ぜい)” の例文
地点は、森武蔵ぜいっている岐阜ヶ嶽の下——ぶついけのなぎさである。馬に水を飼い、馬の脚を、水にけて冷やしているのだ。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
親指が没する、くるぶしが没する、脚首あしくびが全部没する、ふくらはぎあたりまで没すると、もうなかなかたにの方から流れる水の流れぜいが分明にこたえる。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
武人の文化が源氏や北条氏を首石おやいしにしたのと違って、江戸に生れた平民の文化は、正真正銘、日本全国の寄り合いぜいで作ったものに相違なかった。
で自然の勢いとして、田安家のぜいも一ツ橋家の勢も、そうして君江も小一郎も、盆地で一緒にならなければなるまい。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今日井伊藤堂いいとうどうぜいが苦戦したを、越前の家中の者は昼寝でもして、知らざったか、両陣の後を
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
わしはぜいの兵たちに、もう矢をはなさせようか、もう射殺させようかと、いくども思い思いしたけれど、一つにはお父上のことを思いかえし、つぎには妹たちのことを思い出して
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
ぜいは、リビイの砂原すなはらあるはまた、丘上の角面堡より攻めんとす。
ははゝゝ 大ぜいおなじ夢をみるわけにはいかないよ
と、逃げなだれた泊兵はくへいぜい後目しりめに自陣の方へ帰りかけるところだった。——それを見ると、休んでいた林冲がまた馬を躍らせて来て。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、腹背の二手のぜいは、ドッと喊声を響かせたが、思慮浅くムラムラと、七福神組へ走り寄った。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
親指が没する、くるぶしが没する、脚首が全部没する、ふくらはぎあたりまで没すると、もう中〻渓の方から流れる水の流れぜいが分明にこたへる。空気も大層冷たくなつて、夜雨の威がひし/\と身に浸みる。
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「甲斐、信濃の源氏。北陸七ヵ国のぜい。——また西国では、安芸、長門、周防、四国の伊予にまでも、このたびは、お下知のまいらぬ国はありません」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むらむらと寄る敵のぜい。無惨や数馬は乱刃の下に今は生命いのちを落とさなければならない。オースチン老師も芳江姫も同じく敵の重囲の中に身動きも出来ず取り込められている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「それよ。足利どのの勢力が増さぬうち、あの一ぜいは、ぶちつぶすとか宮の武士はいっている。……ゆうべも、殿でんノ法印の家来衆が、辻の小酒屋で言っておった」
表門から走り出た、五、六十人の一ツ橋家のぜいが、ようやくこの時追い付いたのである。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
わが大事は、露顕ろけんしたらしいが、射手のぜいは、多寡たかの知れた人数。しかも大将徐晃はただ一と矢に射止めた。蹴ちらす間には、やがて金城、上庸じょうようの援軍も来る。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すでに夕方ぢかくから、しきりに、さぐりのぜいで小当りに当らせていたが、山上の常ならぬ気配を知ると
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その下には侍大将の南条左衛門高直以下のぜい六万騎と、古典では誇張してある。が、実数はほぼ一万弱か。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれどひとたび魏のぜい雲霞うんかのごとく攻め来ったときは、五千の小勢は、到底、その抗戦に当り得ず、山上の本軍も、水を断たれて、まったく士気を失い、続々
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「直義一ぜいはいま、箱根路の三島口、水飲みずのみという部落の前にほりを切って、一族死に物狂いでふせぎ戦っていると申す。……我慢はここわずかなまだ。死ぬなと申せ」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが、この秋、浪華なにわ附近の激戦の折、乱軍の中で、楠木ぜいの手に、捕虜ほりょになったと伝えられた。
日本名婦伝:大楠公夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これは、安定より駈けつけてきた味方のぜいにて候。仔細は矢文にて」と、用意の一矢を射込んだ。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
花山院の皇居からたったいま退出して、これに待っていた一ぜいと、ひとつになったものだった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一とかたまりの武者が白刃はくじんをそろえて前をふさいだ。みなおもてや全身を血にそめている死にもの狂いの荒木ぜいである。殊に、うしろへ駆け廻った幾名かは、栗山善助の背に眼をつけて
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いうまでもなく、まぼろしの敵にたいする先帝奪回の封じ手だった。——高氏の一ぜいなどもまた、羅刹谷らせつだにを出て、大和口の三ノ橋に、こよいも篝火かがりびをさかんにし、非常の警備についていた。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もし軍装や兵の表情が、いくらかでもその大将の立場なり性格を反映するものなら、この一ぜいの大将は、よほど何か不遇ふぐうにあるか、不満なのか、とにかく、異常者にちがいなかった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勝ちにはやれば、大敗を取る公算も多い。……すでに、ここのぜいも二千とかぞえて、旗奉行の了現りょうげんは誇っておるが、あらましは散所さんじょの浪人や、烏合うごうはい。元々、たのめる武士はいくらもおらぬ。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
必ず蜀のぜいを鳴らして来るだろうと予測していたところ、一本の矢すら飛んで来ないので、徐晃は拍子抜けしながらも、敵の柵を破壊し、壕を埋め、さんざんに振舞って、やがて日没に近づくと
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
討手のぜいを踏み込ますわけにはゆかない。手続きが要る。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お味方のぜいにござりました」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)