北斎ほくさい)” の例文
北斎ほくさいの描いたという珍しい美人画がある。そのえりがたぶん緋鹿ひがか何かであろう、恐ろしくぎざぎざした縮れた線で描かれている。
浮世絵の曲線 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
春章しゅんしょう写楽しゃらく豊国とよくには江戸盛時の演劇を眼前に髣髴ほうふつたらしめ、歌麿うたまろ栄之えいしは不夜城の歓楽に人をいざなひ、北斎ほくさい広重ひろしげは閑雅なる市中しちゅうの風景に遊ばしむ。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
北斎ほくさいなどの読み本の挿画には、田舎の豊饒ほうじょうを写し出そうとすると、きまって鳴子なるこ頓著とんじゃくせぬらしい雀の大群が描いてある。
高い窓から光線が横に這入はいって来るのは仕方がないが、その窓にめてある障子しょうじは、北斎ほくさいいた絵入の三国志さんごくしに出てくるようなからめいたものである。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
応挙おうきょや、北斎ほくさいや、ロダンや、セザンヌやの如く、純粋に観照的な態度によって、確実に事物の真相をつかもうとするところの、美術家の中の美術主義者が居る。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
やみが来たと思う間もなく、また稲妻が向うのぎざぎざの雲から、北斎ほくさいの山下白雨のように赤くって来て、れない光の手をもって、百合をかすめて過ぎました。
ガドルフの百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あの鬼の絵は、もと、私の実家さとに秘蔵されて居たもので、御覧のとおり北斎ほくさいの筆で御座います。
印象 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
北斎ほくさいの描いたという楊貴妃ようきひふくが気に入って、父にねだって手に入れた時、それにあう文字を額にほしいと思って、『文選もんぜん』や『卓氏藻林たくしそうりん』や、『白氏文集はくしもんじゅう』から経巻まで引摺ひきずりだして見たが
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
北斎ほくさいの描いたかつてのお前の姿の中に
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
北斎ほくさいの赤富士にござりまする
『隅田川両岸一覧』に川筋の風景をのみ描き出した北斎ほくさいも、更に足曳あしびきの山の手のために、『山復山やままたやま』三巻を描いたではないか。
われわれは広重ひろしげでも北斎ほくさいでも歌麿うたまろでもそれぞれに特有な取り合わせの手法を認めることができるであろう。
映画芸術 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
このゆえどうと名のつくものは必ず卑しい。運慶うんけい仁王におうも、北斎ほくさい漫画まんがも全くこの動の一字で失敗している。動か静か。これがわれら画工がこうの運命を支配する大問題である。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
北斎ほくさいのはんのきの下で
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
喜多川歌麿きたがわうたまろの絵筆持つ指先もかかる寒さのためにこおったのであろう。馬琴ばきん北斎ほくさいもこの置炬燵の火の消えかかった果敢はかなさを知っていたであろう。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今にドイツとか米国とかでだれかが歌麿うたまろ北斎ほくさいを発見したように灸治法の発見をして大論文でも書くようになれば日本でも灸治研究が流行をきたすかもしれないと思われる。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
兄エドモン・ド・ゴンクウルは弟ジュウルの歿後ぼつごそのよわいようやく六十に達せんとするの時、あらたに日本美術の研究に従事しまず歌麿うたまろ北斎ほくさい二家の詳伝を編纂へんさんせり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
また広重ひろしげをして新東京百景や隅田川すみだがわ新鉄橋めぐりを作らせるのも妙であろうし、北斎ほくさいをして日本アルプス風景や現代世相のページェントを映出させるのもおもしろいであろう。
映画時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
北斎ほくさい及び広重ひろしげらの江戸名所絵めいしょええがかれた所、これを文字もんじに代えたならば、即ちこの一句に尽きてしまうであろう。
このあたりの景色北斎ほくさいが道中画譜をそのままなり。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
広重ひろしげ北斎ほくさいの事は余すでに「浮世絵の山水画と江戸名所」と題せし論文に言ひたればここに論ぜず。)
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これ余が広重ひろしげ北斎ほくさいとの江戸名所絵によりて都会とその近郊の風景を見ん事をこいねがひ、鳥居奥村派とりいおくむらはの制作によりて衣服の模様器具の意匠いしょうたずね、天明てんめい以後の美人画によりては
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これ余が広重ひろしげ北斎ほくさいとの江戸名所絵によりて都会とその近郊の風景を見ん事をこいねがひ、鳥居奥村派とりいおくむらはの制作によりて衣服の模様器具の意匠を尋ね、天明てんめい以後の美人画によりては
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それらの光景は私の眼にはただち北斎ほくさいの画題を思起おもいおこさせる。いつぞや芝白金しばしろかね瑞聖寺ずいしょうじという名高い黄檗宗おうばくしゅうの禅寺を見に行った時その門前の閑地に一人の男がしきりと元結の車を繰っていた。
しかして明和めいわ二年に至り、鈴木春信すずきはるのぶ初めて精巧なる木板彩色摺さいしきずりの法を発見せしより浮世絵の傑作品は多く板画にとどまり、肉筆の制作は湖龍斎こりゅうさい春章しゅんしょう清長きよなが北斎ほくさい等の或る作品を除くのほか
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
画家の謝礼を著者が支払うなんて云う事は馬琴ばきん北斎ほくさいのむかしから聞いた事のない話です。「濹東綺譚」の表紙の意匠は私がしたのですがこれについて本屋は別に謝礼も何も寄越しはしませんでした。
出版屋惣まくり (新字新仮名) / 永井荷風(著)