋常小学校は鉄筋宏壮こうそうな建築物として空にそびえつつあった。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
つまり身分不相応ふそうおうに力を表門にそそぎて美麗びれい宏壮こうそうに築き上げ、人目を驚かし、しかして裏門は柱が曲り、戸がち、満足に開閉することも出来ず、出入りにも危険きけんならしむるがごときものである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
すなわ上下じょうか議院の宏壮こうそう竜動府ロンドンふ市街の繁昌、車馬の華美、料理の献立、衣服杖履じょうり、日用諸雑品の名称等、すべ閭巷猥瑣りょこうわいさの事には通暁つうぎょうしていて、骨牌かるたもてあそぶ事も出来、紅茶の好悪よしあしを飲別ける事も出来
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
青い若葉のかげそびえる宏壮こうそうな西洋館が——大きい邸宅のそろっている此界隈かいわいでも、他の建物を圧倒しているような西洋館が荘田夫人の家であろうとは夢にも思わなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
もっとも、召使いは、四、五人ほど来たらしいけれど、荷物と言っては、古びた書箱ほんばこと机と、いと貧しい世帯道具が一車ひとくるま、ガタクラと、その宏壮こうそうなる新屋敷へはいったのみである。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信一郎はそう考えながら、夫人のそれに対する溌剌はつらつたる受答や表情を絶えず頭の中に描き出しながら何時いつの間にか五番町の宏壮こうそうな夫人の邸宅の前に立っている自分を見出みいだした。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
整然たる区画整理の下に大小の店舗てんぽは軒をならべ、信長の経済政策が功を奏して、旅舎や駅亭の客はあふれ、湖畔には泊船の帆ばしらが林立し、侍小路の住宅地域も諸大将たちの宏壮こうそうな邸も
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
閣老の阿部伊勢守に取り入って今の財産をこしらえたのだと云われる小倉庵おぐらあん長次は、割烹りょうりやの亭主だった。向島きッての宏壮こうそう普請ふしんが出来たのも近年で、自分は、隣りに、小ぢんまりと、住んでいた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)