なら)” の例文
「もう一つ、梅の木の下が、あちこち、土の新らしくなつて居るのは何んでせう、掘り散らして、あとで土をならしたやうだが」
二十間ばかり東に離れて山腹を切り取った一坪位の平にならされた所に、栂の枝で造ったいたって無造作な猟師の鳥屋とやのようなものが立っていた。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
明朝あした目を覚ますと、お作はもう起きていた。枕頭まくらもとには綺麗に火入れの灰をならした莨盆と、折り目のくずれぬ新聞が置いてあった。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
奥座敷から北の方へ二百坪ほど地面をならして、その真中にぽつんと浴場がたっている。渡り廊下は両側壁造りで明り窓がとってあるだけです。
浴槽 (新字新仮名) / 大坪砂男(著)
実際、こゝに寄って来る若旦那たちは、めい/\多少の癖はあるようなものゝ、ならしにはさばけていて陽気な人たちでした。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
畠を切りならしたばかりの私の家の外庭には、毎年待っている子どもがあるのに、もう一本でも生えて来ようとしない。
かれらはただちに仕事にかかり、見事な順序で、耕し、まぐわをかけ、転子ころならし、うねをたてて、ここを模範農場にせずにはおかぬ意気ごみのようであった。
ついと立つて紅い道化頭巾を冠る、浴衣を脱ぐ、薄いシヤツ一枚になつて、さて眉から鼻、口元と白粉をならす、長い瞼毛まつげ周囲まはりを青インキで濃く隈をつける。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
一人扶持かて一年にならしてみやはりまっせ、一石八斗二升五合になりまんがな、今時、諸式が上りはって、京大阪で上白じょうはく一桝ひとますが一貫と二十四文しますさかい
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
野郎、これで一杯いっぺえって来い、なんかと時々親方が投げてくれる金銭で衣食している連中——が、開始前、手に手にほうきを持って、中央の大円庭に砂をならしている。
味噌蔵から勝手口まで長さ二間ばかりの杉並四分板を置いた粘土のならし、その土の上に、草鞋の跡と女の日和下駄ひよりげたの歯形とがはっきり着いている。二つとも新しい。
なるほどなるほどと自分は感心して、小短冊こたんじゃく位の大きさにそれをって、そして有合せの味噌みそをその杓子しゃくしの背で五りんか七厘ほど、一とはならぬ厚さにならしてりつけた。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
白い砂が疊のやうに美しくならしてある神籬の中へ、若し土足を踏み込めば、直ぐ腰が立たなくなると、村人は皆恐れてゐて、靈代たましろを安置する平井明神の神主のほかは、誰も入るものがない。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
そうすると数珠玉の上の出張った埃を、平にならしたものがなければならない。けれども、どんなに精巧な器械を使ったところで、人間の手ではどうして出来るものじゃない。自然の細刻だよ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
父はその御者ぎょしゃ、姉は曲馬団の調馬師、兄弟はすべて道路の地ならし用蒸気ロウラアに乗り組んでいる小意気な船員たちだと、ユウモラスなつもりだろうが、このごろ流行はやるナンセンス文学みたいな
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
かかる好都合の処はないとて、嘉与吉と二人で、その下の小石を取り除けて左右に積み、風防かぜよけとし、居を平にならす、フ氏と嘉門次は、偃松の枝を採りて火をける、これでどうやら宿れそうだ。
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
「さあ。月によって出来不出来があるけれど、ならし百五十円」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
河原がならされ天幕が張られて、めらめらと勢よく燃え上る火の上で大鍋が沸々音を立てる時分には、冷え切った体にも温い血がめぐり始めた。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
何やら物のは出て居りますが、二三日前の雨で畑の土はよくならされ、その上へ眞一文字に附いた草鞋わらぢの跡は、點々として描いたやうに鮮明です。
「それあありますとも。年に決まって一回か二回はね。そしてその時に、刳り取られたこの砂地がならされるのです」
蒼白い月 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
鼎造の崖邸は真佐子の生れる前の年、崖の上の桐畑きりばたけならして建てたのだからやっと十五六年にしかならない。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
おっちょこちょいのせがれに、おっちょこちょいが生れるということは有り得ることで、王侯将相豈種おうこうしょうしょうあにしゅあらんやというは、それは歴史上をならして、幾千億万分の一の特例であって
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
小石を敷きならしたようないい平で、小屋でもあったらしい跡がある。東からは長いガレが這い上って来ている。
秋の鬼怒沼 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
そう見られるくろずみ方で山は天地を一体の夜色にならされた。打縁流うちよする駿河能国するがのくにの暮景はかくも雄大であった。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
天井にも屋根にも變つたところがなく、縁の下の土はよくならされてゐて、人の這ひ出した跡もないのですから、離屋は全くルレタビーユの『黄色い部屋』です。
綺麗にならされた桐胴きりどうの火鉢の白い灰が、底冷えのきびしい明け方ちかくの夜気に蒼白あおざめて、酒のさめかけた二人の顔には、深い疲労と、興奮の色が見えていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
また勾配がならされてしまう、その間に一つの入江がある、入江ではない、相当の湾入があって、自分たちの着いた海を北湾入とすれば、これは東湾入ともいうべき形勢であって、駒井甚三郎は
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
急斜面の小高い所をならした猫の額程の平に、生々しい木の枝を組み合せた粗末な小屋が二つ、執念深い人間の生存慾を具体化したもののように立っている
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
そう、たいして広い間口の店さきもなく、圧倒するほどの大商店もなく、軒並にならしに明るさと繁昌を湛えて、殊に商品はどこの店でも可なり充実しております。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
日々に地がならされ、瓦礫がれきが掘り出され、すみの方に国旗のさおが建てられ、樹木のかげも深くなって来た。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
と言って、川の瀬をよくならして水のとどこおらぬようにしました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
元は河原であったものが、河が東に移った為に島のような形になって、島尻に十坪程細かい砂を平に敷きならした所がある、其処に天幕を張って泊ることにした。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
安公がでこぼこの棺のなかをならしながら、ぐいぐいしつけると、「おい来たよう。」とふたがやがてぴたりとおろされた。白襟しろえりに淡色の紋附を着た姑は、その側に立って泣いていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
たゞならしに低能の中に、この癖が底根のように横わっています。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
声をかけると二人ともそう遠く離れてはいないらしいので安心する。一ト所、山の斜面の土を平に掻きならし、其上に草や小枝を敷いた三、四尺の段が幾つかあった。
大井川奥山の話 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
平地が無いから河原に小屋掛けして、茅を厚く敷きならしたので少しも体が痛くない。河原と岩壁との間に湛えた豊富な湯に河の水を堰き入れると、好い頃合の温泉になる。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
天幕が張られると、偃松の小枝を厚く下敷にして地面の凹凸をならし、其上に羚羊かもしかの毛皮を重ね、更に二、三枚の毛布を一杯に拡げたから、狭いがフクフクと暖いお座敷が出来上った。