仁王におう)” の例文
今しも、二人づれの兄妹きょうだいらしい日本人の少年少女が、入口の受付で、仁王におうさまのように大きいロシア人から、どなりつけられている。
人造人間エフ氏 (新字新仮名) / 海野十三(著)
トビイ・モンクスは、まるで仁王におうのような大男だ。拳闘けんとうで耳がぺちゃんこにつぶれている。鼻も拳闘でぐんと曲がったすごいでこぼこ顔。
柔道と拳闘の転がり試合 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
正式の寸法の割合として、たとえば坐像二尺の日蓮にちれん上人、一丈の仁王におうと木寄せをして仏師へ渡します。結局つまり、仏師が彫るまでの献立こんだてをする役です。
運慶うんけい護国寺ごこくじの山門で仁王におうを刻んでいると云う評判だから、散歩ながら行って見ると、自分より先にもう大勢集まって、しきりに下馬評げばひょうをやっていた。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たとえば「河馬かば」とか、「仁王におう」とか、「どぶねずみ」とか、「胸毛むなげの六蔵」とか、いったようなのがそうであった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
あのとおり、辰の野郎がまだ山だしで、仁王におう様に足が何本あるかも知らねえんだから、こんなときにしみじみ教育してやったらと思うからこそいうんですよ
怪物は、まっぱだかで、仁王におうだちになっていました。その全身が、後光ごこうのような光でおおわれているのです。
夜光人間 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その力士の様子は日本の仁王におうと違って右の足を少し折り曲げ心に気味に左の足を斜線に突き立て、右の手を空に振り上げ左の手を伸ばして力を籠めて居る有様である。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
壇の上に仁王におうのような仏像が偉大な姿を見せていた。大異は壇の上へ飛びあがって、その仏像の背後うしろへ往った。仏像の背には人の入れるような穴がってあった。
太虚司法伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
何して喰べ何しに生きているのやら分らない浮浪人の徒が、仁王におうのいない仁王門の一廓いっかくを領して、火をいたり着物を干したり、寝そべったり、物を食ったり、えんとして
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おどろいたな。あの仁王におうのようなやつが、おれたちが司馬道場の者と知っているとは——」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
運慶うんけいが木材の中にある仁王におうを掘り出したと云われるならば、ブローリーやシュレディンガーは世界中の物理学者の頭の中から波動力学を掘り出したということも出来るであろう。
スパーク (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
或は上総かずさ庁南ちょうなんの草取仁王におうだの、駿河の無量寺むりょうじ早乙女さおとめ弥陀みだだの、秩父の野上のがみの泥足の弥陀だのというのが、そちこちの村にはあったのですが、その中でも一番に人間らしく
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
仁王におうのようなたくましい君の肉体に、少女のように敏感な魂を見いだすのは、この上なく美しい事に私には思えた。君一人が人生の生活というものを明るくしているようにさえ思えた。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
南無八幡大菩薩なむはちまんだいぼさつ、不動明王摩利支天まりしてん、べんてん大黒、仁王におうまで滅茶めちゃ苦茶にありとあらゆる神仏のお名をとなえて、あわれきょう一日の大難のがれさせたまえ、たすけ給えと念じてのさき真暗
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そのうち余は日本の力士を大きく仁王におうの如く米国水兵を小さく小児しょうにの如くに描き、日本の力士が軽々かるがると米俵を両手に一ツ一ツ持上げたるさまを見て米国水兵の驚愕きょうがくせるさまを示したるものと
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ドシドシと縁におもやかなる足音して、たけひく仁王におうの影障子を伝い来つ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
からびたる三井みい仁王におうや冬木立 其角
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
その仁王におうさまのような受付の腹の中で、なにかギリギリギリと変な音がした。とたんに受付のふりあげた腕が、そのままうごかなくなった。
人造人間エフ氏 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そしてたちまち、少年をこわきにかかえると、くるっと追手のほうをふりむいて、仁王におうだちになりました。
妖人ゴング (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「まるで仁王におうのようだね。仁王の行水ぎょうずいだ。そんな猛烈な顔がよくできるね。こりゃ不思議だ。そう眼をぐりぐりさせなくっても、背中は洗えそうなものだがね」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
余り当時人がかれこれいわなかったあの法隆寺の仁王におうさんは私は一見して結構だと思いました。
そ、そりゃ連れてこいとおっしゃれば、仁王におう様でも観音様でも連れてまいりますがね。
髪は紅元結べにもといで短くしばり上げ、金の型模様かたおきをした薄革うすかわ短袴たんこに玉の胡蝶こちょうの帯留を見せ、りゅうりゅうたる肉塊で造り上げられたようなその巨体は生ける仁王におうとでもいうほかはない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いどむ仁王におう
柔道と拳闘の転がり試合 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
ザアッと湯の波にさからって、朱塗しゅぬり仁王におうの如く物凄く突っ立った陽吉が、声を限りに絶叫したとき、浴客ははじめて総立ちになって振返った。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
このゆえどうと名のつくものは必ず卑しい。運慶うんけい仁王におうも、北斎ほくさい漫画まんがも全くこの動の一字で失敗している。動か静か。これがわれら画工がこうの運命を支配する大問題である。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この奇怪な五十男のうしろに、ひとりの美しい女が、またをひろげて仁王におう立ちになっていた。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
十一文甲高、仁王におう足というやつだ。ね! ほらほら。向こうへ曲がっておりますよ
仁王におうをよべ」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
艇夫長は、顔をたちまち仁王におうさまのように、真ッ赤にして、缶をけりかえそうとした。が、とたんに足をとどめて、床から缶をひろいあげた。
大宇宙遠征隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その第一世だった明石あかし志賀之助しがのすけは身のたけ六尺五寸、体量四十八貫、つづいて大関を張った仁王におう仁太夫にだゆうは身のたけ七尺一寸、体量四十四貫、同じく大関だった山颪やまおろし嶽右衛門たけえもんは体量四十一貫
相手は飛鳥ひちょうのようなす早さで、サッと身をかわし、今まで腰をかがめてヨボヨボしていたじいさんが、まるで青年のようなおそろしい元気でやみの中にスックと仁王におう立ちになったではありませんか。
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
小浜兵曹長は仁王におうのように突立ち、敵方の大将株らしい白人をぐっとにらみつけました。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
仁王におう様のおつれあいででも用いるたびなら格別、大和やまとながらの優にやさしい女性に十文半の大足は、不審以上に奇怪と思いましたので、右門は時を移さず奥へ通ると、そこにねこぜを丸めながら
モレロが仁王におうのように立ち上った。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)