一張ひとはり)” の例文
ほんの板囲いたがこいに過ぎない仮屋の藺莚いむしろのうえではあるが、白いふすまは厚くかさねられ、片隅には、職人図を描いた屏風びょうぶ一張ひとはり立てられてあった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
言合いひあはせたやうに、一張ひとはり差置さしおいた、しんほそい、とぼしい提灯ちやうちんに、あたまかほをひしと押着おツつけたところは、人間にんげんたゞひげのないだけで、あきむしあまりかはりない。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そして蚊帳かや一張ひとはりしかなかったので、夜おそくまで、蝋燭ろうそくの火で壁やふすまの蚊を焼き焼きしていた。そんなことをして、夜を明かすこともあった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
我空想はかの少女おとめをラインの岸の巌根いわねにをらせて、手に一張ひとはりの琴をらせ、嗚咽おえつの声をいださせむとおもひ定めにき。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
警官連はひとりに一張ひとはりずつことごとく提灯ちょうちんを持って立った。消毒の人夫は、飼料の残品から、その他牛舎にある器物のいっさいを運び出し、三カ所に分かって火をかけた。
去年 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そののち叔父はうすたれ、かれは木から落猿おちざるとなつて、この山に漂泊さまよひ来つ、金眸大王に事へしなれど、むかしとったる杵柄きねづかとやら、一束ひとつかの矢一張ひとはりの弓だに持たさば、彼の黄金丸如きは
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
二人ふたりしてさす一張ひとはり
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
仰向あおむけに、空をる、と仕掛けがあったか、頭の上のその板塀ごし、幕の内かくぐらして、両方を竹で張った、真黒まっくろな布の一張ひとはりむしろの上へ、ふわりと投げてさっと拡げた。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
家の中ではランプが今一張ひとはりついた、これが八幡やわた神社の入口である。
八幡の森 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
二人ふたりしてさす一張ひとはり
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
蔭に隠れて見えねえけれど、そこに一張ひとはり天幕テントがあります。何だと言うと、火事で焼けたがために、仮ごしらえの電信局で、温泉場から、そこへ出張でばっているのでございます。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
、こゝに、ひく草畝くさあぜ内側うちがはに、つゆとともに次第しだいく、提灯ちやうちんなかに、ほのしろかすかえて、一張ひとはり天幕テントがあつた。——晝間ひるまあかはたつてた。はたおともなくきたはうなゝめなびく。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その女学校の門を通過ぎた処に、以前は草鞋わらじでもら下げて売ったろう。葭簀張よしずばりながら二坪ばかりかこいを取った茶店が一張ひとはり。片側に立樹の茂った空地の森を風情にして、如法にょほうの婆さんが煮ばなを商う。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)