伊香保いかほ)” の例文
「明日香風」というのは、明日香の地を吹く風の意で、泊瀬はつせ風、佐保さほ風、伊香保いかほ風等の例があり、上代日本語の一特色を示している。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
見て行く中に、印度インドのコブラ(錦蛇にしきへびあるいは眼鏡蛇めがねへび)の玩具おもちゃがあったが、その構造が、上州の伊香保いかほで売っている蛇の玩具と同じである。
伊香保いかほも箱根も山の温泉には違いないが、少々便利すぎて僕等の所謂「山」に入るかどうか、これは考えものだと思う。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
いざ惠林寺ゑりんじ櫻見さくらみにといふひとはあるまじ、故郷ふるさとなればこそ年々とし/″\夏休なつやすみにも、ひと箱根はこね伊香保いかほともよふしつるなか
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
八重申しけるはわが身かつて伊香保いかほに遊びし頃谷間の小流こながれみ取りて山道のかわきをいやせしゆえはからず痢病りびょうに襲はれて命もあやうき目にひたる事あり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
近くは天明の初年に、上州伊香保いかほ木樵きこり、海尊に伝授を受けたと称して、下駄灸げたきゅうという療治を行ったことが、『翁草おきなぐさ』の巻百三十五にも見えている。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ここしばしの暇を得たれば、新婦とその実家よりつけられし老女のいくを連れて四五日ぜん伊香保いかほに来たりしなり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
負けず劣らず酷いのが、伊香保いかほを中心として榛名はるなをめぐって、前橋、高崎あたりを襲うやつ。この辺のは、ガラガラゴロゴロなぞという生易なまやさしい音ではない。
雷嫌いの話 (新字新仮名) / 橘外男(著)
さて、お話も次第に申し尽し、種切れに相成りましたから、何かい種を買出したいと存じまして、或お方のお供を幸い磯部いそべへ参り、それから伊香保いかほの方へまわり
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
渋川から、伊香保いかほ街道に添うて、道もない裏山を、榛名はるなにかかった。一日、一晩で、やっと榛名を越えた。が、榛名を越えてしまうと、ぐ其処に大戸おおどの御番所があった。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
六月の末母につれられて伊香保いかほへ行ってみたが、汽車に乗ってもどこか気細さが感じられ、手足の運動も十分とは行かず、久しぶりで山や水を見ても、それほど楽しめなかった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
左手に赤城あかぎ榛名はるなの山を眺め、あれが赤城の地蔵岳だの、やれあれが伊香保いかほの何々山だのと語りながら馬を進ませたが、次第に路が嶮岨けんそになって、馬がつまずいたり止まったりすると
私は鼓を抱えて、その夜の夜汽車で東京を出て伊香保いかほに来た。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
三月二十八日 高木峡川きょうせん送別。鶯谷うぐいすだに伊香保いかほ。越央子招宴。
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
伊香保いかほの事を書けと云ふ命令である。
忘れられぬ印象 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
伊香保いかほ神社の前にまで
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
いざ恵林寺ゑりんじの桜見にといふ人はあるまじ、故郷ふるさとなればこそ年々としどしの夏休みにも、人は箱根伊香保いかほともよふし立つる中を
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
毅堂の江戸に還り来ったころ大沼枕山は伊香保いかほに遊びまた房州に鈴木松塘を訪い、秋に入るをって家に帰った。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
伊香保いかほろのやさかのゐでぬじあらはろまでもさをさてば 〔巻十四・三四一四〕 東歌
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
一週間ばかり私が、伊香保いかほの温泉へいっている間に、六十くらいの下男げなん風の老爺ろうやが来て、麹町こうじまちのおやしきから来たものだが、若旦那わかだんな様が折り入ってお眼にかかりたいといっていられる。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
松島は夏になると、家では多勢の抱えの取締りをお篠おばあさんと小菊にまかせて伊香保いかほへ避暑に出かけることにしていた。小菊母子姉妹おやこきょうだいも交替で行くこともあり、春日町のマダムも出かけた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
助「温泉というと伊香保いかほや何かの湯のような訳でがんすか」
昭和七年七月三十一日 伊香保いかほに遊び、榛名湖にいたる。
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
桟敷がた伊香保いかほの街。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
今歳ことしのなつの避暑へきしよには伊香保いかほかんか磯部いそべにせんか、ひとおほからんはわびしかるべし、うしながら引入ひきいれる中川なかゞはのやどり手近てぢかくして心安こゝろやすところなからずやと
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
老人は箱根から帰った後もなく老妻を失い、話相手におたみをつれて伊香保いかほの温泉に行くのだという。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)