あまつ)” の例文
旧字:
此凄まじい日に照付られて、一滴水も飲まなければ、咽喉のどえるをだま手段てだてなくあまつさえ死人しびとかざ腐付くさりついて此方こちらの体も壊出くずれだしそう。
あまつさえT市の鍵が吾輩のところにあるのを知ると、仮面の悪人どもをかたらいあらゆる悪辣なる手段を弄してその奪還を図ったのだ。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あるいは外国の書を飜訳ほんやくして大言を吐散はきちらし、あまつさえ儒流を軽蔑けいべつしてはばかる所を知らずとえば、れは所謂いわゆる異端いたん外道げどうちがいない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
あまつさへ湯加減程よき一風呂に我が身体も亦車上の労れを忘れた。自分は今、眠りたいと云ふ外に何の希望も持つて居ない。
雪中行:小樽より釧路まで (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
法律は鉄腕の如く雅之をらつし去りて、あまつさへつゑに離れ、涙によろぼふ老母をば道のかたはら踢返けかへして顧ざりけり。ああ、母は幾許いかばかりこの子に思をけたりけるよ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
煙が蒲団の中に漲り充ちて、私は眼や鼻に烈しい痛みを感じ、且つ息苦しくなり、あまつさへ烈しい咳の発作に襲はれた。私は堪へ忍びながら喫ひ続けた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
大きな声を張りあげてときをつくり、あまつさえ古蓆ふるむしろのように引きむしられたはねでバタバタと羽搏はばたきをやらかしていた。
老いたる侍 不孝の罪はまだしもあれ、けがらはしき異国の邪法に迷ひ、あまつさへ、猥りに愚人を惑はすとは……
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
あまつさへ細雨をそそぎ来りしが、はなはだしきに至らずしてみ、為めにすこしく休暇きうかすることを得たり。
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
その恩を忘却して何んだ、松公に逢いたいから請出されて来たとは何んの云い草だ、何うも然ういう了簡とも知らず騙されたのは僕が愚だから仕方もえが、あまつさえ三十金手切を取って
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかも先きの攻め道具たりし寒気と風力とは、ますます猛烈を加うるのみにして、更にそのいきおいを減ずることなし、あまつさえ強猛なる寒気は絶えず山腹の積雪を遠慮会釈えんりょえしゃくなくさかしまに吹上げ来り
あまつさえ、吾等市民代表者の切なる要求を斥け、一件書類を金庫から取出して見せることを拒むとは横暴とも理不尽とも、実に言語道断の振舞いである。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あまつさへ今迄の住居に比べて、こゝは蚊も少なく、余りにやかましかりし蛙の声もなく、畳もふすま障紙しやうじも壁も皆新しくて、庭には二百年も経ぬらしと思はるゝ伽羅きやらの樹あり。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
しかし健康で丸々と張りきった彼の頬は、よほど巧く出来ていて、旺盛おうせいな繁殖力を包蔵ほうぞうしていると見え、髯は間もなく新らしく伸びて、あまつさえ前より立派になる位だ。
此の小原山へお招き申して掛合い、実に圖書の為には、貴公様は神とも仏とも申そう様もない有難いお方であるを、全くわたくしの心得違から、刄物を扱い、あまつさえ飛道具を向けましたる段は
あまつさえ人夫らのうちに、寒気と風雨とに恐れ、ために物議を生じて、四面朦朧もうろう咫尺しせきべんぜざるに乗じて、何時いつにか下山せしものありたるため、翌日落成すべき建築もなお竣工しゅんこうぐるあたわざるとう
あまつさへ諸子の花苑には、宇宙のもつとも霊妙なる産物たる清浄無垢むくの美花あり。その花、開いては天に参し、地をおほふの姿にも匂ひぬべく、もとより微々たる一茎一枝の草樹に比すべからず。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
あまつさえ飯島を手に掛け、金銀衣類を奪い取り、江戸を立退たちのき、越後の村上へ逃出しましたが、親元絶家ぜっけして寄るべなきまゝ、段々と奥州路を経囘へめぐりて下街道しもかいどうへ出て参り此の栗橋にてわずらい付き
大「はっ……しかようの証拠がござって、手前は神原兄弟と心を合せて御家老職をあざむき、あまつさえ御舎弟様を手前が毒害いたそうなどと、毛頭身に覚えない事で、殊に渡邊織江を殺害せつがいいたしたなどと」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)