他人様ひとさま)” の例文
旧字:他人樣
このごろは角力に凝って他人様ひとさま怪我けがさせて片輪にして、にくしみの的になっている有様を見るに見かねて、或る日、おっかなびっくり
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
たヽつてる御方おかたがあつてさるのかも知らんけれど、あれでは今に他人様ひとさまの物に手を掛けて牢屋ろうやへ行く様な、よい親の耻晒はぢさらしに成るかも知れん。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
他人様ひとさまの手紙の中身を見ちゃあ悪いけれど、こういう場合だから、御免をこうむって用向をひとつ胸に納めておこうじゃねえか
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
爺「わりゃア勘太だな、まだ身持が直らず他人様ひとさまに御迷惑をかけアがるか、お女中さん何もおっかねえことアごぜいましねえ、この悪たれはわしが餓鬼」
画家ゑかきといふものは自分の「参考」のためには、若い婦人をんな裸体はだかにする事さへ平気なのだから、他人様ひとさまの土蔵をけさす事位は何とも思つてらない。
「相良さんの体を貸してくれないかってお言いなのかえ? じょうだんも大概にするがいい、お前、他人様ひとさまの体を、損料ぶとんや蚊帳かやと間違えちゃ困るよ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おつや およしなさいよ、他人様ひとさまの前でそんな色消しなお噂は……。そういうのを流言蜚語りゅうげんひごとか云って、この頃は警察の取締とりしまりが非常にやかましいんですよ。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
他人力ひとぢからなんぞをあてにせずに妹二人ふたりを育てて行かなければならないと思ったりすると、わたしのような、他人様ひとさまと違って風変ふうがわりな、……そら、五本の骨でしょう
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
他人様ひとさまにお見せすべきものではありませんが、貴方あなたがたには特別お出し致しましょう」。そういって主人が奥の方へ入った。しばらくして携えて来たのは、新しいむしろである。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
品のいい、どこから見ても大家たいけの若君らしい容貌、それ等はどうしても小間使風情の子とは思われない、お母様似だと他人様ひとさまは仰しゃる、達也は誰が何と云っても自分の児だ。
美人鷹匠 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
わたしどもは決して貸家にはいり込んで他人様ひとさまの荷を知らん顔して着服するような者じゃあごわせん。ねえ、あなたはここで鎧櫃を受け取ったそうですが、ちと悪戯わるさが過ぎませんか。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
うそんなお話はめに致しましょうね。でも貴郎、かかりあいになるといけませんから、他人様ひとさまにマンドリンの音を聞いたなどと仰有おっしゃらない方がようございますよ」折江は良人おっとの顔を
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
こんなに月日がたちますと、門野と口に出していって見ましても、一向いっこう他人様ひとさまようで、あの出来事にしましても、何だかこう、夢ではなかったかしら、なんて思われるほどでございます。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
何だか半分云つてあと半分ひつこめるやうですけれどかうやつてかいてゐるうちにも自分のことに思ひ至りますと決して他人様ひとさまに対して口幅つたいことは云へなくなりますからお許し下さい。
大威張に出這入ではいりしても差つかへは無けれど、彼方あちらが立派にやつてゐるに、此方がこの通りつまらぬ活計くらしをしてゐれば、御前の縁にすがつてむこ助力たすけを受けもするかと他人様ひとさま処思おもはく口惜くちをしく
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
わたし風情ふぜいで、これだけのお金をふだんこうして肌身につけていられるくらいなら、こんな稼業かぎょうをしておりません、これはお他人様ひとさまのお宝なのよ。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わたくしどもが浅慮あさはかな考えから思って見ますると、早いたとえが、我々どもでも何か考えごとをして居りますときは、側で他人様ひとさまから話を仕掛けられましても精神がほかせて居りますので
「しばらく他人様ひとさまとお話をしねえから、やたらに無駄口がたたきてえのさ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたしは泣きごとをいって他人様ひとさまにも泣いていただこうなんて、そんな事はこれんばかりも思やしませんとも……なるならどこかに大砲おおづつのような大きな力の強い人がいて、その人が真剣におこって
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
他人様ひとさまにさえ手を触れなければ、思いのままに生きて行ける世界——他人様もまた、それぞれ、思うままのことをしながら、自分たちも生き、わたしたちをも
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いつでも娘がいやがる、他人様ひとさまから、斯ういうい聟がありますと申込んでも厭がるもんだから、他人ひとが色々な事を云って困る、妙齢としごろの娘が聟を取るのを厭がるには、何か理由わけがあるんだろう
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「帰って下さい。見ッともないから。他人様ひとさまが笑いますから」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「でも、他人様ひとさまの秘密はね」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)