吩咐いひつ)” の例文
それから數日間すうじつかん主人しゆじんうち姿すがたせなかつた。内儀かみさんは傭人やとひにん惡戯いたづらいてむしあはれになつてまたこちらから仕事しごと吩咐いひつけてやつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
松子がちよつとした用事を吩咐いひつけても、いつだつて外方そつぽむいて返事もしないつて風なんです。松子は泣いてしまつたんです。
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
情無い此我はよと、羨ましいがつひかうじて女房かゝにも口きかず泣きながら寐ました其夜の事、五重塔をきさま作れ今直つくれと怖しい人に吩咐いひつけられ
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ロミオ 馬鹿ばかな、なんの、そんなことを! おれには介意かまはいで吩咐いひつくることをせい。御坊ごばうからの書状しょじゃうかったか?
先生は大抵私に水注みづつぎの役を吩咐いひつけられる。私は、葉鉄ぶりきで拵へた水差を持つて、机から机と廻つて歩く。
二筋の血 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
猶それから白鷹はくたか、正宗、月桂冠壜詰の各問屋主人を訪ひ業界の霜枯時に對する感想談話を筆記して來るやうにとのことをも吩咐いひつけて置いてそしてあたふたと夫婦連で出て行つた。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
母や兄嫁は立つたり坐つたり、何となしに家事に忙しかつたが、勝代はざつと二階の掃除をして、時間外れの朝餐を一人で食べると、下女に吩咐いひつけて、二階の炬燵に火を入れさせて、閉ぢ籠つた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
かみさまア、旦那様だんなさア吩咐いひつかつて、東京の御客様アれて来たゞア」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
彼は何やらん吩咐いひつけて車夫を遣りぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
おつぎは勘次かんじ吩咐いひつけてつたとほをけれてあるこめむぎとのぜたのをめしいて、いも大根だいこしるこしらへるほかどうといふ仕事しごともなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
たえ子はお春に吩咐いひつけて着替きかへをすると、そのまゝふらりとうちを出た。たとひ良人が今夜は帰るにしても、顔を合せるのも忌々しいやうな気がしてゐた。
復讐 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
つぎの日の朝私は女に吩咐いひつけてトランクから取出させた春のインバネスを着て家を出た。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
乳母うばめに、じゃうえてゐたら、わかあたゝかいがあったら、テニスのたまのやうに、わし吩咐いひつくるやいな戀人こひゞととこんでき、また戀人こひゞと返辭へんじともわし手元てもと飛返とびかへってつらうもの。
手を叩いて更に「天麩羅二つ」と吩咐いひつけた。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
留守をしてゐた若い洋画家のK—子さんに丼を誂へるやうに吩咐いひつけたりして、そわ/\してゐた。
草いきれ (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
かれ座敷ざしきうち掃除さうぢをして毎朝まいあさ蒲團ふとん整然ちやん始末しまつするやう寡言むくちくちからおつぎに吩咐いひつけた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
……なんとぢゃ、そなた! 吩咐いひつけたとほりをおかたりゃったか?