吾家わがや)” の例文
それから追捕を避けつつ千辛万苦する事数箇月、やっと一ヶ年振りの十一月の何日かに都に着くと蹌踉そうろうとして吾家わがやの門を潜った。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今宵こよひ家例かれいり、宴會えんくわいもよふしまして、日頃ひごろ別懇べっこん方々かた/″\多勢おほぜい客人まろうどまねきましたが、貴下こなたそのくみくははらせらるゝは一だん吾家わがや面目めんもくにござる。
台町の吾家わがやに着いたのは十時頃であったろう。門前に黒塗の車が待っていて、狭い格子こうしすきから女の笑い声がれる。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この道を吾家わがやまで戻るのには、凡そ小半里も歩かなければならなかつた。——山も丘も、林も、一面に月の光りを浴びて、雪の景色のやうでもあつた。
センチメンタル・ドライヴ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
吾家わがやへ帰るべきを忘れたのをうらんだも好いが、相手の女が稲荷様の禰宜ねぎの女というので、杉村ならば帰ったろうにと云ったのは、冷視と蔑視べっしとを兼ねて
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
こそは吾家わがや、またはか
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
この夜半やはんの世界から犬の遠吠を引き去ると動いているものは一つもない。吾家わがやが海の底へ沈んだと思うくらい静かになる。静まらぬは吾心のみである。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
少々余談に亘りますが、男性の中でも夫と名付くる種類のうちには、どうかすると吾家わがやに帰って来るたんびに、初めから怒鳴り込んで来るのがあります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼は、その歌を酷く快く聞いてから、すご/\と吾家わがやに戻つたのである。すると細君が、彼を汚らはしい者のやうに爪弾いた。細君が、故もない嫉妬をした。
小川の流れ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
かまわずおけば当世時花はやらぬ恋の病になるは必定、如何どうにかして助けてやりたいが、ハテ難物じゃ、それともいっそ経帷子きょうかたびら吾家わがや出立しゅったつするようにならぬ内追払おっぱらおうか、さりとては忍び難し
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
くるしめられ、にくまれて、なんつみもなうてころされてしまうたのぢゃ! あさましい惡日あくにちめ、なんおのれ吾家わがやへはをったぞ、このめでたいしきころさうとて、このめでたいしきころさうとて! おゝ、むすめよ! おゝ
僕は、戯曲を朗読するかのやうに幾つかの声の調子で吾れと自ら受け渡しをしながら、浮れ、浮れて、松林を抜けて、丘を超えて一散に吾家わがやを目ざして歩き出した。
センチメンタル・ドライヴ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
浩さんは松樹山しょうじゅざん塹壕ざんごうからまだあがって来ないがその紀念の遺髪ははるかの海を渡って駒込の寂光院じゃっこういんに埋葬された。ここへ行って御参りをしてきようと西片町にしかたまち吾家わがやを出る。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御不審こそことわりなれ。の初花楼の主人甚十郎兵衛じんじろべゑと申す者。吾家わがやには切支丹を信ずる者一人も候はずとて、役人衆に思はしき袖の下を遣はざりしより、の様なる意地悪き仕向けを受けたるものに候。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
吾家わがやを指して立帰った。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
余はほとんどがけと共にくずれる吾家わがやの光景と、さきで海に押し流されつつある吾子供らを、夢に見ようとした。雨のしたたか降る前に余はさいに宛てて手紙を出しておいた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
音楽会の帰りの馬車や車は最前さいぜんから絡繹らくえきとして二人を後ろから追い越して夕暮を吾家わがやへ急ぐ。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どこをどう歩行あるいたとも知らず流星のごとく吾家わがやへ飛び込んだのは十二時近くであろう。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
きたるに来所らいしょなく去るに去所きょしょを知らずとうと禅語ぜんごめくが、余はどの路を通って「塔」に着したかまたいかなる町を横ぎって吾家わがやに帰ったかいまだに判然しない。どう考えても思い出せぬ。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼らは驀地に進み了して曠如こうじょ吾家わがやに帰り来りたる英霊漢である。天上を行き天下てんげを行き、行き尽してやまざるてい気魄きはくが吾人の尊敬にあたいせざる以上は八荒はっこううちに尊敬すべきものは微塵みじんほどもない。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)