命令いいつけ)” の例文
併し其辺には彼の意に適った思わしい隠場所も無かったので、命令いいつけかない二本の脚を、無理に引擦ひきずってた歩き出した。
人間製造 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さあ、たとえ俺が無理でも構わん、無情でも差支えん、おんなが怨んでも、泣いても可い。こがじにに死んでも可い。先生の命令いいつけだ、切れっちまえ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
池田 恐れながら、かねての殿のお命令いいつけに従い、きやつの胸に探りを入れてみましたところ、まったく異心は無いものと見受けましてござります。
稲生播磨守 (新字新仮名) / 林不忘(著)
もしや叱責こごと種子たねにはなるまいかと鬼胎おそれいだくこと大方ならず、かつまたしお文鰩とびを買って来いという命令いいつけではあったが
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
... 私にも是非そのお料理を覚えるようにと命令いいつけられましたから暇の時おそわりに参るつもりです」と聞くより客は膝進ませ
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ハラムは運命の神様のマドウーラ様から、この妾を生涯の妻とするように命令いいつけられているに違いなかった。
ココナットの実 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
生絹はいまにも下ノ者にもはや蘆売る人を捜さなくともいいという命令いいつけを下そうかと、何度も思い惑うているところであった。下ノ者は馳り来て伝えていった。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
嫂はこう云いながら兄に挨拶あいさつした。そうしてそばに立っていた芳江に、「さあお父さんに御帰り遊ばせとおっしゃい」と注意した。芳江は母の命令いいつけ通り「御帰り」と頭を下げた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ダンネベルグ夫人のお命令いいつけでした。あの方のおびえきったお心は、昨夜最後の避難所をここへ求めずにはいられなかったのです」と凄気のもった言葉を冒頭にして、鎮子はまず
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
お雪は夫が奉公人というものをく知らないと思っている——どんなに下婢が自分の命令いいつけを守らないか、どんなに子供をヒドくするか、そんなことは一向御構いなしだ、こう思っている。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私はしじゅう父の命令いいつけでハルビンへ薬を買いに行くんです。今度もその用で、二三日中に行くことになっているんですから、急に思い立って今夜これから発つと言っても、父は何とも言いはしません。
阿母と義坊の命令いいつけ
夜明の集会 (新字新仮名) / 波立一(著)
幸いなりもらってくれとの命令いいつけかしこまると立つ女と入れかわりて今日は黒出の着服きつけにひとしお器量まさりのする小春があなたよくと末半分は消えて行く片靨かたえくぼ俊雄はぞッと可愛げ立ちてそれから二度三度と馴染なじめば馴染むほど小春がなつかしくたましいいつとなく叛旗はんき
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
息子の幸吉は、三十近い、色のなまちろ優男やさおとこである。父親おやじ命令いいつけを取り次いで、大勢の下女下男に雑用の下知を下しながら仔猫のようにび廻っていた。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
……コレ……祖父の命令いいつけじゃ。立たぬか。伯父様や伯母様方に御暇おいとま乞いをせぬか。今生こんじょうのお別れをせぬか。
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
其橋を渡って少し行くと、洋館ばかりが立ち並んでいる寂しい寂しい街通へ出たが、もう此頃から彼の脚は彼の命令いいつけに従わなくなった。つまり歩けなくなったのである。
人間製造 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
皆の仕事を監督みまわりかたがた、墨壺墨さし矩尺かねもって胸三寸にある切組を実物にする指図命令いいつけ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「老人の、あの苦心に見倣みならえ、と先生の命令いいつけで出向いています。」
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
皆紅矢の命令いいつけを守っての鳥けものには眼もくれずに、只赤い羽根を持って人間の声を出す鳥が居たらばと、そればかり心掛けて、眼を見張り、耳を澄まして行った。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
文字若さんの命令いいつけで、すぐ、こちらの親分をお迎えにこうしてすっ飛んで来やしたのさ。
どこへ行っても十や二十の乾児こぶんのあるのが私の自慢、この土地へ来てもその通り、その乾児らへ命令いいつけて、力柱の効能をある事ないこと云い触れさせ、それが当たって当座のうちは
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さまこそかわれ十兵衛も心は同じ張りをもち、導かるるまま打ち通りて、人気のなきに寒さ一室ひとまうちにただ一人兀然つくねんとして、今や上人のびたまうか、五重の塔の工事一切そなたに任すと命令いいつけたまうか
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
コック部屋に無けあ船長室に在る筈だ。そいつをぱらって来い。なぐられるもんか。愚図愚図ぐずぐずかしたら俺が命令いいつけたと云え。船長おやじには貸しがあるんだ。……行って来い……。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
猫を殺す——必ずともに壺のふたを取るでないぞ! 中をあらためてはならぬぞ! こういう峰丹波の固い命令いいつけだったので、それで与吉、今まであの高麗屋敷の櫛まきお藤の家で
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「……知らぬこととは云いながら兄妹契りを結ぶとは取りも直さず畜生道。二人ながら活きては居られず、かつは頭領かしら命令いいつけもあり、今宵忍んで妹めを打ち果たしましてござります。……」
赤格子九郎右衛門の娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
イヤ、おぬしがここにおることは、あのお美夜と申す女の子が、おぬしの命令いいつけでかの壺を、拙者のもとへ届けに来てくれたとき、聞いたのじゃが、まだこの家に居候とは知らなかった。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「この長者様の命令いいつけをしばらく待てと止めたのはいったい誰じゃ?」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「いいえ、愛してはいませんでした。如何にも愛しているかのような左様そういう素振りをしましたけれど……それが私の役目でしたものね。そうよ、私は、そうるように命令いいつけられていたのですもの」
温室の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お前が、あの方の命令いいつけで栄三郎の袂へ入れて来たと言うんだねえ?
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)