剣幕けんまく)” の例文
旧字:劍幕
聞く者その威容いようおそれ弁舌におどろ這々ほうほうていにて引き退さがるを常としたりきと云っているもって春琴の勢い込んだ剣幕けんまくを想像することが出来よう。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
長居ながいはめんどうと思ったものか、阿修羅あしゅらのごとき剣幕けんまくで近く後日の再会を約すとそのまま傾く月かげに追われて江戸の方へと走り去ったのだった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
五番の柔道じゅうどう三段の松山さんは、「くされ女の尻を、犬みたいに追いまわしやがって——」とすごい剣幕けんまくにらみつけます。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
私が下のお手水ちょうずの前を通っていると、十一番さんの、あのおひげさんね、あの人がやって来て、今ここを長吉が通らなかったかって、ひどい剣幕けんまくで聞くのよ。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
孝助は相川の遺書かきおきを読む、息をもつかず聞いていながら、膝の上へぽたり/\と大粒な熱い涙をこぼしていましたが、突然いきなり剣幕けんまくを変えて表の方へ飛出そうとするを
「エミリー。お願いだからあと二分間、部屋の外で待っていておくれ」と、さすがの心臓男ドレゴも、エミリーの剣幕けんまくにおそれをなして、赤ん坊のように悲鳴をあげた。
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
満面にしゅをそそぎ、今にもみんなに躍りかかって、わたしたちをみじんに八方へ投げ飛ばしそうな剣幕けんまくを見せたが、令嬢がちらりと彼を見て、指を立てておどかすと
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
「おい、秀公ひでこう、だまっていろ。」と、たっちゃんは、おどすような剣幕けんまくをして、いいました。
二少年の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いさゝか兼吉を怨む筋は無いといて居りまするが、母親の方は非常な剣幕けんまくで、生涯楽隠居の金蔓かねづるを題無しにしたと云ふ立腹です、——女性をんなと云ふものは、果してかくの如く残忍酷薄なものでせうか
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
剣幕けんまくに驚きまどひて予もあわたゞしく逃出にげいだし、れば犬は何やらむ口にくはへて躍り狂ふ、こは怪し口に銜へたるは一尾いちびうをなり、そも何ぞと見むと欲して近寄れば、獲物えものを奪ふとや思ひけむ
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あまりの剣幕けんまくに、とみの唇までがあおくなり、そっと立ちあがって
花燭 (新字新仮名) / 太宰治(著)
今にもつかみかかりそうな、趙の剣幕けんまくだった。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
半眼で見て居ると其の時の剣幕けんまくと云ったらない、怒髪天井を衝き、眼中血走り、後手に出刃庖丁を握って居ないばかりだ。
The Affair of Two Watches (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
お藤は、所作しょさそのままの手でぴたりとおさえておいて、凄味すごみに冷え入る剣幕けんまくをおさよへあびせた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
小学校の四年生の妹のマリ子はあまり受付がひどい剣幕けんまくなので、もうかえりたくなった。
人造人間エフ氏 (新字新仮名) / 海野十三(著)
夫の剣幕けんまくがひどいので拒む訳にも行かぬ。お花は渋々例の写真を持って来る。宗三は、それを、お花の目の前で、さも憎々しく、ズタズタに引きさくと、火鉢の中へくべて了った。
接吻 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
さて黒川孝藏は酔払よっぱらっては居りますれども、生酔なまえい本性ほんしょうたがわずにて、の若侍の剣幕けんまくに恐れをなし、よろめきながら二十歩ばかり逃げ出すを、侍はおのれ卑怯ひきょうなり、口程でもない奴
わたしが、おなかって、なにか、あなたののこしにでもありつこうとおもって、勝手かってもとへかおすと、あなたは、びつきそうな、おそろしい剣幕けんまくをして、おどされたことをわすれはなさらないでしょうね。
小ねこはなにを知ったか (新字新仮名) / 小川未明(著)
が、そうした事に不慣れの彼女はわずか一束の紙幣を抜きとるのに可成の時間を費したらしく、ふと気がついた時には、いつの間にか、うしろにトランクの主が恐しい剣幕けんまくで立ちはだかっていたのです。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その、あべこべに母を叱りつけるような剣幕けんまくには幸子もあきれて
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
品川は非常な剣幕けんまくで、青木の腕を掴まんばかりにして尋ねる。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)