つくゑ)” の例文
紳士はそれを聞くと、黙つて婦人を連れて窓際の小卓こづくゑに案内した。つくゑの上には真紅まつかな花が酒のやうな甘つたるい香気にほひを漂はしてゐた。
校長も、年長としうへの生徒に案内をさせる為に待たしてあるといふので、急いで靴を磨いて出懸けた。出懸ける時に甲田のつくゑの前へ来て
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
しばらまつててゐるうちに、いしかべ沿うてつくけてあるつくゑうへ大勢おほぜいそうめしさいしる鍋釜なべかまからうつしてゐるのがえてた。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
鞣革で張つた椅子で、脚はつくゑと同じやうに捩れて下の方が細くなつてゐる。その椅子に腰を掛けてゐるのが主人である。
十三時 (新字旧仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
我は側なるつくゑを指ざして、むくいせんと思ふ方々かた/″\は、金錢にもせよ珠玉首飾の類にもせよ、此上に出し給へと云ひぬ。
ヤヲら振り返りつ「アハヽ村井さん、大分痛手を負ひましたナ、が、御安心なさい、此頃も午餐ひるつくゑで、主筆さんが社長さんと其の話してられましたよ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
それに部屋とは云ふものの、中にはただ、穴だらけの、大きなつくゑが二つ三つ置いてあるきりだつた。
燃ゆる頬 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
ぱつと一段明るい珈琲店カフエの前に来たら、渦の中へ巻き込まれる様にその姿がすつと消えた。気がついたら、僕も大きな珈琲店のすみの大理石のつくゑの前に腰をかけてゐた。
珈琲店より (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
此人の精神上の地平線は、自分が参事官の下級から上級まで歴昇へのぼつた地方庁と、骨牌かるた遊びをする、緑色の切れの掛けてあるつくゑを中心にした倶楽部との外に出でない。一切の事物が平穏に経過して行く。
板ばさみ (新字旧仮名) / オイゲン・チリコフ(著)
水薬すゐやくみしつくゑ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
忠一といふ、今度尋常科の三年に進んだ校長の長男が、用もないのに怖々おづおづしながら入つて来て、甘えるやう姿態しなをして健のつくゑ倚掛よりかかつた。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
旅の事をば猶明朝かたらふべし。夫人先づ起ちて我等はつくゑを離れ、我は始て夫人の手に接吻することを得たり。公子は今夜書を作りてをぢに寄せ、我がために地をなさんと云ひぬ。
松本はこぶしを固めてつくゑを打ちつ「実にしからん奴だ、其事は僕もあらかじめ行徳君に注意したことがあつたが、行徳君は無雑作むざふさに打ち消して仕舞しまつた——八ツ裂きにしても此のうらみれない」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
石炭をばや積み果てつ。中等室のつくゑのほとりはいと静にて、熾熱燈しねつとうの光の晴れがましきもいたづらなり。今宵は夜毎にこゝに集ひ来る骨牌カルタ仲間も「ホテル」に宿りて、舟に残れるは余一人ひとりのみなれば。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
職員四人分のつくゑや椅子、書類入の戸棚などを並べて、さらでだに狭くなつてゐる室は、其等の人数にんずうづめられて、身動みじろぎも出来ぬ程である。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
つくゑには柑子かうじ無花果いちじゆくなどうづたかく積み上げたり。
『来ないのは来ないでせうなア。』と、校長は独語ひとりごとの様に意味のないことを言つて、つくゑの上の手焙てあぶりの火を、煙管でつついてゐる。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
間もなく福富は先刻さつきの葉書を持つて来て甲田のつくゑに置いて、『年老としとつた人は同情がありませんね。』
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
『少ししか持つてませんよ。』と言ひ乍ら、橄欖色オリイブいろのレース糸で編んだ金入を帯の間から出して、つくゑの上に逆さまにした。一円紙幣が二枚と五十銭銀貨一枚と、外に少し許り細かいのがあつた。
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)