完璧かんぺき)” の例文
教室も寮も、ゆがめられた性慾の、はきだめみたいな気さえして、自分の完璧かんぺきに近いお道化も、そこでは何の役にも立ちませんでした。
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
この演奏はあまりにも瑰麗かいれいであり、ワインガルトナー風に隠健であるが、その代り渾然こんぜんたる完璧かんぺきの出来で、この精神的内容の熾烈しれつな曲を
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
つまり知性の到達出来る一種の限界までいっている義理人情の完璧かんぺきさのために、も早や知性は日本には他国のようには必要がないのだと思う
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
裁判所の最下層の組織は完璧かんぺきとはゆかず、義務を忘れ買収されやすい役人を生んでいるので、そのため裁判所の厳重な箝口令かんこうれいにも穴があくのだ。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
ななめ下には、教会堂の尖塔せんとうするどく、空に、つきさって、この通俗的な抒情画じょじょうがを、さらに、完璧かんぺきなものにしていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
人間の死と同じである、人は死によって生の意義を完璧かんぺきに語るごとく、壁画も崩壊しつつ全生涯しょうがいの壮麗をあきらかに我々に刻印するのではなかろうか。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
それ以上に、諸君は何を欲するのか。かかる偉大を欲しないとしたら、いかなる偉人を欲するのか。彼はすべてを持っていたのだ。彼は完璧かんぺきであった。
のみならず、老公がご一代をかけ、また藩の財力をかたむけたご事業は——あの大日本史の完璧かんぺきは、まずむずかしい。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実に完璧かんぺきというべきだ! やっこさんすっかりへこんじまって、面目だまをつぶしてしまってるよ! 君は名人だね
彼は一門の完璧かんぺきな年代記のようなものであり、ブレースブリッジ家全体の系図、来歴、縁組に精通していたから、年とった連中にはたいへん好かれていた。
その高次の彫刻性の一つの彫刻的あらわれとして殆と完璧かんぺきに近いミケランジェロの諸作を仔細しさいに点検することはわれわれの造型的意識に力と滋味とを与える。
二葉亭の五分もすきがない一字の増減をすら許さない完璧かんぺきの文章は全く千鍜万錬の結果に外ならないのを知って、二葉亭の文章に対する苦辛感嘆をいよいよ益々深くした。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
彼をきらっていたクリストフも、その唯物的な真摯しんしな偏狭な芸術の完璧かんぺきを嘆賞せざるを得なかった。
さて今の文壇になってからは、宙外の如き抱月の如き鏡花の如き、予はただその作のある段に多少の才思があるのを認めたばかりで、過言ながらほとんど一の完璧かんぺきをも見ない。
鴎外漁史とは誰ぞ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「絵図面は完璧かんぺきでござろうの? 絵図面通り掘り進んだならば金石は必ず出ましょうの?」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
どんな沖縄学者も、この図書館を訪れることなくして、正しい研究をげることは出来ませんでした。それほど沖縄に関する文献は、完璧かんぺきに近く、世にも貴重な蒐集でありました。
沖縄の思い出 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
渾成こんせい完璧かんぺきの語ここに至るを得てはじめて許さるべきものであろう。わたしがヨウさんに勧められ「彩牋堂の記」を草する心になったのも平素『鶉衣』の名文を慕うのあまりにでたものである。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかし、今では、彼等は私を酋長と見做みなしているらしい。給金を減らされたのは、ティアという老人で、サモア料理(召使達の為の)のコックだが、実に完璧かんぺきといっていい位見事な風貌の持主だ。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ここに至ってナオミの体は全く芸術品となり、私の眼には実際奈良の仏像以上に完璧かんぺきなものであるかと思われ、それをしみじみ眺めていると、宗教的な感激さえが湧いて来るようになるのでした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
芭蕉の完璧かんぺきの半面だけが光ってすぐ消えた。
俳諧の本質的概論 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
おれの策戦は完璧かんぺきだったぞ。
日日平安 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
読者に完璧かんぺきの印象を与え、傑作の眩惑げんわくを感じさせようとしたらしいが、私たちは、ただ、この畸形きけい的な鶴の醜さに顔をそむけるばかりである。
猿面冠者 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その統一性は、ちょっと見ると統一性がないようなところにおいてとくに完璧かんぺきなもののように感じられるのであった。
(新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
後世のう彫刻性あるいは写実性を固執すれば、この二像のごとき決して完璧かんぺきとはいえないのかもしれぬ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
その端厳にして旺盛おうせいな仏徳発揚の力といい、比例均衡の美といい、造型技巧の完璧かんぺきさといい、更に鋳金技術の驚くべき練達といい、まったく一つの不可思議である。
美の日本的源泉 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
それで彼はもはや、リュシアン・レヴィー・クールにたいして敵意を隠さなかった。レヴィー・クールの方では最初、クリストフにたいして、完璧かんぺきなしかも皮肉な礼節の態度を取っていた。
完璧かんぺきを望んでは、いけませんなどと屁理窟へりくつ言って、ついに四升のお酒を、一滴のこさず整理することに成功したのである。
酒ぎらい (新字新仮名) / 太宰治(著)
ただそうやってこそ彼の芸を完璧かんぺきに維持することができるのだ、ということをよく知っていた。
最初の苦悩 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
一、廃墟と壊滅——即ち死に対する無限の愛惜の情、死のみが人間の生の意義を完璧かんぺきに語る。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
彼らは完璧かんぺきな措辞をもって、古代の遊蕩を語っていた。
完璧かんぺきは、静止の形として、発見されることが多い。それとも、目にとまらぬ早さで走るか、そのいずれかである。
春の盗賊 (新字新仮名) / 太宰治(著)
詩歌の形式は、いまなお五七五調であって、形の完璧かんぺきを誇って居るものもあるようだが、散文にいたっては。
古典竜頭蛇尾 (新字新仮名) / 太宰治(著)
全部が一まわり小さいので、写真ひきのばせば、ほとんど完璧かんぺきの調和を表現し得るでしょう。両脚がしなやかに伸びて草花の茎のようで、皮膚が、ほどよく冷い。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
よごれの無い印半纏しるしばんてんに、藤色の伊達巻だてまきをきちんと締め、手拭いをあねさん被りにして、こん手甲てっこうに紺の脚絆きゃはん、真新しい草鞋わらじ刺子さしこの肌着、どうにも、余りに完璧かんぺきであった。
善蔵を思う (新字新仮名) / 太宰治(著)
ハムレットさまに、ただわくわく夢中になって、あのおかたこそ、世界中で一ばん美しい、完璧かんぺきな勇士だ等とは、決して思って居りません。失礼ながら、お鼻が長過ぎます。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
僕は、あなたに対して完璧かんぺきの人間になろうと、我慾を張っていただけのことだったのです。
葉桜と魔笛 (新字新仮名) / 太宰治(著)
私はこの玩具という題目の小説に於いて、姿勢の完璧かんぺきを示そうか、情念の模範を示そうか。けれども私は抽象的なものの言いかたをあたう限り、ぎりぎりにつつしまなければいけない。
玩具 (新字新仮名) / 太宰治(著)
青年、高須隆哉の舌打が、高野幸代の完璧かんぺきの演技に、小さい深い蹉跌さてつを与えた。
火の鳥 (新字新仮名) / 太宰治(著)
一篇いっぺんの構成あやまたず、適度の滑稽こっけい、読者の眼のうらを焼く悲哀、しくは、粛然、所謂いわゆるえりを正さしめ、完璧かんぺきのお小説、朗々音読すれば、これすなわち、スクリンの説明か、はずかしくって
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
もちろん新聞社などへ、はいるつもりも無かったし、また試験にパスする筈も無かった。完璧かんぺきの瞞着の陣地も、今は破れかけた。死ぬ時が来た、と思った。私は三月中旬、ひとりで鎌倉へ行った。
人間は死にって完成せられる。生きているうちは、みんな未完成だ。虫や小鳥は、生きてうごいているうちは完璧かんぺきだが、死んだとたんに、ただの死骸しがいだ。完成も未完成もない、ただの無に帰する。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
流石さすがに涙あふれて、私をだますなら、きっと巧みにだまして下さい、完璧かんぺきにだまして下さい、私はもっともっとだまされたい、もっともっと苦しみたい、世界中の弱き女性の、私は苦悩の選手です
創生記 (新字新仮名) / 太宰治(著)
晩秋騒夜、われ完璧かんぺきの敗北を自覚した。
HUMAN LOST (新字新仮名) / 太宰治(著)