内訌ないこう)” の例文
車が大學の門前を過ぎる時、自分は又もや十年前の憤慨の歴史を追想した。よく世間に傳へられる陋劣な教授連の内訌ないこうを想像した。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
その他すべて今日の我々青年がもっている内訌ないこう的、自滅的傾向は、この理想喪失そうしつの悲しむべき状態をきわめて明瞭に語っている。
ちょうどそのころに今川氏に内訌ないこうが起こり、外からの干渉をも受けそうになっていたのを、この浪人が政治的手腕によってたくみに解決し
この間、藤原氏の勢力一層はびこり、時に内訌ないこうはあったが、仲麻呂を中心とする一族はいよいよ強固に政治の中枢ちゅうすうをかためた。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
朝から晩まで一と間にこもつて、古聖賢こせいけんの有難い經書史書から、黄表紙、好色本、小唄、淨瑠璃じやうるり本までをあさりつくし、智慧と理窟が内訌ないこうして
用人の一人は詰腹を切らされた。そのほかに閉門や御役御免などの処分をうけた者もあって、この内訌ないこうも無事に解決した。
半七捕物帳:33 旅絵師 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もっとも、すべてこれらの問題は目新しいものでもなければ、とつぜん起こったものでもなく、ずっと以前から内訌ないこうしている古いものであった。
遠くは紀州と一橋との将軍継嗣問題以来、苦しい反目を続けて来た幕府の内部は、ここにもその内訌ないこうの消息を語っていた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彦十は、日吉に分る程度に、斎藤一門の内訌ないこうと、美濃の紛乱ふんらんしている実状とを、ざっと、次のようにいつまんで語った。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もしも我が政府部内の者が互いに反目して争って居るこの内訌ないこうを外国人が知ったならばじきに攻めて来るかも知れない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
それが父には暢気のんきな言いごとと聞こえるのも彼は承知していないではなかった。父ははたして内訌ないこうしている不平に油をそそぎかけられたように思ったらしい。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
洋人來航するに及んで、物議ぶつぎ紛々ふん/\、東攻西げきして、内訌ないこう嘗てをさまる時なく、終に外國の輕侮けいぶまねくに至る。此れ政令せいれいに出で、天下耳目のぞくする所を異にするが故なり。
一生涯部下の諸将を初め肉親との内訌ないこうに苦しみ、血で血を洗ふが如き骨肉相剋をつゞけてゐる。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
そうなると、いよいよ、島津の内訌ないこうは、天下に知れ渡って、これがためのみでも、転封されるかも知れん。それよりも、今暫く——機をみて、お前に、譲ろうと思うが——
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
紀元前八十八年ズルラ政柄せいへいを得つる時、マリウスこれと兵馬の權を爭ふ。所謂第一内訌ないこう是なり。
実に何んともいいようのない疼痛とうつうを感じて、いてもってもいられない位……僂麻質斯リューマチスとか、神経痛とかいうのでもなく何んでもたん内訌ないこうしてかく全身が痛むのであるとかで
新撰組の内訌ないこうもこれで片がついて、芹沢の子分は二三人、姿をくらました者もあった。
そうしたら彼奴を軍師として、内訌ないこう多いと噂に聞く木曽義明を攻めようと思う。良将は容易に得難いものだ。殺すなどとはもっての外だ。……お前達はそのつもりで、よく兵を練るがよい
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
術策をもって業となし、他国に内訌ないこうを謀り自家の勢力伸長のみを念としている。
私は書きたい材料をウンウン云うほどペン軸に内訌ないこうさせたまま山の中に引込んで、そんな材料をポツポツペン軸から絞り出して行くうちに、山の中特有の孤独な、静寂な環境のせいでしょうか。
スランプ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
弾正が片倉小十郎に因って政宗に援を請うたところから紛糾した大崎家の内訌ないこうが、伊達対大崎の戦となり、伊達が勝てば氏家弾正を手蔓てづるにして大崎を呑んでしまおうということになったのである。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「里見のは乱暴の内訌ないこうですか」
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すなわち、足利方の内訌ないこうがそれで、直義と師直との軋轢あつれきは、両者の凱旋を機としていよいよ激化し出して来たかの様相がこの春は一ばいかった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次の姿を見ると、競争意識が一ぺんに内訌ないこうして、サッと顔を曇らせるといった男です。
内訌ないこうが起つたとか起りさうだとか云ふ事を、「毎日」子が何かのついでに仄めかした時、大川氏と須藤氏が平生いつになく朝早く社にやつて来て、主筆と三人応接室で半時間も密議してから
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
(当家は代々、内訌ないこうによって、いい家来を失うが、いつまで、この風が止まぬのか)
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
或ときは四層の屋のむねり、或ときは窓より窓にわたしたる板をみて、人の膽を寒からしめき。凡そこの學校國に、内訌ないこう起りぬといふときは、其責は多く此人の身に歸することなり。
衝動はいたずらに内訌ないこうするばかりだった、彼は急いだ、大通りを南へと。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
一族の中の内訌ないこう相次ぎ、北條氏の衰運は、著るしいものがあつた。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
内訌ないこうあるとは承わっておれど……」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「里見のは乱暴の内訌ないこうですか」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いつのばあいでも、内訌ないこうは敵をよろこばすだけのものだが、直義対師直の軋轢あつれきほど、「待っていたもの」と、南朝方を勇気づけたものはあるまい。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれどこんな言い方は、兄弟同士の、いわば感情の内訌ないこうに過ぎないもので、それを表面に出すほど彼もおろかな弟ではなかった。むしろ、表面では
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
北畠の家中へも、徳川方の内部へもかれはあらゆる機会をとらえては、内紛ないふん内訌ないこう素因そいんを植えて来たのである。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いずれにせよ、南朝方のよろこぶ足利家の内訌ないこうは、これによって大きな肉の裂け目を、白日はくじつにさらしてしまった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
曹操は著名な兵略家ですから、わざとそういう者を探して、お味方の内訌ないこうを計らんとしたかも知れません。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日幡の城はすでにやまいを内に持っていたものだった。小西弥九郎を躍らせた秀吉の策は、単にその患部へ外から熱を加えたにすぎない。果然、内訌ないこうの疾患は遂にうみを出した。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四国の政治的変化や、信長の遺臣中にも必然起るであろう内訌ないこうと自壊作用などを待って、おもむろに陣容をかため、ここに玉砕を選ぶよりは、万全な戦いをなすべきではあるまいか。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一つの世界では、爛熟らんじゅくが早い、腐敗に陥りやすい、人間の闘争本能の吐け口が内訌ないこうする、予測せぬ不満がまた起るでしょう。そしてついに再び自潰じかいを起し、また再分裂の作用をかもし出す。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まず、国内のうれいをやし、辺境の兵馬を強め、河川には船を造らせ、武具糧草をつみ蓄えて、おもむろに機を待てば、かならず三年のうちに、自然、許都の内より内訌ないこうきざしがあらわれよう。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平常の内訌ないこうは、こういう時、収拾のつかない混乱となって現われた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)